4
「ちょっと、何トロトロと飛んでるんだい!」
しいなが後ろを振り向き、怒鳴りつけて来た。
今、ユアンとしいなは、ひたすらメルトキオを目指して飛行していた。もちろんしいなはレアバードに乗っており、その後ろをユアンが付いて行っているわけだが、このユアンがしいなのスピードに付いていけていないのだ。
「…これでも精一杯スピードを出しているつもりなのだがな?」
そう、ユアンはかなりのスピードで飛行していた。しかし、しいなのスピードがその上をいっていたのである。よく見るとしいなの目は異様な輝きを放っており、血走っている。よくハンドルを握ると人格が変わる人がいるものだが、どうやらしいなもそのタイプのようだった。
するとしいなは、イライラしたように小さく舌打ちすると、なんと投げ縄を放ってきたのであった。それは見事ユアンの首にすっぽりとはまり、しいなが縄を引くと同時に締めあげてきた。
「グエッ!?ま、ま、待て。私は犬では……ギャアアアアア〜!!」
かまわず引っ張って行くしいな。
「こんなトロトロ飛んでいたんじゃ日が暮れちまうよ!」
しいなはこのまま引っ張って行くつもりのようだったが、ユアンの暴れようは相当なもので、これでは共に墜落してしまう。仕方なくひとまず着陸したのだった。
「わ、私を殺す気か!!」
「あんたがトロイからいけないんだろ!でも困ったね。これじゃあいつまでたってもゼロスに追い付けやしないよ。……仕方がない。後ろに乗りな。」
「はい?」
「聞こえなかったのかい!?後ろに乗りなって言ったんだよ。こうなったら二人乗りしていくしかないだろ?」
「いや…しかし…これは一人乗りなのでは?」
「そんな事言ってる場合じゃないだろ!それともウィングバッグに仕舞われたいのかい!?」
「…いえ、それは遠慮しておきます…」
ユアンは渋々と後ろにまたがった。その途端に物凄い勢いで発進するレアバード。
「ひぃ〜〜っ!!」
「ちょっと!!どさくさにまぎれて、どこにつかまってるんだい!」
「そ、そんな事言ったって…」
いきなりの発進に文句を言おうとしたユアンは、更にスピードを上げられた為に触っていた二つのお山をムギュッとつかんでしまう。しいなはそんなユアンに肘鉄をお見舞いした。
「触ったばかりか、モミモミするなんて…さてはあんたが変態だって噂は本当だったんだね!!」
そんな噂、どこで流されているのだ?
さすがのユアンも、これには頭に来た。
「冗談ではない。誰が好き好んでお前のような女の胸など揉むものか!私はマーテルのような清廉な女性が好みなのだ!」
「!!…それはあたしがあばずれだという意味なのかい!?」
「違うのか?」
「くぉのおおおおお!!もう許さないよ!この変態青毛魔人が!!」
「許さんだと?それはこっちの台詞だ!!四大天使に向かっての数々の雑言許すまじ!!」
飛んでいるレアバードの上でバタバタと始める二人。こんな状態でうまく飛んでいられるはずがない。しかも一人乗りの所へ無理矢理に二人で乗っているのだ。当然のごとく、レアバードは墜落してしまったのであった。
だが、さすがしいなは忍びであった。華麗な身のこなしで見事な着地を披露したのだが、一方のユアンは、高所恐怖症な上にそのような訓練はしていなかったので、無様な格好で地面に激突してしまう。
しいなは伸びているユアンには気を払わずに、あたりをキョロキョロと見回した。
「おや?ここはメルトキオの前じゃないかい。運がいいねえー。やっぱりこんな時に、日頃の行いがものをいうんだね。」
ニコニコと振り返ったしいなは、目を回しているユアンを蹴とばした。
「いつまで伸びてんだい。ほら、行くよ!!」
しいなはユアンの髪をつかむとずるずると引きずりながら街へと入って行ったのだった。
それから二人は早速城へと向かったのだが、やはりゼロスに会う事は叶わなかった。衛兵に尋ねてみたところ、確かにゼロスはここへ来た事は来たのだが、すぐに帰ってしまったのだと言う。一応屋敷の方にも行ってみたのだが、そこでも、一度戻っては来たものの、すでにアルテスタの家へと出かけてしまった後だったのだ。
屋敷を出てきた二人は、顔を見合せて溜息をついた。
「こんな事なら最初からここではなくアルテスタの所へ行っていればよかった。そうすれば先回り出来ていたかもしれん。」
がっくりと肩を落とすユアンの背中をしいなはバシッと叩いた。
「しっかりおしよ!過ぎた事をいつまでも悔やんでたってしょうがないだろ!セバスチャンの話ではゼロスが出かけたのは少し前だっていうじゃないか。まだ間に合うよ。さあ、乗った乗った!」
「また…これに二人乗りするのか?」
「今度はこの縄であたしの体とあんたの体を縛り付けて固定するから大丈夫だよ。あんたは目でも瞑って黙って乗ってればいいんだ。」
こうして暴走族しいなのおかげで短時間で目的地アルテスタの家へ着いた二人は、すぐさま家の中へと駆けこんで行った。
「ゼロスは次にどこへ行くと言っていた!?」
これが扉を押し開けると同時にユアンが放った第一声であった。
表にゼロスのレアバードが止められていなかったので、ここでも追い付けなかった事はもう分かり切っていた為だったのだが、そんな事を中にいるアルテスタに分かる筈もなく、彼は、怒鳴りながら突如乱入してきたユアンに思わず腰を抜かしてしまいそうになった。
「ユアン様?……一体なんの騒ぎです?」
「ここにテセアラの神子が来たはずだ。」
「は?…・はあ、ですが神子様ならお帰りになりましたが。」
「奴はクルシスの輝石を持っていただろう?」
「ええ、持っていました。あれには私も驚きましたね。まさかこんなところでまたあの輝石を目にするとは思ってもいませんでした。神子様は注文していたアクセサリーの受け取りに見えたのですが、その代金の支払いで財布を取り出した時に輝石を落としたんですよ。」
「落とした!?……まさか傷がついたりはしとらんだろうな?」
「落としたぐらいでは傷ついたりいたしませんよ。ちゃんと確認しましたしその点は大丈夫です。それから私は、物が物だけにどうしてそんな物を持っているのかお尋ねしてみたのです。そうしたらテセアラベースから持ち出して来たと言うではありませんか。ですから直ぐに返しに行くように言ったのです。」
「……で?奴はテセアラベースに行ったのか?」
「いいえ。どうやら神子様はロイドさんのエクスフィア集めのお手伝いをしたかったようです。さっき訪ねた時は留守だったがもう戻ってるかもしれないからと、まずはロイドさんの所へ行ってみると言っておりました。それでまだ戻っていないようだったら、シルヴァラントベースの方へ返しておくと。」
「シルヴァラントベース?……またあそこまで行かねばならんのか。」
「一体どうなさったのです?」
「…詳しくは説明している時間がないのだがな、実はクラトスのクルシスの輝石に傷がついてしまったのだ。それでベースに残っていたあの輝石と交換しようと思ったのだが。要の紋はロイドが応急処置をすると言っていた。石の方は取り換えればなんとかなるだろう?」
「え、ええ。どんな状態か見ておりませんので何とも言えませんが、通常ならそれで大丈夫なはずだと…」
「どちらにせよ、戻ってきたら一度お前に診せに来るつもりだ。その時はよろしく頼む。詳しくはその時にでも話そう。」
「はい、分かりました。」
それからユアンとしいなは、慌ただしくアルテスタの家を飛び出して行ったのだった。
再び猛スピードでシルヴァラント地方へやってきた二人。しいなはイセリア付近にレアバードを着陸させた。
「ここからは手分けした方がいいかもね。あんたは村を通ってダイク家に向かいな。あたしはシルヴァラントベースへ行っているよ。もしゼロスがやって来たら輝石を受け取っておけばいいんだろ?」
確かに、ゼロスは最終的にはシルヴァラントベースへ行くと言っていたようだし、その方が確実かもしれない。
「すまんが頼む。」
しいなは頷いて、再び飛び立って行った。ユアンはそれを見送るとイセリアの村へと駆けこんで行った。
はっきり言って、ユアンはこの村には用がない。目的地のダイク家は近くでもあるし羽を広げて飛んで行った方が早いのだが、今のユアンは相当焦ってしまっているのか、そこまで考えが及ばなかった。だが、今回に限ってはその事が幸いしたのであった。
実はこの時、イセリアではある騒ぎが持ち上がっていた。そして村にはコレットと、なんと探し求めていたゼロスまでもがいたのである。
「キャ ッ!!」
村の中へ入って来たユアンは、尋常ならぬ悲鳴を聞き付け、慌ててそちらへと向かった。悲鳴を上げながら逃げ惑う人々をかき分け更に奥へと進んで行くと、なんとそこには斧を振り回し暴れている赤い髪のデブ男がおり、コレットとゼロスが戦っている真っ最中であった。
(なんかあの男どこかで見たような…)
首を傾げるユアン。するとデブ男はしわがれ声でこう叫んだのだった。
「ガァッハッハッハッハ!皆殺しにしてやるわ〜、屑がっ!!」
「???……お前、もしかしてマグニスか?」
ユアンの声に、一斉に振り返る三人。果たしてそいつはマグニスであった。以前から太ってはいたが、今はそれに輪を掛け膨らんでおり、一見しただけでは熊のモンスターと見分けが付かぬ状態であった。
「おお、誰かと思ったら、元四大天使のユアン様じゃねえか!」
「…今でも四大天使なのだがな。まあ、実質二大天使となってしまってはいるが。というか、お前、生きていたのか?確かクラトス達にコテンパテンにやられたのではなかったか?」
「クラトス〜?へん、あの豚かぁ。あんな野郎に俺がやられるわけないだろうが!あの時はちょっくら手加減してやったんだ。にもかかわらず、あいつら四人がかりでタコ殴りにしやがった。」
「結局やられたのではないか。しかしクラトスを豚呼ばわりするとは、お前も相当の自惚れ屋だな。鏡を見た事ないのか?」
「俺様の中では顔の事はアンタッチャブルよ。とにかく俺は生き返ったのだ。新四大天使としてな。よかったらあんたも仲間にしてやってもいいぜ。」
「いや、遠慮しておく。お前と同類には扱われたくない。馴れ馴れしくしないでもらいたい。」
「なんでえ、仲間になりたくてやって来たんじゃねえのか?」
「お前なんかに用はない。私が用があるのは神子が持っている輝石だ。」
「へ?」
いきなり二人の会話に登場させられたゼロスは、キョトンとした表情を浮かべた。するとその横でコレットが、
「輝石は今私が持ってるよ〜。」
ユアンはギョッとしてコレットを見た。
(シルヴァラントの神子が持っているだと!?…なんかものすご〜く嫌な予感がするのだが。)
「とにかく、そんなトコにボーっと突っ立ってないで、あんたもこいつを退治するのを手伝ってくれよ。」
「何故私が…」
「そうだ!ユアンは我らと同じハーフエルフ。貴様ら屑の味方をするわけがないだろうが!!」
(だから馴れ馴れしくするなと言っただろうが!私が何故お前なんかに呼び捨てにされねばならんのだ!)
ユアンはだんだんイライラとしてきた。その様子を見たゼロスはニヤリとした。こいつを味方に引き込むには今しかない。
なにしろこのマグニス、何故か以前よりずーっとパワーアップしている。その為この戦闘も少々押され気味なのであった。ユアンは腐っても四大天使だ。こいつに加わってもらえば非常に有利になるに違いない。
「輝石が欲しいんだろ?手伝ってくれたら譲ってやってもいいぜ。」
(元々それは私の物だろうが!)
そうは思っても、現在神子達が輝石を持っている以上、それを盾にされては逆らう事もできなかった。仕方なく武器を構えるユアン。
「…今回だけだからな。」
「やったね!」
「貴様〜〜〜!ハーフエルフの癖に我らを裏切るつもりか!」
「我らって、お前一人しかおらんだろうが。それに生憎と私はお前が大嫌いなのでな。」
こうしてユアンが加わり、再び戦闘が開始した。
ユアンは以前のマグニスから想像するに直ぐに決着がつくと思っていたのだが、マグニスはただ体が膨らんだだけではなく、それに伴いパワーも数倍に跳ね上がっていた。自ずと苦戦を強いられる事となる。軽く舌打ちしたユアンは、一気に片を付けるべく後衛に下がると術の詠唱を始めた。
とその時、
「ローバーアイテム!」
コレットがそう叫びながら、マグニスの手前ですっ転んだ。いつもならコレットはそのまま敵から離れ、エヘヘと笑えば済む事だった。だが今回に限ってそれだけでは済まなかったのだ。転ぶと同時にその手から見覚えのある石が飛び出し、それはあろう事か、ゆるい弧を描きながらマグニスの方へと飛んで行ってしまったのである。しかもその時マグニスは、コレットのコケぶりを大笑いしている最中であった。当然の事、石は馬鹿笑いしているマグニスの口の中へと吸い込まれて行ってしまったのだった。
そしてマグニスは飛び込んできたそれをゴクリと飲み込んでしまった。
「ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
それを見たユアンは詠唱中だったにもかかわらず、悲鳴を上げた。
「エヘヘ…失敗しちゃった〜〜。」
「エヘヘじゃねえっ!」
ユアンは笑っているコレットを押し退けると、慌ててマグニスに駆け寄った。マグニスはひっくり返って目を白黒させている。
「吐け!吐け〜〜!今すぐ吐き出せえええええ!!」
だがいくら背中を叩いても石が出てくる様子はない。
「しばらくすれば下から出てくるんじゃねえ?トイレにでも座らせとけば?」
のんきに言うゼロスを、ユアンは睨みつけた。
「そんなババッチイ物をクラトスに渡せるか!それにこの辺りの便所は汲み取り式だろうが!!」
「天使様?…なんでそこに天使様が登場するんだよ。」
「あの輝石はクラトスを助ける為に必要だったのだ!早くあれを持って戻らなければクラトスが死んでしまうかもしれないのだぞ。悠長に下から出て来るのを待っている時間などないのだ!!」
目を見開くゼロス。
クラトスの為だと聞いては黙ってはいられない。ゼロスは途端に焦り始めた。
「な、な、ならよ、腹掻っ捌いちまおうぜ!」
「またお前は大胆な事を……七匹のこやぎではないのだぞ。それにこのブヨブヨした腹なんか裂いたら何か別のものが出てきそうな気がする。スライムとか…」
「そんな事言ってる場合じゃないっしょ。天使様の命がかかってるんだろ!?それにこいつ不死身だって言ってたし。」
「すぐに蓋すれば大丈夫だよ〜。臭いものに蓋って言うじゃない。私、針と糸持ってるよ〜。」
「消毒液をすぐに用意させよう。それですぐに消毒すればババッチクないぞ。線香も用意してあるから、もしもの時でもバッチシじゃ。」
いつの間にやって来たのか、ファイドラ婆さんまでが覗きこんでいる。
(こいつらは一体……)
しかし他に方法がない以上仕方がない。とにかく現在輝石はあれ一個しかないのだ。
「……仕方がないな。こいつには気の毒だが犠牲になってもらおう。」
「よし、そうと決まったらユアンのダブルセイバーで手っ取り早くやっちまおうぜ。」
「何故…私の武器で?」
「だって、こんな見るからに汚らわしいもの切ったりしたら、俺様の剣が汚れちまうっしょ。」
「私のダブルセイバーだって汚れてしまうのは同じなのだが?」
「大丈夫、大丈夫。」
何が大丈夫なのか分からなかったが、これもクラトスの為と、耐える事にする。
※手術シーンはあまりにおぞましい為、省略致します。
「やったぞ!やっと輝石を手に入れる事が出来た!!」
涙ながらに喜ぶユアン。
マグニスの命も助かり、彼は檻の中へと入れられテセアラの牢へと護送されて行った。
「やったな、ユアン!早く天使様へそれを持って行ってあげないと…」
「おお、そうだな…しいなに無事に手に入れた事を伝え、それからワープ地点のユウマシ湖へ向かうとするか。」
待っていろよ、クラトス。今、戻るからな!
−あとちょっとだけつづく−