2.光の子



ねえ、クラトス。
もし、生まれ変われるとしたら、私はもう一度人間として生まれ変わりたいわ。
そして、また貴方と出会うの。
ささやかな二人だけの結婚式を挙げて、それからまたロイドも生まれて・・・
小さな村の小さな一軒家で三人で幸せに暮らすの。

ねえ、素敵だと思わない?
だからクラトス・・・私が死んでも悲しまないで。
私は必ずもう一度、貴方の前に現れるから・・・





 クラトスは木に背を預けてぼんやりと広場にある祭壇を眺めていた。祭壇では先ほどの女性が祈りを捧げている。



 「・・・ア、アンナ!?」
 命の恩人のその女性を見た時、クラトスは思わずそう呟いてしまっていた。そして戸惑うクラトスに彼女はこう言ったのだ。
「その名前で呼ばれるの、随分と久しぶりな気がするわ。」

 彼女は、今回覚醒した光子(こうし)であった。名前はアンナ。
覚醒してからは『光子様』と呼ばれるようになった為、名前で呼ばれる事などなかったという。
 光子は、次元の門へと向かう前に『四神の地』を回って祈りを捧げていくのが慣わしとなっており、彼女もその慣わしに従いこの地を訪れたのだった。そして今回の事に遭遇した。

 彼女は驚くほど“アンナ”に瓜二つであった。クラトスが、昔アンナが語っていた夢物語を思い出してしまう程に・・・


 クラトスは目を閉じ苦笑を浮かべた。

 何を考えているのだお前は。
 生まれ変わりなどあるはずがないだろう?
 彼女は、あの“アンナ”ではない。全くの別人だ。



「クラトス。」
 クラトスが一人考えに沈んでいると、ユアンが声を掛けてきた。
クラトスはユアンを見る。
「・・・あの女・・・」

「彼女はアンナではない!全くの別人だ!」
 クラトスはユアンの言葉を遮り、彼の言わんとした事を否定した。

「・・・・・」

「アンナは死んだのだ。14年前に私がこの手で・・・」
「クラトス!!その先は言うな。もう、罪の意識に苛まれる必要はないだろう?あれは事故だったのだ。仕方がなかったのだよ。もう、いい加減解放されてもいいのではないか?」

 クラトスがユアンに反論しようとした時、一人の青年が二人に近付いてきた。

「おい、お前ら! さっきからアンナ、アンナってちょっと馴れ馴れしいんじゃないか!?」
「フン! アンナ違いだ。あの女の事ではない!お前こそ他人の話を盗み聞きするんじゃない!!」
 ユアンが吐き捨てるように言う。
「『あの女』じゃない。『光子様』と言え!それに盗み聞きじゃない。聞こえちまったんだよ!」
「随分と都合のいい耳だな!」
 まさに掴みかからん勢いのユアンを抑え、クラトスは青年に尋ねた。
「お前は確かアンナと一緒にいた・・・」

こ・う・し・さ・ま と言え!!!」

 青年は二人を睨みつけた。そして親指で自分を指差し、
「そうだよ。俺は光子様の護衛をしている剣士ストレイ様よ!!」
 得意げに胸を張って答えた青年を、クラトスは眺めた。

 青年というには少々幼さを残している。ロイドより少し上くらいの年齢だろうか。剣士と名乗るだけあって剣を佩いている。
 だが長い間戦いの中で生き、数えきれぬ程の剣士を見てきたクラトスの目にはお世辞にも強いとは映らなかった。どちらかというと弱い部類に入るのかもしれない。

 クラトスは、長年の癖でつい相手の力量を推し量ってしまった自分自身に苦笑した。

「あ、お前、今、俺を馬鹿にしただろう!!」
 クラトスの微苦笑を見たストレイはすかさずいきりたった。

「いや、貴公の事を笑った訳ではない。己の所業に苦笑しただけなのだが、気に障ったのなら申し訳ない。」
 ストレイは“貴公”という言葉に気をよくしたようだ。
「ヘン!俺様の勇姿を見て、自分の弱さに自己嫌悪していたって訳か?まあ、光子様に助けられた弱っちいお前らに比べ俺は光子様をここまで守ってきた・・・ええと・・・そう!敗戦の剣士だからな!」
「・・・それを言うなら、『歴戦の剣士』ではないのか?敗戦じゃ負けちまってるぞ・・・」
 ユアンが呆れたように呟く。
「う、うるせえ!ちょっと言い間違えただけだ!」

「こいつロイドに似てないか?」
 ユアンに小声で言われ、クラトスはため息をついた。

「とにかく俺は光子様を無事に次元の門へ送り届ける大切なお役目を担っているんだ。お前らとは違うんだよ。」

 ストレイの言葉にクラトスは眉を顰めた。

「・・・成程な・・・彼女を殺す手助けをしている訳だ、お前は。」
「なんだとぉ〜!!」
「お前もこの世界の人間なら、次元の門へ行くという事がどういう意味を持つか十分承知していると思うのだがな。」
「・・・こ、光子様は・・・世界を救うんだ。だから俺は少しでも役に立ちたくて・・・こうして・・・」
「悪魔に捧げる生贄を運んでいる訳だ。」
「!ちっ、違う!俺は・・・」
「どんなにきれい事を並べたてようと同じ事だろう?お前達の平和は光子の犠牲の上に成り立っている。世界を守る為と言いながら、今まで何人の光子を殺してきた?結局、お前たちは自自分達さえ助かればそれでいいのだろう。」


「違うわ! 私は犠牲だなんて思っていない。」

 いつの間にか祈りを終えたアンナが三人の後ろに立っていた。
「たとえ今度の光子が違う人だったとしても私は次元の門へ行くつもりだった。覚醒した光子様を守って私も一緒に・・・。その為に幼い頃から剣術を習ったし、色々な方面の知識も蓄えてきたわ。」
「何の為に?光子でもない者が次元の門へと行った所で何の役にも立つまい。エビルの代替えの肉体としても用を成さぬし、いかに戦う術を身につけたとしてもエビルの絶大な魔力の前には意味をもたぬ。」
「そうかもしれない。でも、運良く私は今回光子として覚醒する事ができたもの。そんな心配する必要なくなったわ。」
「運良く?」
「そうよ。私は光の子として生まれた事を誇りに思っているわ。」
「・・・光子となって世界を救う為に喜んで命を投げ出す、か?とんだ自己犠牲の精神だな。」

 クラトスは侮蔑したようにアンナを見た。

「違うわ。私は死にに行くんじゃない。エビルを倒して全てを終わらせるために行くの。」
「!!そんな事は・・・」
「無理だと思う?私は光・火・水・土・風全ての神の加護を受けているわ。エビルが覚醒した時とおんなじ。だったらエビルにできて、私にできないって事はないでしょ?」

 アンナはニッコリと笑って呆然とする三人に言い切ったのだった。



−光の子 終−