11.聖なる証
『よく来てくれました。運命の絆で結ばれし者たちよ。』
「・・・貴方が、水の神様なのですか?」
『そうです。あなた達が守護竜との試練に打ち勝ったおかげで、こうして目覚める事ができました。』
アンナは感無量の面持ちで、ただただ見上げている。
そんなアンナを横目で見ながらクラトスが一歩前に出た。
「神よ。私には分らない事がある。貴方達は闇の神との戦いで力を使い果たし眠りについた・・・この事は仕方がなかったのだろう。傷ついた体を休め、力を回復するのに長い時を眠り続けねばならなかった事も理解するとしよう。だが、エビルが現れるまでの数千年という年月があれば十分回復できていたのではないのか?それなのにエビルに人々が苦しめられているのを知りながら何もしようとしなかったのは何故なのだ。」
「ちょっ、ちょっと。神様に向かって何て口きいてるのよ。失礼じゃない。」
アンナが慌ててクラトスを止めようとした。
しかし水の神は別段怒った様子もみせず、微笑を浮かべたままクラトスを見詰めた。
「あなたがクラトスですね。なるほど・・・お母さまに気性も姿もそっくりですね。」
「やはり、あの幻影を見せたのは貴方だったのか。何故貴方が母を知っている?」
水の神はクラトスのその問いには答えようとはせず、
「あなたが言ったように、私達はエビルが現れても何もしなかった。いえ、出来なかったのです。エビルが次元の門に籠ってからまず最初にした事は私達四神の封印でした。エビルはまず四神の守護竜を己が力で操ってきました。元々守護竜は四神の魔力を具現化したもので、言うなれば四神の魔力の集合体のようなものなのです。ですからそれ以上の力を持つエビルに抵抗する事が出来なかったのです。守護竜を手中に収めたエビルはその竜の力を使い四神をそれぞれの地に封じ込めました。竜の力だけならともかく、それにエビルの力も加わってしまっていた為に私達にはどうする事も出来ず、ただ時を待つしかなかったのです。」
「時を待つ?・・・それに今貴方は四神と言ったな?五神ではないのか?」
「光の神は封じられなかったのです。あの時すでに光の神はこの地に居られなかったのですから・・・。闇の神との戦いの後、光の神は自分の力のほとんどをこの地に放出すると、ご自分は人へと姿を変え人間界へ降りられたのです。しばらくは我々にも光の神がどこにおられるのか察知できておりましたがある時を境にプッツリと消息を絶ってしまわれたのです。」
「もしかして、それがソアラ様なのかしら?」
「ええ、そうです。」
「アンナ?」
不思議そうに首を傾げるクラトスにアンナは説明した。
「さっきの幻影ってやつの中に出てきたの。女の人の一人がソアラ様って呼ばれていたのよ。でも力を放出したって仰ったけど、私達人間で光の力を使える者が光子だけなのは何故なのですか?」
「いいえ。光の力は誰にでも使えます。あなた方人間がそれに気付いていないだけ。ほら、よく痛かったり苦しかったりした時にそこに手を当てると痛みや苦しみが少し薄らいだりするでしょう?あれは光の力なのですよ。光子は何かのきっかけでそれに気付かされた者にすぎません。別に特別な存在という訳ではないのです。魔力を持たぬ者と言われている人たちの中から光子が生まれ続けているのは、ただその人たちが他の力に反応しにくく光の力に反応しやすい体質だっただけの事ではないでしょうか。」
「そ、それじゃあ、だれにでも火、水、土、風、光の全ての力を使う事が出来るという事なの?」
「ええ。我々はその為に人間に力を与えたのです。一部の人たちだけを特別に愛している訳ではありませんから。」
水の神はそこで、持っていた杖を掲げた。
すると二人の前に二つの光が現れた。それは反射的に差し出された二人の手の中で剣へと姿を変えた。
「今日あなた達にここへ来てもらったのはそれを授ける為でした。これは光の神が残された物。邪な物を打ち破る力を持つ聖剣です。しかし、それはまだ真なる力を発揮する事は出来ません。五神の力全てを宿す事によりはじめて聖剣としての力が覚醒するのです。私の力はすでに入れてあります。あと火、土、風、光の四つの力を入れなくてはなりません。あなた達は火竜はもう倒したのでしたね。では、火の神も目覚めているはずです。まずは火の聖地で火の神の力を受け取るのがいいでしょう。」
「そう言えば幻影の中でソアラ様はこの地に戻ってきたって言っていたわ。でも力を使う事が出来ないって・・・力を封じ込めた物が今ここにはないって言っていた。でも光の神は力をこの地に放射したのよね。これって・・・」
「それは神としての力そのものという事です。我々の力を振るう元となるもの、神の証とでも言えばいいのでしょうか・・・つまりそれがなければ地に放った力を再び集めたとしてもそれを神としての大きな力として行使できないという事です。」
「でもそれじゃあ聖剣は完成できないわ。光の力が足りない事になる。」
「まずは光の神に会ってみる事です。会わなければ何も始まりません。」
「さっきの幻影の中で、ソアラ様のお顔はよく見えなかったんです。隠れてコソコソと見ていたから。顔も分からない、光の聖地がどこかも分からないじゃ探し出すなんて無理です・・・」
「大丈夫。あの方は、必ずご自分の方からあなた達の前に姿を現します。」
「そう・・・なんですか?とにかく頑張るっきゃないわよね。まずは火、土、風の三神の力をもらう事が先決ね。それが済んでから光の神は探すとして・・・・ね?クラトス。」
アンナは同意を求め先程から黙り込んでいるクラトスに声をかけた。
しかしクラトスは手の中の聖剣を見詰めたまま返事をしない。
「クラトス?」
「・・・何故・・・」
「え?何?どうしたの、クラトス。」
クラトスは顔を上げ水の神を見た。
「・・・アンナがこの聖剣を授かるのは分かる。彼女は光子なのだから。しかし、何故私もなのだ?本音を言ってしまえば、私は元の世界に戻りたいだけなのだ。この世界の事など私には関係ない。しかも私がここに飛ばされた事で息子までが巻き込まれてしまっている。私はもうこれ以上この件に関わるのはごめんだ。」
「本当にそう思っているのですか?この件に自分は何も関係がないと?」
「・・・・・」
「そう、あなたはもう気付き始めている。あなたをここに呼んだのが誰なのか。そしてその目的も。それでもなお、自分は関係がないと言い切れるのですか?」
「わ、私はっ!!」
「確かに大きな意味で言えば、あなたは巻き込まれてしまった事になるのかもしれません。あなたには何の責任もない。しかし、これはあなたに定められた運命なのです。あなたがアンナと出会ったのは偶然ではありません。この世界が変わる為にはあなた達が二人揃う事が必然だった。」
「やめろ!そんな話は聞きたくない!!」
「・・・クラトス・・・今回の事を通して、あなたが生まれてきた意味をあなた自身で考えていきなさい。あなたが幼き頃から抱え込んできた負の感情を浄化するチャンスでもあるのです。それがあるが故に今まであなたは激しすぎる運命に流され続けるしかなかった。クラトス・・・運命から逃げる事はできないのですよ。自ら立ち向かっていきなさい。そうしなければあなたはこれからも過ちを繰り返す事になります。」
「・・・確かに私は物心ついた頃からずっと『あの人』の事を引きずって来た。だが、もう『あの人』は生きているはずもないし、この世界にいるとも思えない。この世界に来たとて何の解決にも・・・」
そこまで言ってから、クラトスはハッとして水の神を見た。
「まさか・・・『あの人』は・・・」
「それは自分の目で確かめる事です。あなたも、アンナも、そしてエビルも、全ては“運命”という名の糸で繋がっているのです。
あなた方が全てを知った時、もつれてしまったその糸も解れていく事でしょう。」
水の神は、優しい微笑みを浮かべ深い慈愛のこもった目で二人を眺めた。
「さあ、お行きなさい。愛する子供たちよ。そして決して忘れないでほしいのです。私達はいつでもあなた方のそばにいます。全ての神があなた方を見守っている事を!」
−聖なる証 終−