※出血及び痛い系の表現が出て参ります。苦手な方は回れ右をお願い致します。




 午後三時、リーガルは、自社の会長室でティータイムを楽しんでいた。
 彼は、根っからの仕事人間である。それは、あの命がけの旅の間でさえ仕事を忘れたことはなく、少しでも役立ちそうな情報は片っ端から手帳に書き留めていた事からも十分伺える。
 僅かな休息の時間である今でさえ、紅茶を片手に、その手帳を眺めながら次なる戦略を練っていた。
「うむ、これなどは商品化すればヒットするかもしれんな。あと、これは遊園地で使えそうだ・・・それとこれは・・・」
 彼は、大企業の会長という激務を心から楽しんでいるようだった。仕事がとにかく好きで好きで堪らないのである。
 この世界はリーガルにとってアイデアの宝庫であった。この貴重な知恵の泉を崩壊させようとしたユグドラシルは、やはり馬鹿だったのだと彼は思っている。
「馬鹿と鋏は使いようと言うではないか。どんなものでも使い方によっては金の卵になりうるのだ。うまくいかないとぶち壊すなど子供と同じではないか。結局ユグドラシルは子供だったのだ。」

 だが、あのデリス・カーラーンの中にもいくつか使えそうなものがあったな。
 ああ見えてユグドラシルは結構アイディアマンだったのかもしれない。
 私に弟子入りしていれば企画担当として優遇してやったものを・・・・・そう考えると、惜しい存在ではあった。

「さて、あのデリスにあったものの内どれをパクろうか・・・あの動く歩道は遊園地で使えるかもしれんな。」
 などと考えながら、ふと窓の外へと目をやったリーガルは眉をよせた。
「ん?あれは・・・・?」
 彼方の空でキラリと何かが光ったのである。そしてその光はどんどんと大きくなり、まっすぐにここに突っ込んでくる。
「うお〜〜〜???」
 リーガルは片手に紅茶、もう一方に手帳を持ったまま慌てて奥へと非難した。
 こんな時でさえ、紅茶とアイデア帳は絶対に離さない・・・さすが紅茶好きの企業戦士!

 ガシャ〜〜ンッ!!!

 会長室の窓は見事に粉々になり、中へ何かが転がり込んできた。
「・・・・・ユアン?」
 その見覚えのある姿を目にしたリーガルは、思わず呟いた。
 ユアンはガラスまみれの体を起こし、キョロキョロと見回しながら、
「ん?・・・着いたのか?」
 リーガルは窓へと駆け寄り外の様子を確認した。奇跡的に、下での被害は無いようだ。
 ホッとするリーガル。
「いったい何なのだ、ユアン。ユグドラシルの仇討ちか!?」
「そんな事せんわいっ!」
 ユアンは立ち上がって体に付いたガラス片をパタパタと払った。
「輝石だ!!」
「奇跡?・・・そうだとも。下手をすれば大惨事になっていた所だ。被害がここだけで済んだのは奇跡に近い。」
 リーガルの言葉に、ユアンはじれったそうに地団駄を踏んだ。
「ちが〜〜〜う!!輝石だ!とっととクルシスの輝石を出せ!!」
「クルシスの輝石?何の事だ?」
「ネタは上がってるんだ。どうしても惚けるというのなら力ずくでも・・・」
「待て、本当に知らんのだ。」
「貴様がテセアラベースから輝石を持ち出した事は分かってるんだ。部下の証言もある。」
「その部下の勘違いではないのか?そもそも私が輝石を持っていたとて一文の得にもならん。エクスフィア集めはロイドの仕事であろう?」
「ん?ロイド?」

 そう言えばそんな事を言っていたような・・・。
 だが、あいつは持っていなかったぞ?

「・・・では、貴様は持っていないと?」
「さっきからそう言っているだろう。」
「嘘ではあるまいな?」
「嘘などついても仕方あるまい。商売に使うにしてもエクスフィアは危険すぎるからな。」
「・・・・・・・」
「それよりユアン。貴公の額にガラスが突き刺さっているのだが、抜いたほうが良くはないか?」
「え?・・・・・」
 額へと手をやったユアン。その手がぬるりとした赤いものにさわった。
「ぬおおおおおおおおおお〜〜〜!ち、ち、血だあああああああ!!!」
 ユアンはリーガルを涙目で睨みつけた。そして、
「くっそおおお!覚えてろよ!!」
と、捨て台詞を吐くと、再びふらふらと飛び立って行ったのだった。

「・・・・・何を覚えていろと言うのだ?」
 肩をすくめるリーガル。
 そして、部屋の惨状を見まわして腕を組み考え込んだのだった。
「フム。何かを突き破り中へと入る、か・・・・・これは遊園地で使えるかもしれんな。」





 ユアンは、テセアラベースへと戻ってきた。
 隊員たちは、包帯を巻いた痛々しい姿でゴミの分別の真っ最中だった。
 先程収集車がきたものの、きちんと分別されていなかった為持って行ってくれなかったのだ。それより何よりも、隊員たちはユアンの怒りのほうが恐ろしかったのである。その当のユアンが戻って来た為に怯える隊員一同。
「ユ、ユアン様。お早いお帰りで・・・。御覧の通り、ただいま、全身全霊を打ち込み片づけている最中でございます。」
「隊員19号はどこだ?」
 懸命にヨイショするのを無視して、先程のヘッドホンの隊員を探すユアン。隊員19号は慌ててユアンの前に進み出た。
「お呼びですか、ユアン様・・・というか、えらくホラーなお姿ですな。」
 言われて初めて、ユアンは額にガラス片が突き刺さったままだった事に気付く。
「そんな事はどうでもいい。輝石の事だ。お前はさっきリーガルが持って行ったと言っていたな。」
「ええ。そうっすけど・・・それが何か?」
「奴は知らんと言っている。」
「それは嘘でっせ。確かに赤い髪のリーガルが・・・」
「赤い髪?」
「あれ?あの赤い髪の男がリーガルって言うんじゃなかったでしたっけ?」
 首を傾げる19号に、別の隊員が、
「馬鹿!赤い髪はジーニアスだろ。リーガルっていうのは剣玉持ったガキだろうが。」
「違うぜ。剣玉はロイドじゃなかったか?」
「ロイドはクラトス様の息子だろ。だったら持っているのは斧だろうが。」
「なんでクラトス様の息子が斧なんだよ。あれは確か二刀流じゃなかったか?」
「じゃあ、リーガルは誰なんだ?」 (リーガルはリーガルだろうが・・・)
「何言ってるんだお前たちは。リーガルは我々と同じハーフエルフの女だろうが。」
「馬鹿。そんな名前の女がいるか!それはコレットだろう。」

「・・・・・・・・」

 ユアンはこみ上げてくる怒りを必死に抑えつけた。
 こいつらが、ロイド達全員を知っていなくてもそれは責められん。彼らと交えなかった者もいるからだ。だが、テセアラの神子の事を知らんとはどういう事だ?
 レネゲードの作戦がことごとく失敗したのは私の所為ではない。こいつらが間抜けだった所為なのだ!

「黙らんか、馬鹿者共が   !!!」
 果てない不毛な議論を繰り返す隊員たちを、ユアンは怒鳴りつけた。
「19号!赤い髪の男に間違いないのだな!?」
「は、はいっ!間違いありません!!!」
「それはゼロス。テセアラの神子だ!よく覚えておけ!!!」
 ユアンは今一度隊員たちを睨みつけると、またまたフラフラと飛び立って行ったのだった。
 その姿を見送りながら隊員たちは、肩をすくめた。
「覚えておけって、俺たちはもう神子とは関係ないもんな。」
「ところで、赤い髪がゼロスだとすると、リーガルは?」
「確か、手枷をした奴じゃなかったか?」
「馬鹿。あれはリフィルだろう。リフィルはえらく凶暴だと聞いてるぜ。それで手枷をされていたのではないか?」
「そうか。なら、リーガルはどいつなんだ?」
「さあ・・・・???」
 それからしばらくの間、隊員たちは、ゴミ処理をほったらかして、リーガル談義に花を咲かせたのであった。




 セバスチャンは実にきれい好きであった。
 今日も今日とて、メイドたちに指示をしながら屋敷をピッカピッカに磨いていた。
「公務に疲れて帰ってくるゼロス様に、せめて我が家では気持ちよく寛いで頂く為に、いつも屋敷はきれいにしておかなければ・・・。これも私の使命と心得ている。」
 磨きあげられていく屋敷を眺め、満足そうな笑みを浮かべるセバスチャン。
 と、そこへ、玄関の戸が乱暴に蹴破られ、かなり薄汚れた男が入って来た。
「なんですかな?ここはお前の来るようなところではない。ほれ、百ガルド恵んでやるから、おとなしく貧民街に帰りなさい。」
 財布を出しかけたセバスチャンは、ギロリと自分を睨みつける男の顔を見て目を丸くした。
「おや?もしかしたら、四大天使のユアン様で?」
「見て分からんか!!!」
「私は、一度会った方の顔は忘れません。しかしながら、本日のユアン様はなにやら額に角が生えていたもので気付くのが遅くなってしまいました。大変失礼いたしました。」
「これは角ではない!不慮の事故でガラスが突き刺さっただけだ!!」
「それは、それは、気の毒な事でしたな。・・・・・・・ちょっと失礼。」
 ゼバスチャンは、全然労わりの気持ちがこもっていない声でそう言うと、ハンカチを取り出してユアンの足元に屈みこんだ。
「血が垂れております。折角きれいにした絨毯が汚れてしまう。手当なさったほうがいいのでは?」
 さっさっと血を拭き取ると、メイドを呼んだ。
「この方の手当を。それと、ここに染みが出来てしまった。ただちに拭き取るように。止血が済むまでは、手当は風呂場でやったほうがいいかもしれませんね。(磨き上げた屋敷が汚れてしまうから)」
「かしこまりました。」


 それから少しして、手当を終えたユアンは、居間のソファーにふんぞり返っていた。
「それで、本日はどのような御用件で?」
「お前に用などない。私が用があるのは神子だ。」
「はい、それは承知致しております。私とて貴方様に用などありませんからな。ですが、ゼロス様はただいま外出しております。それで私で済むことでしたら代わりにと・・・。」
「お前では話にならん。神子はどこに行ったのだ?」
「なにやら届け物があるとかで、ロイド様のところへ。」
「ロイドだと!?奴は今留守だぞ。・・・・・まさか、石を持っていなかっただろうな。」
「はい、この屋敷のようにきれいに輝いている石を持っていかれました。使いの者をたてましょうかと申し上げたのですが、大切なものだから直に手渡したいと仰られて。しかし、ロイド様がお留守となりますと、無駄足になってしまいますな。」
「出かけたのはいつだ?」
「三十分ほど前でございます。」
「・・・今から行けば追いつけるかもしれないな。」
 ユアンは、出された紅茶を一気に飲み干すと、
「邪魔したな。」
と、屋敷を走り出て行った。
「忙しないお方だ・・・。」
 ゼバスチャンは、カップを片づけながら呟いた。その目がふと一点に止まる。そこには、ユアンの体から落とし切れてなかった細かなガラス片が落ちていた。
「おお!何ということだ!!」
 セバスチャンは、直ぐにメイドを呼ぶと、ユアンが座っていた所を重点的に再度掃除をするよう言いつけたのだった。



 「また、空を飛ぶのか・・・・。今日はこれで何度目だ?」
 しかも、行き違いになってはいけない為、今回は目を瞑るわけにはいかない。

 くっそ〜、仕方がない。これもクラトスの為なのだ。
 あいつを助けられるのは私しかいないのだから・・・。

 ユアンは意を決して夕空へと飛び立って行ったのだった。



−つづく−