2.創世記
クラトスはダイナスに自分が他の世界から来た事、彼は天使であり、自分の世界でどのような事があったのかを隠すことなく語った。ダイナスはクラトスの長い話を黙って聞いていたが、彼が話し終えると頭をふりながら呻くように言った。
「うむ・・・にわかには信じ難い話じゃな・・・」
「当然です。私自身、起こっている事が信じられないのですから。しかし、嘘ではありません。全て本当の事です。」
「いや、お主の話を嘘だとは思っとらんよ。これでも人を見る目はあるつもりじゃよ。お主は嘘をつける人間ではない。それに、嘘をつくならもっと現実味のある嘘をつくじゃろう。別世界からきたとか、クルシスや天使とか言われても誰も信じはせぬからな。」
ダイナスはクラトスをまっすぐに見つめて言った。
「だが、これで合点がいった。お主が光子(こうし)様を知らんのも、この村のほとんどの者が魔術を使える事に驚いていたのも。実を言うとわしは不思議だったんじゃ。この世界にいる者なら誰しも知っている事をお主は知らなすぎるからな」
ダイナスはにっこりと笑った。
「お主がお主の世界の事を話してくれたんじゃ。今度はわしがこの世界の事を話そうかの。
太古の昔、この星がまだ生まれたばかりの頃の話じゃ。6人の大いなる者がこの地に降り立った。わしらはその者たちを神と呼び敬っておる。
6人の神は、この星に大地を創った。草木を茂らせ、海や川を流し、風を吹かせた。火をおこし我等人間や動物の命を創り出し、光と闇でそれらを立体と化した。神々は我等人間がひとり立ちできるまで、各々の持つ力でわれらを導き世界を治めていくという協定をむすんだ。神々は協力し合いしばらくは平和な時代が続いた。
じゃが、6人の内の一人の神がこの地を我が物とするために協定を破ったのじゃ。
その神は己に忠実な配下のモンスターを生み出し、世界を混乱へと陥れた。さらに悪い事にこの神は6人の中でも1,2を争う程の力を持った闇の神じゃった。残る5人、光、水、地、火、風の神たちは力を合わせ闇の神と戦った。
それが、この地に伝わる『六神の戦』と呼ばれている長き混乱の時代の幕開けじゃった。
戦は数百年続いての。激しい戦いの末、5人の神たちは闇の神を封印することが出来たんじゃ。
じゃが、残った神々も無事ではなかった。酷く傷つき、力を使い果たしてしまっていた。
神々はそれぞれの力を我等人間に分け与えると、長い眠りに付いたのじゃ。
この地の者たちが皆、魔術を使えるのはその時、神から授かった力のおかげと言われている。
5人の神々は今も眠りについたままじゃ。
この世界に伝わる創世記じゃ。お伽話じゃよ。だーれもこの時代を見てきたわけではない。じゃが、それが真実じゃと思えるようなことがこの世界で繰り返されておるのじゃ。」
ダイナスはそこで言葉をきった。
「・・・それが、光子(こうし)様・・・というわけですか?」
「そういう事じゃ。神々が眠りについてから、光子様の長い歴史が始まるんじゃ。
闇の神が封印されたのはこの地の北の果てに浮かんでいる小さな島じゃ。そこには人も住んでおらんし、何もない所じゃ。
唯一つ存在しているのは、次元の門というものじゃ。そこに闇の神が封印されていると言われている。
神が封印されてから、人間達はこの地に自分達の世界を創り上げていった。争いごともなく、まあ、平和に暮らしておった。
今、この地を治めている王家もこの頃から続いている。王家は、神によって生み出された最初の人間の血筋といわれておるが本当の所はわからん。じゃが、この地にいる多くの者が微々たる魔術しか扱えぬのに比べ、王家のものはかなり高等な魔術を扱う事ができる。それで、自然にリーダー的立場に立つようになったのかもしれん。
さて、話を戻そうかの。闇の神の封印で平和な時が続いたのはよかったが、封印というものは時と共に効力を失うものじゃ。
500年の時を経て、それは、突然に起こった。神の施した封印が綻びを見せ始め、この地にモンスターが異常発生したんじゃ。
このままでは完全に封印は破られ、闇の神が再びこの地に降臨してしまうのも時間の問題となった。
さっきも話したとおり、ほとんどの人間は初級、よくて中級程度の魔術しか使う事ができぬ。王家の者とて次元の門付近の強いモンスターの相手をするのがせいぜいで、到底闇の神と戦う事など出来ない。
このまま世界は滅びてしまうのかと誰もが思ったとき、奇跡は起こった。神々は人間を見捨てはしなかった。闇の神と互角に戦う事ができる唯一の神、光の神の力を持つものが現れたんじゃ。
それまでは、火・水・土・風の四つの力を我等人間は受け継いできた。光の属性の魔術を扱える者はいなかったのじゃ。
光の神がなぜ人間に己の力を与えなかったのか、今でも解明できておらん謎なのだがな。」
ダイナスは一息つくと、お茶を飲みのどを潤した。そして再び話を続ける。
「この世界の人間が魔術を使えるのは何度も話したが、世の中には常に例外というものがある。中には全く魔術を使えぬ者もおる。お主も、もう知っているとは思うがこの村にも何人かそういう者がいる。本当はそんな事は関係ないんじゃよ。魔術など使えんでも、その代わり、力が強かったり、頭が良かったり、手先が器用だったりとそれぞれ長所があるものじゃ。この村のものはそんな事全然気にしとらん。
じゃが、人間というのはどうしても優劣をつけたがるものじゃ。今の世でさえ魔術が使えんというだけで酷い差別を受けておる位じゃ。当時は魔術が使えない者はモンスターとの戦いに役に立たぬものとしてほとんど家畜同然の扱いを受けていたとも聞く。
じゃが、その光の力を持つ者が、役立たずと蔑まれていた者たちの中から現れたのじゃ。」
「突然、魔術が使えるようになったという事ですか?」
「そうらしい。他の魔術は使えん。光の力だけなんじゃ。じゃが、光の術というのが重要だったんじゃ。闇の神が創り出したモンスターの弱点であるばかりでない。光の力だけが、弱まった封印をかけ直すことが出来る唯一の力じゃったんじゃ。
その者は今までの家畜扱いから一転し、光の神に愛される子『
それで、その初代の
それから、500年の周期で封印が弱まり、モンスターが現れ、世界が混乱するという歴史が繰り返された。
じゃが、その度に光の子が現れ、封印の旅をし世界は救われてきたんじゃ。」
「平和な時には『光の子』は現れないという事ですか。」
「そうなんじゃ。しかも光子様は決まって、魔術が使えない者の中から現れる。それまでの平和な時代には差別を受け続けている者から出てくる事から、最近では上辺だけは『光子様』と敬って見せていても心の中では闇の神に捧げる生贄程度にしか思っていない連中も多い。」
「生贄?」
「封印の旅に出た光子様で、戻ってこられた方は一人もおらんのじゃ。恐らく封印とは自分の命で施すものなのかもしれん。」
「!!」
「何度も繰り返される歴史の中、ついに王家は魔術が使えない者を一箇所に集め一つの村を作ってしまった。そして500年目が近づくとその村で儀式を行うよう通達を出した。
倒したモンスターから取り出した闇の力で魔方陣を作り出し、その中に一人ずつ入らせるのだ。相反する光の力を秘めた者がそこに入れば反応し力が覚醒する。それで光の子を探し出す手間をはぶいた訳なんじゃが・・・。
この儀式のせいで、魔術に耐性のない体の弱い者は気がふれてしまったり命を落としてしまった者もあると聞いている。それでも誰にも儀式を止めさせる事はできず、今でもそれは続けられている。
じゃが、報いというものはあるもんじゃな。4000年前。この悲しい歴史が大きく塗り替えられてしまう事件が起きたんじゃ。」
「・・・4000年・・・」
「500年が過ぎ、封印が弱まり光子様が現れる。そこまでは今までと同じじゃった。だが、一つだけ大きく違う点があったんじゃ」
「違う点?」
「その光の子は、光の術だけでなく、火・水・地・風全ての術を扱える魔術師として覚醒したのじゃよ。」
−創世記 終−