石を訪ねて三千里
1
「ん・・・着いたのか・・・」
気付いた時、ユアンは見覚えのある場所に立っていた。
ここはユウマシ湖。
ユアンはクラトスを助ける為に、クルシスの輝石を取りに戻って来たのだった。
「・・・なんとか無事に着けたようだな。だが、ホッとしている場合ではない。早く輝石を持って戻らなければ・・・」
といっても、テセアラベースまでは結構距離がある。別れる時のクラトスの状態からするに、のんびり歩いて行く程の時間は残されていないだろう。
「仕方がない。飛んでいくか・・・」
ユアンは意を決して、羽を広げるとおっかなびっくり空へと舞い上がった。
ユアンは天使とはいえ、余程の事がない限り羽は出さない。彼は高所恐怖症だったのである。
ずっと昔、天使としての力を手に入れて間もない頃に、ミトス達と共に試験的に空を飛んだ事がある。
あの時は、ミトスもマーテルも、初めて空を飛んだ事にいたく感激して上空から眺める景色を満喫していたようだったが、ユアンははっきり言ってそれどころではなかった。初めての事で力を制御しきれなかった彼は、一人どんどんと高みへと上って行ってしまったのだ。そして、高所恐怖症だったユアンは、見る見るうちに米粒のようになって行く景色を目にし見事に目を回してしまったのだった。錐揉み状態で落ちて行くユアンを助けてくれたのはクラトスだった。その後皆に散々馬鹿にされ、その事は今でも心の傷として残っている。
あれ以来、ユアンは滅多な事で羽は出さないようにしている。
「目をつぶって飛べば大丈夫だろう・・・」
嫌で仕方がないものの、これもクラトスの為だと、ユアンはテセアラベース目指してフラフラと飛んでいったのだった。
その頃テセアラベースでは、レネゲードの隊員達が、マナの木の前から突如姿を消した総統ユアンの捜索に(全力で)取り組んでいた。
ユアンが消えるのを目撃したゼロスとしいなが、その後全くユアンの姿を見ない事を不思議に思い、ベースに連絡してきたのだった。
「ああ・・・ユアン様は一体どこへ行ってしまったのだろう。」
「ユアン様がいないとこの先我々はどうしたらいいのか分からん・・・」
「こんな時ボータ様がいて下さればどんなにか心強かったか・・・」
などと口ではそんな事を言いながら、実際には、鬼の居ぬ間の洗濯と、思い思いに寛いでいたのだった。
「我々に愛想を尽かしてどこかに行ってしまったのだろうか?」
漫画本片手に煎餅をかじりながら、一人の隊員が言えば、
「どこかへと言っても、あの人は他に行くトコなどないだろう?」
欠伸を噛み殺しながらもう一人の隊員が言う。
「クラトス様と一緒にデリスに渡ってしまったのではないか?」
「しかし、あの人がマナの木を放って、行ってしまわれるだろうか?」
「まあ、何にしても口うるさい上司がいないっていうのは天国だなあ。」
しかしながら、そうは思っても、一応探索する振りをしていなければあとが怖い。
それで、交代で、一人はレーダーでユアンのマナを探りながら、残りの者はダラダラと時を過ごしていたのだが・・・
「おい!ユアン様のマナをキャッチしたぞ。」
「何だって!?馬鹿な、今までどんな事をしても見付けられなかったのだぞ。」
「どういう事だ!?今まで地に潜っていたとでも言うのか・・・(モグラじゃあるまいし)」
「俺だって訳が分からねえ。突如レーダーが反応したんだ。」
「もう帰ってきたのか・・・(もう少しどこかに行っててくれればよかったのに)」
「やばい。真っ直ぐにこっちに向かってくるぞ。」
大慌てで部屋の中を片付け始める隊員達。
その途端、
ズゴォ〜〜〜ン!!
何かが屋根にぶつかる物凄い音がしたと思ったら、ガラガラと崩れ落ちる天井と共にユアンが落ちて来たのだった。
「・・・・・・・」
こうして隊員達の束の間の命の洗濯は終わりを告げたのであった。
「だ、大丈夫ですか?ユアン様。」
「ん・・・着いたのか・・・」
ユアンは、この世界に戻って来た時と同じセリフを口にすると、むっくりと起き上がり周りを見回した。
「・・・・・随分とド派手なご帰還ですな・・・」
「すまんな。目を瞑っていたもので、着いたのか分からなかったのだ。」
「今までどこにいらしていたのですか?心配していたのですよ。」
「ん、ちょっとな・・・。理由はあとで説明する。とりあえず今はあれを・・・」
走り出すユアン。隊員達も慌てて後に続く。
ユアンが駆け込んだのは、研究室であった。以前はここで様々な研究が行われいたが、世界が元の姿に戻され平和になった今では倉庫と化していた。すかさず棚へと駆け寄ったユアンは、そこが綺麗に片づけられているのを見て目を丸くする。
「おい!ここにあった物はどうしたのだ!?」
「散らかっていたので片付けました。殆ど必要のないものだったので可燃ゴミに出したんですが・・・それが何か?」
いつも片付けなどしないくせに、何故こんな時に限ってお前達は・・・
イライラと隊員達を睨みつけたユアンは、ある事に気付きハッとする。
「・・・・可燃ゴミ?」
「はい。燃えるゴミです。」
「馬鹿ものが〜〜!!ここにあったのは、不燃ごみかプラスチックゴミではないか!!何故きちんと分別しないのだ!!」
「そうなんですか?私達はよく分からなかったもので、とにかく出しゃあいいかと思って・・・」
「そういういい加減な考え方が温暖化を招くのだ!いいか、ゴミは資源ゴミとそうでないのとをちゃんと・・・・」
(いかん。本来の使命を忘れる所だった。)
ユアンは危い所で我に返った。
「輝石は?輝石も捨てたのか!?」
「だって、もう必要ないでしょ?」
「ただ捨てる奴があるか!!あれはちゃんと砕いてだな・・・・いや、砕いちゃ駄目なんだった・・・・・待てよ、確か可燃ゴミの日は今日だったな?」
「はい。毎週、水曜日です。」
時計をみるユアン。
「まだ、ゴミ収集車は来てないな?」
「そういや、音、してないっすね。」
(まだ、間に合う!!)
ユアンは慌てて集積所へ向かう。再び後を追う隊員達。
果たしてゴミ収集車はまだ来ていなかった。すぐにゴミを漁りはじめるユアン。
「ちょっ・・・ユアン様?」
「お前達も手伝え。輝石を探すんだ。」
「は、はい。」
すぐさま全員が加わり、大規模なゴミ漁りが始まった。
片っ端から袋を開けて中を掻き回すが、目当ての物はなかなか見つからなかった。
「ない、ない、ない、な〜〜〜い!!何故無いんだ!!」
「誰かが持っていっちゃったんでしょうかね。」
「荒らしたゴミを再び詰め直し、丁寧に袋の口を縛ってか?そんな泥棒がいるか!!」
(どうする?このままではクラトスが・・・)
焦り始めるユアン。
すると・・・
「お〜い、みんなあ。何やってるんだあ?」
ヘッドホンでシャカシャカと音楽を聴きながら一人の隊員がやってきた。どうやら、仕事をサボって辺りを散歩してきたようだ。
「ありゃあ、ユアン様?いつお帰りになったんで?」
とぼけた面しやがって!と思うも必死に怒りを抑えるユアン。
「・・・お前も手伝え。輝石を探してるんだ。」
「輝石?」
「研究室にたった一つ残っていたクルシスの輝石だっ!!この馬鹿どもがゴミに出しちまいやがった!」
「え―っ!?無駄ですよ、そんな事。」
「何故、無駄なんだ!私はあれがどうしても必要なんだ!!」
怒り心頭のユアン。ヘッドホンの隊員は困ったように、
「だって、あれはここにはないんです。」
「???」
「先日、リーガル殿が持っていかれましたので。」
「◎?×&$⇔%#!!」
めまぐるしく変わるユアンの表情に、恐れをなして退避を始める隊員達。
ユアンの堪忍袋の緒は、ついにブチ切れた。逃げ惑う隊員達めがけてジャッジメントが降り注ぐ。
光の雨が止んだ後には、お焦げ状態の隊員達が倒れていた。
「いいか。私が戻るまでに、ゴミをきちんと分別しておくのだぞ。もし、出来てなかったら、こんなものでは済まんからな。命はないものと思え!」
ユアンは、そう言い置くと、再び翼を広げ、フラフラと飛び立って行ったのだった。
目指すはアルタミラ。
クラトスの為、ユアンは輝石を求めてひたすら飛びまくるのであった。
−つづく−