6.勇者?ユアン
セントール村は、グランディアの南西に位置する小さな村だった。
ここにくるまでの間、クラトスはダイナスからセントール村について聞いていた。
セントール村は、地の力を持つ者が自然に集まり出来た村で、古くから地の神を祭っている。ダイナスの友人であるアブソーブという老人を長老とし、昔からのしきたりに従い、地の神を崇め奉る儀式を行っている信仰心の深い物静かな村だという。
ところが・・・・
「何か・・・・・騒がしいですね・・・・・」
村の入り口にたどり着いたクラトスは、中から聞こえてくるやけに賑やかな、というより、うるさいと表現した方がしっくりくる状況に首を傾げる。
ドッシン、バッタンと何かが暴れているような音や、鼓膜が破れそうな物凄い奇声も聞こえてくる。笛や太鼓の音もするが、それらはほとんど音階を成してはおらず、やけくそに吹いたり、叩きまくっている感じだった。
「・・・地の神というのは、このような滅茶苦茶な雰囲気を好む神なのですか・・・」
「・・・・・」
取り敢えず二人は急いで村の中央にある広場へと向かう。
そこは、酷い有様であった。
広場のあちこちにとぐろを巻いた連中が横たわっており、辺りにはおそらく空であろう一升瓶が散乱していた。
真っ赤な顔をしたものが突き破らんばかりに太鼓を叩きまくり、その周りを奇妙な舞を踊りながら「ピーピー」笛を吹き吹き回っている者もいる。その音色にあわせて(合わせようがあればの話だが)数人の男女がこれまた訳の分からない振り付けで踊り狂っている。奇声を上げている者も居た。本人は唄を歌っているつもりらしいがどうひいき目に見ても歌には聞こえなかった。
酒の匂いにむせ返りながら、二人は長老の姿を捜し求めた。そして、程なくして、酒瓶をかかえて大いびきをかいている、アブソーブを見つけ出したのであった。
「こりゃ! なんという醜態を曝しておるんじゃお主は!!!」
ダイナスは、大口を開け涎を垂らしながら眠っているアブソーブを蹴飛ばした。
「ん・・・?」
アブソーブはトロンとした目でダイナスを見上げた。
「おお!!! 貴様も祝いの席に駆けつけてくれたのか!」
「祝いじゃと!! 何をふざけた事を言っておる! 今の世界の状況を考えれば祝いなどやっておる場合ではなかろうが!!」
ダイナスはお気に入りのクラトスの前で大恥をかかされ、怒り心頭に達していた。もう一発ケリを入れようとしたところをクラトスが必死に止める。
「何を怒っているんじゃ? 折角、世界を救って下さる勇者様を呼び寄せる事に成功したと言うのに怒る事はなかろうて。」
「「ゆうしゃ?」」
ダイナスとクラトスは驚き、同時に素っ頓狂な声をあげた。
「そうじゃよ。 にっくきエビルを成敗して下さるお方じゃ。 ほれ、あそこで華麗な舞を披露しておられる方じゃ。」
二人は、アブソーブが顎で指し示す方向へ顔をむけた。
確かにいた。華麗とはいい難い舞を披露している酔っ払いが一人。
その男は、どこから調達してきたのか布切れを頭に鉢巻のように巻きつけ、そこに火の灯された蝋燭を二本さしていた。そして、これまた何処から拾ってきたのか枯れ枝を両手に持ち、ラリラリと気持ちよさそうに踊っている。
その姿はまるで、○溝○史氏の書いた『○墓村』に出てくる男のようだった。(古すぎてわからんという方は、角○文庫で読んでみてくださいね。ちょっぴりホラーです)
クラトスは一目見て、その男に背を向けた。だが、いち早く男はクラトスに気付いてしまったようだった。
「クラトス? ・・・クラトスではないか! いや〜 こんな所で会うとは奇遇だなあ〜。」
それを聞いて、ダイナスとアブソーブが同時にクラトスを見る。
「知り合いか?」
「違います。知りません!あんな男は初対面です!断じて知り合いなどではありません!!」
クラトスは、そのままその場を立ち去ろうとしたが、むんずと腕を掴まれる。
「何を言っているんだ、クラトス。私たちは4000年来の大親友ではないか。私はお前のケツの穴の形まで正確に表現できるくらいなのだぞ。」
「ええい!酒臭い顔で近づくな。第一ケツの穴とは何だ!!そんな物、皆同じだろう!!!!」
「いや、お前のは星の形をしているぞ。それに少し小さめだ。これが本当の『ケツの穴の小さな男!』 なんちゃって〜!!」
ずごごごごごごご・・・・!
クラトスの全身から怒りのオーラが発せられる。
ユアンは気付かないのか、ケタケタ笑いながら先を続ける。
「それから、昔、ひどいでデベソでへそに1ガルドコインを貼り続けていたおかげで、今のお前のへそがカルデラ状態なのも知ってるぞ。それに、右の乳首にしみったれた毛が1っ本生えてるんだよな〜」
「いらん誤解を招くような事をいうな〜!!」
「ぐぎゃああああああああああ!!!」
ついに怒りが爆発したクラトスによって、ユアンは『聖なる鎖』を浴びることになったのである。
「酔っ払いは放っておいて、アブソーブ殿。少々伺いたいのだが・・・」
「な、なんじゃ?」
「先程、勇者を呼び寄せたと言っておられたが、別の世界にいたユアンをこの世界に呼び寄せる術があると言う事ですか?」
「そうじゃ、そうじゃ。わしもそれが聞きたい。そんな術があるなど、わしは初めて知ったぞ。」
「術ではない。地の神へ願をかけたのじゃよ。 ・・・まあ、儀式のようなものじゃ。地の神の紋章を印し、それに向かって皆で祈りを捧げるのじゃ。我等、地の民に昔から伝わる言い伝えがあっての。
『この地に災い起こりし時、時空より勇者降臨す。この者未知なる力を持ってこの地を平和へと導くであろう』
今がその時であると、我等は祈りを捧げ続けたのじゃ。そして、この方が現れた。」
アブソーブは、足元で潰れた蛙のようになっているユアンを指差した。
「ならば、この世界から、元に戻す事もできると言う事じゃな?」
「それは知らん。紋章を印した所へ呼ぶことは出来るが、戻す方法は知らぬ。」
「は?・・・なら、この呼ばれた勇者は事が済んだあと、どうするのじゃ?」
「さあ・・・なるようになるのではないか?」
「そんないい加減な・・・」
「全ては地の神の思し召しである。」
「・・・分かりました・・・それは、また別の方法で探すとしましょう・・・それと、もう一つ聞きたい事があるのですが、アブソーブ殿は、昔、ローネリー村と言う所から女性が一人失踪したという事件をご存知ですか?」
「・・・ふむ・・・もしかして、乳飲み子を残して母親が消えてしまった事件のことかな?」
「!! 知っておるのか!?」
「その手の事件にはわしも興味があってな。 昔、調べた事があるよ。」
「よろしければ、調べられた事を教えて頂きたいのですが・・・」
「何か訳があるようじゃの・・・分かった。わしが調べ得た範囲でだが、お話しよう。」
クラトスの真剣な様子に押され、アブソーブは咳払いをするとゆっくりと話し始めたのだった。
「わしは、以前から空間移動に非常に興味があってな。その研究をしておったんじゃ。この世界の他にも別の世界が存在しており、その別世界をこの目で見てみたいとな。そう思い始めた根底には、地の民に伝わる勇者伝説があったのかもしれん。こんな世の中じゃ。幻かもしれん伝説でも縋りたいと思うのが人情であろう?
研究を始めてしばらくした頃、わしは各地で起きている失踪事件に目を付けた。これまで直ぐ隣で同じ空気を吸っていた人間がいきなり消えてしまうんじゃ。普通に考えてもおかしな話だろう?
だが、調査を始めて直ぐに、挫折してしまった。どの事件も、それほどの意外性がなかったのじゃ。そのほとんどが魔物が多く出没している地域で、失踪後に死体や、死体が見つからない場合でもなんらかの遺留品が発見されていた。魔物にやられたと解釈するほかないケースばかりじゃったんじゃ。
諦めかけたその時、ローネリー村の事件を知ったんじゃよ。文献によれば、この女性の死体は発見されなかった。それに、乳飲み子をかかえた女性が、魔物が溢れている村の外へわざわざ出て行く理由も見当たらなかった。村人達にも慕われており、殺される理由もない。消えてしまう理由が全くなく、本当に不思議な事件じゃった。
わしはローネリー村の事をもっと詳しく調べていった。すると、他にも不思議な現象が起きている事が分かったんじゃよ。
狩人の目の前から猪が突然消えてしまったり、さっきまでそこに雄大な姿をみせていた大樹が消えてしまったりとな。
しかも、そういった現象は一ヶ所に集中しているわけではなく離れた場所で点々と起きていたのだ。
そこで、わしは一つの仮説を立てた。
ローネリー村は、次元の門に近い北方の地にある。これらの現象は、次元の門と言う特殊な存在によって生み出された空間の歪みによって起きたのではないか、消えた物はこの空間に引き込まれたのではとな。しかもこの空間は、一ヶ所に留まって在るのではなく、現れたり、消えたりをくり返しながら、場所を移動しているのではないか。そして、それがある日ローネリー村の中に現れ、たまたま近くに居たこの女性が引き込まれた・・・・・
だが、これは今もって仮説のままじゃ。ローネリー村があった辺りに行って調べてみたが、結局確証をつかめるまでには至らなかった。」
「時空間の転移か・・・・」
ダイナスは唸った。
「今まではそんな事は考えもしなかったが・・・」
「・・・それとな、この件を調べていて、もう一つ出てきた事があるのだが・・・・」
アブソーブはそこで言いよどんだ。
「・・・これは、噂じゃよ。真実かどうかは分からん。・・・この時、残された赤子の事なのじゃがな・・・」
「何じゃ? 貴様らしくもない。 はっきり言わんかい!」
「うむ・・・この赤子が、後のエビルじゃと・・・噂がたったのじゃよ・・・」
「!!!」
クラトスとダイナスは目を見開いた。
「・・・しかし、エビルには両親がいたはずじゃがの・・・つまりは養子だったと言う事か?」
「わからんのだ。 この赤子はその後どこかに引き取られたのは確かなんじゃが、その先がどう調べても分からん。当時、魔物に両親を殺されたりと、孤児はあふれておったし、なにより4000年も昔のことじゃ。なんの書類も残されておらん。」
「当時から、魔術を使えぬ者は一ヶ所に集められたと聞きました。エビルは、そうして出来た村の者だったと。」
クラトスが口を挟んだ。
「エビルは覚醒するまで魔術を使えなかった。 ならばその母親と噂されたローネリー村の女性も魔術が使えなかったという事なのでしょうか?」
「噂が本当だとしたら、その可能性は高いがな。 北方の小さな村じゃし無魔力者狩りを逃れたとしても不思議はない。だが、その女性については、年齢はおろか名前すら分からんのじゃ。もちろん魔力の有無もな。」
「・・・・・・・」
クラトスは難しい顔をして考え込んでしまった。
「じゃが・・・もしかしたら、噂は本当かもしれんぞ。」
「ダイナス殿?」
「ほれ、わしらがローネリー村の事件を知ったのは王宮の古文書からじゃっただろう。」
「王宮じゃと!!?」
アブソーブが驚きの声を上げた。
「そうなんじゃよ。変じゃろう?そんな一般人の事件を記した書が王宮の中に大切に保管されているなど考えられん事じゃ。クラトス殿も気付かれたと思うが、あそこに置いてある本のほとんどはエビルに関する物じゃ。
実は覚醒の儀式の担当官には王家の血筋の者がつく事になっておってな。エビルの件も元をただせば、当時の担当官が原因となっておる。この事が知れ渡れば王家の権威が失墜するばかりか、内乱にも広がりかねん。権力の上に胡坐をかき続けてきた王家には、暴徒化した民衆を押さえつけるだけの力はすでにもう失われていたんじゃ。それで時の王は、エビルに関する全ての事実を王宮へと封印した。それがあの部屋にあった書物なのだよ。
愚かな事じゃ。 真実を隠し通す事など出来ようはずがない。現にエビルの事など今では皆が知っていることじゃ。」
「・・・では、ローネリー村の事を記した本があそこにあったと言う事は、あの事件がエビルに何かしら関係があるとみていいですね。」
「うむ。恐らくな。 だが、どうしてクラトス殿はローネリー村の件にそんなにも興味を示すのだ?」
「あれを読んだ時に真っ先に時空間移動の事が頭に浮かんだものですから。」
そう言いながら、クラトスは僅かに目を伏せた。
「・・・そうか。」
ダイナスはそんなクラトスの様子をみつめていたが、あえてそれ以上問うことをしなかった。
「クラトス殿は元の世界に戻る方法を探しておられる様だが、それなら四神の地を回られたらいかがじゃ?」
そんな二人の様子を見ていたアブソーブが口を挟んだ。
「四神の地?」
「おお、そうじゃな。 その方が情報を得られる可能性が高いかもしれん。この世界には、火・水・地・風の神をそれぞれ祀っている所があってな。それを四神の地と呼んでおる。
ちなみに、ここセントール村は地の神を祀っている地の聖域なのじゃ。これらの地には古くから語り継がれている伝説がそれぞれあるといわれており、ほとんどがおとぎ話のような内容じゃが、もしかしたら役に立つ話もあるかもしれん。」
「おとぎ話とは失礼な。 現に勇者様が降臨なさったではないか。」
ダイナスの話にアブソーブが頬を膨らませ抗議する。
すると、今まで潰れた蛙状態だったユアンがいきなり復活し、胸をはって宣言する。
「そうだ!私が証明だ!! クルシスでも最強と言われた戦神ユアン様が降臨したのだ。エビルなど赤子の首をひねるようなものよ。」
「・・・ユアン・・・闇の神は、残りの五神が力を合わせても封印するのに数百年かかったそうだ。だが、エビルはたった一人でその闇の神を倒してしまったのだぞ。」
「!!!」
「まあ、戦神ユアン様が戦うのだから心配ないとは思うがな。 ユアン様には物足りない相手だろうが、この世界の人々を救うためだ。力になってやってくれ。」
クラトスはニコリと笑って、ユアンの肩をたたくとその場を立ち去ろうとした。
「待て、クラトス。お前も一緒に行くのではないのか!?」
「残念だが、私は勇者ではない。クルシス最強と言われたユアン様の足手まといになるのも申し訳ないからな。ユアン様がエビルを倒すまでの間、私は邪魔にならぬように、事を成し遂げたユアン様の帰還がスムーズに行われる為の調べ物でもしていようと思う。」
クラトスはひらひらと手を振ると行ってしまった。
呆然としていたユアンは、ダイナスとアブソーブに見つめられている事に気付き、はっと我に返った。
そして、立ち去っていくクラトスの背中に向かって叫ぶのだった。
「クラト〜ス!!カムバァ〜ック!!!!」
結局、何だかんだ言ってもクラトスは、お馬鹿な友人を放っておけず、一緒に旅立つことになるのであった。
−勇者?ユアン 終−