1.出会い
四神の地を回る事にしたクラトス一行は、まず『火の聖域』と呼ばれている、イグネウス村を訪れる事にした。
「なんか、異常に暑いところだな。」
ユアンは、どこから取り出したのか団扇でパタパタと扇ぎながら愚痴った。
「ごつごつとした岩場で歩きにくいし、繊細な私には少々きついものがある…お?あれはなんだ!?」
キョトキョトと辺りを見回していたユアンの視線が一点にとまる。その目がきらりと光を放った。それはあたかも、珍しい玩具をみつけた幼児のようであった。
クラトスは嫌な予感がした。こんな目をしたユアンは決まって何かを仕出かす。案の定ユアンは突然に走り出した。
「待て、ユアン! 勝手に動き回るな!!」
クラトスの制止を振り切り、目的地へ走りよったユアンは脳天気に手を振りながら言った。
「お〜い、クラトス。なんだか赤い川があるぞ。水浴びでもしようではないか!」
“赤い川” と聞いてダイナスの顔色が変わる。慌ててユアンを止めようとするが、すでにユアンはそれに手を突っ込んでいた
「ぎゃあああああああああ!!!」
「こ、これは…火山から…流れ出た溶岩で出来た…川なんじゃよ…」
走ってきたダイナスは息を切らせながら説明した。
「そういう事はもっと早く言ってくれ!!」
「後先考えずいきなり手を突っ込んだお前が悪い。」
クラトスがファーストエイドをかけながら言う。
「それに、突っ込む前に熱いと気が付かなかったのか?」
「……」
「まあ、とにかくこの辺りには冷たいものは存在しないものと考えておいた方がいいかもしれんな。」
「イグネウスの奴らはよく生きていられるな。」
「あの村はこことは離れた所にある。そこには大昔の噴火で出来た湖があってな。人が住める環境にはなっておる。」
「しかし、こんな人外魔境のような所を通らねば行けぬ村など誰も訪れまい。さぞ寂れた村なのだろうな。」
ユアンの吐き捨てるような言葉に、ダイナスはのほほんとした顔で答えた。
「いや、火の神にお参りに来るものは結構おるよ。なにしろ我等人間は火の神に命を吹き込まれたと言われておるからな。」
「!!? 命がけの巡礼だな。へたすりゃ、そのままあの世逝きではないか!」
「少々まわり道になるが平坦な街道がちゃんとある。そちらを通ればよほどの事がなければ命を落とすことはないじゃろう。」
「…ならば何故われらはこのような棘の道を歩んでいるのだ…」
「せっかくグランディアの世界に来たんじゃ。色々な所を観光した方がよかろう?」
ダイナスの言葉にユアンはあんぐりと口をあけた。
そんなユアンにクラトスも言う。
「勇者に棘の道はつきものではないのか?苦難を乗り越え魔王を倒す。これこそファンタジーの醍醐味だろう!」
「…クラトス…お前、ロールプレイングのやりすぎではないのか…」
ユアンは、もう、どうでもよくなり、それからは黙って二人のあとを付いて行ったのだった。
灼熱の岩場を抜けるとそこには砂漠が広がっていた。
「岩場の次は砂漠か!?」
ユアンは団扇をパタパタしながら、再び愚痴った。
「うるさい奴だな。嫌なら付いてこなければよかろう。お前はここに残ってもいいのだぞ。」
「冗談ではない。こんな所にずっと居てみろ。それこそ燻製になってしまう。」
「ならば、黙って付いてくるのだな。」
二人の会話にくすくすと笑いながら、ダイナスが彼方を指差した。
「ほれ、点々と緑の箇所が見えるじゃろう?あそこはオアシスで水もある。あれらを辿って水を確保していけば干乾びる事はない。」
三人はひとまず一番近い所にあるオアシスを目指して歩を進めた。そして、ひとまずそこで休憩をとることにした。
「この辺りはモンスターがあまり出ないのですね。」
木陰へと腰を下ろし、クラトスはダイナスに尋ねた。
ここに来るまで魔物に遭遇はしたものの、その回数は数えるほどで、それ程強いものにも出会わなかった。
「聖域付近には魔物はあまり出んのじゃよ。神の力が強いために闇を寄せ付けない為と言われておるがな。ほれ、セントールの近くでもあまり遭遇せんかったじゃろう。それでも北方に位置する風の聖域では結構出没するという話じゃがな。」
ダイナスはそう言うと、よっこらしょっと腰を上げ、水場へと水を汲みに行った。
「なあ、クラトス。あのじいさん、やけに元気だよな。」
そんなダイナスを見ながらユアンが囁いた。
「疲れを見せぬようにしているのではないか?」
クラトスはそう言ったものの、ユアンの言うとおりだとも思っていた。
砂漠はただでさえ体力を消耗する。しかも自分達は火山近くの灼熱の岩場をも越えて来たのだ。正直、体力には自信のあったクラトスも相当な疲労を感じていた。ましてやダイナス程の年齢の老人には、もっとつらいはずだ。
だが、ダイナスはそんな様子は微塵も見せる事なく一行の先頭に立ち道案内をしている。
「精神力が違うのか…しかし、なんにせよ不思議な人だ。」
クラトスは、ダイナスという老人の持つ不思議なパワーのようなものにだんだんと惹かれていく自分に戸惑いを覚えていた。
それからも一行は、オアシスに立ち寄りながら砂漠を歩き続けた。
三人の疲労が限界に達し始めた頃、ダイナスが立ち止まり一方を指差した。そちらに目を向けると、今までのオアシスとは比較にならぬほどの大きな緑が広がっていた。
「あれが、イグネウス村じゃ。村の中に湖があってな。裏手にある山の川の水が注ぎ込んでくる。だからここの水が枯れる事はほとんどない。湖の周りには木々が生い茂っているし、火山とは砂漠を挟んだ反対側に位置しているから、あの灼熱の影響もほとんど受けない。この辺りは砂漠のわりに涼しいじゃろう?」
ダイナスはニッコリと笑って二人に説明した。
「あそこに見えるのが火山で話をした街道じゃよ。あそこを通った場合、ぐるりと山を迂回する事になるからずいぶんと遠回りになるが、その代わり道は平坦で苦にならない。」
そこまで話した時、突然村のほうから凄まじい咆哮が聞こえた。
「モンスター?しかし、聖域にはあれほどの咆哮をあげる魔物は出ないはずではなかったのか?」
三人が急いで村へと駈け付けると、そこでは、三つ首を持つ巨大な竜族のモンスターが暴れていた。
「まさかこんなものがこの聖域に!!?」
ダイナスが驚きの声をあげた。クラトスは素早く剣を抜くと魔人剣を放つ。しかし、竜の硬い鱗にはじかれてしまう。吐き出される炎を避けながら斬りかかるもほとんどダメージは与えられなかった。
「クラトス、気を付けろ!右側の首が火を吹こうとしているぞ…よし!ナイスタイミングだ!…お、次は真ん中の首から…」
「ユアン!!実況解説はいらないから、お前も戦わんか!!」
「すまない、火山で火傷した所が痛くて戦えないのだ。」
「この役立たずがっ!!!」
「ロックブレイク!!」
後方でダイナスが援護の術を放つが殆ど効いてはいないようだった。
「サンダーブレード!!…お?少しは効いたか?」
何だかんだ言いながらユアンも加勢する。
「これは火竜じゃ。お主、水の術は?」
「私は雷専門だ。光系なら少し扱えるが時間がかかる。」
「なんでもいい、早くやらんかい!!このままではクラトス殿が危ないぞ。」
「それは困る。」
ユアンは羽を広げ詠唱を始めた。ダイナスは一瞬驚き目を見開くが、彼も直ぐに次の詠唱に入った。
クラトスは疲労した体を叱咤しつつ、詠唱を邪魔させぬよう必死に防いでいたが、もうそれも限界だった。
すると、
「タイダルウェーブ!!」
背後から声が聞こえたと思ったら、大津波が押し寄せ魔物を呑み込んだ。
「ぎゃあああああ」
咆哮をあげ苦しむ魔物に、ユアンのエンジェル・フェザーがヒットした。
火竜は地に伏し、そのまま息絶えた。
クラトスは肩で息をしながら、がくりと膝をおとした。ダイナスが駆け寄り、回復魔法をかけ始める。
「良かった…間に合ったみたいね。」
礼を言おうと振り返ったクラトスは、その人物を見て息をのんだ。
笑顔で立っているその女性を前に呆然としていた彼は、しばらくしてようやく震える声でこう言ったのだった。
「…ア、アンナ!?」
−出会い 終−