3.魔術師エビル
「その者の名はエビルという。 エビルは幼き頃からとても頭のいい子でな。15歳の時には、王立大学の学生が読むような難しい学術書を全て読破していた程と聞いておる。また、性格的にも両親思いの心の優しい子でな。世の中から虐げられている一族に生まれたにしては珍しいくらいの優秀な少年だったそうだ。
少年にとって不運だったのは、ちょうど500年の周期が訪れる頃にこの世に生を受けてしまったという事じゃった。
世界では相変わらず魔術が使えぬ者に対する差別は続いておったが、500年目の時が近づくにつれ、彼らに対する民衆の差別意識は憎しみへと変わっていき、それはもう酷い扱いになっていったという。
不思議に思うじゃろう。彼らの中から光の子が出なければ闇の神が復活し世界は滅びてしまう。感謝こそされ憎まれる事などあろうはずがない。だが、長い歴史の間に伝説は歪められていったんじゃよ。闇の神がいるから光の子が生まれるのではなく、光の子が生まれるから闇の神が復活してしまうのだとな。そもそも魔術も使えぬ出来そこないがなぜ光の神に愛されるのだと。
優位な位置に立つ者の弱い立場の者に対する嫉妬心のようなものじゃ。
奴らには何も与える必要などない。どうせ闇の神に命を捧げる生贄として生まれてきた奴らだ。殺される運命の奴など、その時がくるまで死なぬように生きぬようにしておけばいいのだ、とな。
世間がそのような風潮に流され、彼らに対する精神的、肉体的暴力が日常茶飯事となっていく中でも、エビルは本来の自分を見失う事もなく、成長していったのだ。
そして、運命の儀式の日がやってきたのだ。
エビルの母親は体が弱くてな。臥せっている事が多かった。その日も具合が悪く寝ておったそうだ。
本来、そのような者は儀式の順番を最後に回すようなっておる。
その間に光の子が覚醒すればその者は儀式を受けずとも済む。
なんといっても闇の力の中に入れられるのだ。弱った体では耐え切れぬだろうからな。
じゃが、その日村を訪れた儀式の担当官は、まるで見せしめのようにエビルの母親を一番最初に行ったのだ。
闇の力に耐え切れずに、悲鳴を上げ苦しむエビルの母親を見て担当官たちは愉快そうに笑っていたという。
そればかりではない。それを止めようとした父親さえも、エビルの目の前で切り殺されたのだ。
担当官たちは怒り、泣き叫ぶエビルを押さえつけ闇の魔方陣の中へ放り込んだ。そして彼は覚醒した。
彼はそのまま王の元へと連れて行かれ、王から労いと期待の言葉を受けると次元の門へ旅立つ事になった。
旅立ちの前日、エビルの両親の葬儀が行われた。
その時、誰も気付かんかったのじゃ。彼の覚醒が従来の光子達とは違っていた事に。
そして、エビルの中で悪魔の心が育ち始めていた事に・・・
エビルが旅立ち、王族も民衆も皆、これから訪れるであろう平和を心から喜んでおった。各地で祭りが行われ、誰しもが幸福感に酔いしれておった。その平和が光子の犠牲の上にある事を感謝する者など一人としていなかった。
彼らの心にあったのは、ただ、自分が生き延びられた喜びと未来への希望だけだった。
だが、その幸せは長くは続かなかった。数日後、この身勝手な連中に裁きが下される事になるのじゃ・・・・
それは、突然に起きた。まず犠牲になったのは、エビルの両親をなぶり殺しにした儀式の担当官達だった。彼らの家を無数のモンスターが襲撃し、家族もろとも惨殺されたのだ。
その後、天空から無数の隕石がふりそそぎ、各地で多大な被害を受けた。
モンスターもいなくなるどころか益々増えていき、いくつもの街や村が壊滅状態となった。
最初、彼らはエビルの旅が失敗に終わったのだと思った。光子の旅は危険を伴う。封印を成し遂げられずに命を散らした光子は過去にも何例もあった。民衆は新たな生贄を求め、魔力のない者達を襲い始めた。だが、そんな民衆の前にエビルが現れたのだ。
彼はモンスターを引き連れており、それに民衆を襲わせた。そして、己の持つ絶大な魔力を見せ付けたのだ。王家の魔力など比ではない、しかも光だけではなく、火・水・地・風の全ての力を併せ持っていた。それはまさに神の力だった。
エビルは次元の門で、封印を施す事をしなかった。彼はその強大な力を持って、中にいる闇の神を倒してしまったのだ。そしてあろうことか、彼は闇の力さえも己のものとしてしまった。
彼は宣言した。今この時から、この地の神は自分であると。そしてお前たちに地獄の苦しみを与え続けてやると。
それからというもの、エビルは次元の門に身を置き、世界を混沌へと陥れたのじゃ。復讐じゃよ。虐げられ続けた者の怒りがついに爆発した瞬間じゃった。 その日から闇の時代へと入り、それは今も続いている。」
「・・・しかし、絶大な力を持つとはいえ彼は人間でしょう。その事件が起きたのは4000年も昔の事だ。彼は今も生き続けているというのですか?」
「そう、エビルは人間じゃ。その得た力をもって肉体が強固になろうとも100年が限界じゃった。そこで彼は新たな体を求めたのじゃ。
100年に一度、選ばれし者が彼の肉体となるべく生贄として差し出されるようになった。そしてそれは、本来の彼の体に最も近し者、つまりは光の子が捧げられるようになったのじゃ。
こうして闇の神の封印の為に現れる光の子は、エビルの新たな体となるため命を捧げる、本当の生贄の為の存在に変わってしまったんじゃよ。4000年もの長い時の中、エビルは男となり、女となり、老人に子供にと体をのりかえながら生き続けてきた。今では彼の本当の姿を知る者はいない。
500年の周期は100年と短くなり、その度に光子となった者達の死ぬための旅が繰り返されておる。
そして、今がちょうど100年目にあたるのじゃ。ほんの数日前に新たな光子様が覚醒し次元の門に向け旅立ったと聞いておる。」
「・・・・・・・」
「じゃが、今回の
「まさか、それは・・・・」
「そう、今回覚醒した彼女は、今回は女なのじゃが、光の術の他にも、火、水、地、風の力も行使できる、全ての神に愛を受けた子。つまりはエビルと同じ魔術師として覚醒したんじゃ。」
「!!」
「これがどういう事なのか分からん。どうしてそのような事が起きるのかも分かっておらん。じゃが、皆、期待しておるよ。今回の光子様は何かをしてくれるのではないかと。本当の平和をもたらせてくれるのではないかとな。そして同時に恐れてもいる。彼女が新たなエビルとなるのではないかと。」
ダイナスは悲しそうな目でクラトスを見た。
「勝手なものじゃな・・・人間とは本当に勝手な生き物じゃ・・・」
「・・・・・」
「これが、この世界の歴史じゃよ。クラトス殿がなぜこの世界にきてしまったのか、どうしたら元の世界に戻れるのか、わしには皆目見当もつかぬ。じゃが、お主の世界の話を聞いて、ふと思ったんじゃ。この世界とお主のいた世界は似ていると。」
「ええ。私もそう思いました。神子が光子に、ミトスがエビルに変わっただけで、本質は同じだと。」
「その事が今回のクラトス殿の件に関係あるのかは分からぬが、鍵は次元の門にあるのかもしれん。もっと調べる必要があるが、王都の図書館でなら何か情報を得る事が出来るかもしれん。行ってみるかね。」
「ええ。そうするつもりです。」
「わしも共に行くとしよう。」
「!!・・・しかし、危険な旅になります。それにダイナス殿がいなくなってはこの村の者が困るのではありませんか。」
「この村の者なら大丈夫じゃよ。わしなどいなくともちゃんとやっていけるよ。お主の言うとおり、外にはモンスターがはびこり、危険な状態じゃ。だが、だからこそわしの魔術が役に立つと思う。わしならお主をりっぱにサポートできると思うのじゃがな。」
「それは、貴方に共に来ていただければ心強いですが。しかし・・・」
なおも渋っているクラトスにダイナスは笑みを浮かべた。
「わしはあんたが気に入ったんじゃ。あんたの役に立ちたいのじゃ」
「ダイナス殿・・・・・・・分かりました。それではお願いいたします。」
「決まったな。わしが居れば百人力じゃよ。」
こうして、クラトスはダイナスと共に、自分がこの世界に飛ばされた原因を突き止めるため、そして元の世界に戻る方法を探し出すために旅立つ事になったのであった。
−魔術師エビル 終−