4.ユアンの災難
その頃、ユアンはどうしていたのかというと、彼は発芽した大樹の世話に勤しんでいた。
「マーテル。お腹が空いたかい?よぉしよぉし、たーんとお食べ。」
じょうろでシャーシャーと水をかけながら語りかける。
「そうか、そうか、おいしいか?たくさん食べて早く大きくなるんだよ。お前の事はこの私が大切に守り育てていくからな。」
ユアンは地べたに這いつくばると頬擦りをはじめる。
「クラトスはデリス・カーラーンと共に旅立ったよ。・・・・そうか、お前も寂しいか?私も寂しい。だが、あいつの為にも私たちはこの地で頑張らねばならぬ。分かるな?マーテル。そうか、そうか分かるか?お前はいい子だな。」
「傍から見ていたら、ホント、変態だね。ありゃあ・・・」
「ま、元から変人なんだし、かまわねえんじゃねえの」
そんなユアンの様子を遠巻きに見ながら、しいなとゼロスが呟いた。
ユアンはこうして大樹の世話に明け暮れる毎日を過ごしていた。
時々しいなやゼロス。プレセアたちが様子を見に来るが彼の尋常ならぬ様子に恐れをなし数分で帰ってしまう。
だが、ユアンにとって他人にどう見られようとそんな事はどうでもいい事らしい。彼はこうしてマーテルの世話ができる事に無上の幸福を感じているようだった。
そして本日もユアンはその幸せを満喫し、一日を無事に終えるはずだったのだ。ところが今日はそうは行かなかった。ほとんど舐め回すように世話をしていたユアンの体を、突如光が包み込んのだ。そして、
「ほぇ!!?」
驚き、奇妙な声をあげたユアンはそのまま消えてしまったのだった。
「!!!」
今の今まで、目の前で脅威の変態振りを見せていたユアンが突然消えてしまい、しいなとゼロスは固まってしまった。
「・・・なんだ?あいつ何処行っちまったんだい?」
「・・・急用・・・思い出して帰っちまったのかね・・・・」
「それにしちゃあ、すごい早業だね。忍者並みの速さだよ。」
「・・・あいつ、人間離れしてるから、そういうのもありなんじゃねえの。」
「そ、そうだね。明日になればまたケロッとして変態振りを発揮してるだろうね。」
「そう、そう。心配するだけ馬鹿見るぜ。俺たちも帰ろうぜ。あいつみたいに暇人じゃねえんだし。」
二人は肩をすくめるとそのまま帰ってしまった。
普段が普段だけに二人ともユアンの身に何か起きたなどと考えもしなかったのである。
こうしてユアン失踪事件は、闇に葬られたのであった。
気が付くとユアンは奇妙な場所に来ていた。
目のまえで変な人たちが「ウララ〜!ウララ〜!」と歌いながら輪になって踊っている。自分は一段高い祭壇の様な所に立っており、足元を見ると奇妙な紋章のようなものが描かれていた。
「????」
首を傾げているユアンの前に見事な白い顎鬚をたくわえたじじいが歩み寄った。
「皆の者!ついに勇者様が降臨なさったぞ!!」
「勇者様〜」
踊りをやめ、全員がユアンに土下座する。
「勇者?・・・・・・いっや〜、それ程の者では・・・・・・あるかもな〜。わぁはっはっはっはっはっ!!」
一瞬きょとんとしたものの、すぐにユアンは頭を掻き掻き、高笑いした。
「そうでしょう、そうでしょう。見るからに叡智と気品を感じさせるお方じゃ。」
「そうか?いや〜参ったなぁ。普段からそう見えぬよう振舞っているんだが、身に付いたものはつい、滲み出てしまうものだなぁ。なにしろ古代大戦を終結させた四大英雄の中でも私の逸材ぶりは群を抜いていたからな〜はっはっはっはっは!」
「四大英雄!!皆の者、聞いたか!?これでもう大丈夫じゃ。この御方が悪魔エビルを成敗し、この地に平和をもたらせてくれようぞ!!」
「勇者様〜!!!」
「・・・悪魔?・・・」
「わしには一目見てわかった。この御方は素晴らしい力を秘めておる。エビルなどひとひねりじゃ。」
「!!・・・そうだろう、そうだろう。この戦闘の天才と言われたユアン様にかなう者などおらぬわ〜」
「おお!!なんと逞しき勇者様じゃ。」
「勇者様〜!!」
ユアンは訳が分からぬまま、それでも高笑いを繰り返していた。
ここだけの話だが、ユアンはおだてに弱かった。
「皆の者。祭りじゃ、祭りじゃ。この逞しき勇者様の降臨を祝おうぞ!!」
再び「ウララ〜ウララ〜」と踊りが始まり、ユアンには酒が振舞われた。
こうして大分祭りが進んだ頃になって、やっとユアンは隣に座る長老に尋ねたのであった。
「なあ、これって一体何?どうして私はここにいるんだ?」
ユアンが災難に遭い、煽てまくられている頃、ロイドはまだ救いの塔の前に居た。いまだオリジンは瓦礫の上に座り、ブッシュベイビーとなにやらゴショゴショ話しこんでいる。
「なあ、いつになったらクラトスの居場所が分かるんだよ。」
ロイドも瓦礫の上に座り、頬杖をついて眺めていたが、いつまでたっても埒の明かない状況に業を煮やし口を開いた。
「しばし待てと言っておる。」
「しばしってどんだけ待ってると思ってんだよ。こんなゆっくりしてたらクラトス死んじまうじゃねえか!それに、あんたさっきからそのリスと話してるけど本当に言ってること理解してんだろうな。話している振りだけで時間稼ぎしてんじゃねえの。」
「貴様、私を愚弄するのか!いかに主とて許さんぞ!!」
オリジンは勢い良く立ち上がり、ロイドを睨みつけた。
そこへ一匹のブッシュベイビーがやって来てなにやら「きーきー」とオリジンに報告した。
「なんだって?」
ロイドは欠伸をかみころしながら尋ねる。
「・・・クラトスの居場所が分かった・・・」
「!!」
今度はロイドが勢い良く立ち上がった。
「本当か!?じゃあ、早く助けにいこうぜ!!」
「・・・い・・・いや・・・・ちょっと待て・・・・・・」
「何なんだよ!分かったんだろう?居場所が。だったら早く行こうぜ。」
「す、すまん・・・さっき立ち上がった拍子に腰が・・・・・・」
「は?」
「・・・どうやら、ぎっくり腰になってしまったようなのだ・・・・・」
オリジンは腰を押さえて四つ這いになった。すぐさまブッシュベイビー達が駆け寄り、鍼灸の治療を始めた。
「・・・精霊が・・・ぎっくり腰なんかになるのか?」
「長きに渡りこの地を守ってきたが、わたしももう年だ。年寄りには労わりの心を持って接せよと教えられなかったのか若者よ。」
うつ伏せになったオリジンの周りをブッシュベイビーが忙しなく動き回っている。一匹は腰にモグサをのせ灸をすえ、もう一匹はここぞというツボに針を打っていた。
何とも言えぬ哀れな精霊王の姿に、ロイドは肩をすくめた。
「・・・なあ、あんた本当にオリジンなんだろうな。まさか偽者って事はないよな?」
「自分で呼び出しておいてそれはなかろう。私は正真正銘の精霊王オリジンである。」
そう言うオリジンは治療が気持ちいいのか恍惚の表情を浮かべている。
ロイドはため息をついた。
「どうでもいいけど早くしてくれよ。俺、急いでんだからさ。」
「分かっておる。すまぬな。迷惑をかける。このオリジン、一生の不覚じゃ。」
こうしてロイドはいま少し足止めを食う羽目になったのであった。
−ユアンの災難 終−