3.依頼


「私が全てを終わらせて見せるわ。」
 アンナは強い意志を秘めた瞳でクラトス達を見つめた。

「本気で言っているのか。」
「ええ、もちろん本気よ。エビルの支配の下で怯えて生きていくのはもうたくさん。私がエビルと同じ力を授かったのはこんな世の中を変える為だと思うから。」
 クラトスはアンナをしばらく見つめていたがやがて溜息をつくと言った。
「己の力を過信しない事だ。お前はまだエビルを見た事がないのだろう?相手の力も分からぬのに一人で全て出来ると思うのは危険だ。死を早める事になりかねん。」
「どっちにしてもエビルの所へ行けば私は死ぬのだもの。だったら足掻けるだけ足掻いて見せるわ。私って何もしないで諦めるのは嫌いなの。それに私を殺したら乗り移る体がなくなってしまうのよ。エビルだって困るでしょ。」
 アンナの言葉にクラトスは目を見開いた。そして何か考え込むように遠くを見つめる。
「どうしたの?」
 突然のクラトスの変化にアンナは戸惑った。
「…いや…なんでもない。ならばお前はどうあっても一人でエビルに戦いを挑むというのだな。」
「だからさっきからそう言ってるでしょ。あなたしつこいわよ。」
 口を尖らせそう答えたアンナは何かを思いついたように顔をほころばせ、クラトスを見た。
「そうだわ!そんなに私の事が心配なら、私の護衛にならない?さっきの火竜との戦いぶりをちょっとだけ見たけどあなた強そうだし。助けてあげたお礼をもらってもバチあたらないわよね?」

「護衛なら俺がいるじゃないですか!!」
 ストレイが抗議の声を上げる。

「護衛は多いに越した事はないでしょう。ねぇ、どうかしら?光子様と共に世界を救った英雄として後世まで語り継がれるわよ。」
「ごめんだな。英雄になどなりたいとも思わないし、この世界がどうなろうが私の知った事ではない。私には他に優先事項がある。お前の相手をしている暇などない。それに礼ならさっき言ったはずだ。」
 冷たく言い放ったクラトスにアンナの顔色が変わる。

「何よそれ!!あなたって最低ね。だいたい世界がどうなろうと関係ないってどういうつもり?世界が滅びたらあなただって無事では済まないのよ。あなた何様のつもりなの?」

「私たちは勇者ユアン様御一行だ!!」

 クラトスの代わりに胸をはって答えたユアンをアンナはまじまじと見つめた。
「勇者?」
「セントールの地の神に選ばれし異世界の戦士だ!!」
「セントールにはここに来る前に行ってきたけど、そういえばアブソーブ様がそのような儀式を行っている最中だって仰っていたわね…それじゃあ、あなたがその勇者様なの?」
 アンナの視線は完全にクラトスの方を向いていた。

「おい、私を無視するな!!勇者は私だ!!」
 ユアンは顔を真っ赤にして怒鳴った。

「あなたが?…ごめんなさい。どう見てもあなたが勇者には見えなかったものだから。」
「それはどういう意味だ…?」
「だったら私達、目的が同じなんじゃない。同志って事よね。なら手を組みましょうよ。」
「あいにく私は『勇者ユアン様御一行』には加わっていないのでな。ユアン様、共に行かれたらいかがですか?」
「それはないだろうクラトス。私一人にこいつらのお守りを押し付けるつもりか?」
「お守とは何よ!!そんな事いう奴はこっちからお断りよ!」

 三人がギャーギャーと騒いでいると、そこへダイナスがイグネウス村の長老と共にやってきた。

「何を騒いでおるのじゃ!!」

 ダイナスの一喝で騒ぎは一瞬にして収まった。

「クラトス殿、こちらはイグネウスの長老ブラント殿じゃ。」
「お初にお目にかかる。この村の長を務めるブラントと申します。」
「クラトスです。」

 ブラントは落ち着きのある物静かな老人であった。セントールのアブソーブとは正反対と言ってもいい。

「クラトス殿は聖域に伝わる伝説を調べておいでと聞きました。我がイグネウスに伝わる話には実は先程の火竜がかかわっておりましてな。あれは火の神を守る神獣なのです。」
「神獣?それがなぜあんな事になったのですか?」
「ええ。その事なのですよ。四神の地にはそれぞれの神々が眠りについていると言われているのですが、その神を守護しているのが神竜なのです。彼らは我々人間の前に姿を現す事はほとんどない。しかし、止まった時が動き出す時神竜は我らの前に姿を現すと言われているのです。それがわが地に伝わる伝説なのです。」
 ブラントの説明にアンナが首を傾げた。
「『止まった時』ってどういう事かしら…だっていつだって時間は流れているものでしょう?」
「ええ、そうですね。ですから、この『時』というのはただ単に時間を指しているのではなく今のこの世界そのものを指しているのではと私は考えているのです。この数千年というものエビルに支配されたこの世界は時が止まっているようなものです。誰一人としてエビルを倒しこの世界を元のあるべき姿にもどす事が出来る者はいなかった。
だが、今回は違う。光子様はエビルと同様の力を持ち覚醒され、そして地の聖域の言い伝え通りにユアン殿が召喚された。何かが動き始めようとしているのです。」
「だから神竜が現れたのかしら…やはり言い伝え通りに?」
「私はそう思っております。」

「おい、それじゃあ私達は火の神の守護竜を殺してしまった事になるのではないか!?」
 ユアンがふるふると身を震わせながら言った。

「大丈夫です。火の神がおられる限り守護竜が死ぬ事はありません。再び生まれ変わりましょう。ただ、言い伝えにある竜とは火竜のみを指している訳ではないのです。ですから今回の事は他の聖域でも起こりうる事なのです。」
「あんな竜が各聖域に現れたら大変じゃないの!」
「おそらく神々は守護竜を使わす事で我らの事を試されているのでしょう。我らにこれからの世界を担っていくだけの力があるのか否か…。そこでクラトス殿とユアン殿にお願いがあるのです。光子様はまだ他の聖地を回らねばなりません。恐らく行く先々で神竜との戦いの試練を受けねばならぬでしょう。ですからお二人に光子様へ力を貸して欲しいのです。お二人がグランディアの人間ではなく、この世界の事に関わりがない事は重々承知しております。そこを曲げてお願い致します。わが地の事に巻き込むようで申し訳ないのですがどうか我らを助けて下さい。」
 ブラントは二人に深々と頭を下げた。
 ユアンはクラトスを見て、
「私は勇者としてこの地に召喚された身だ。今更逃げ出す訳にはいかんだろう。だがクラトス、お前はどうする?」
「…私は、なぜ自分がこの世界に来てしまったのか、その原因を知りたいだけだ。この世界で今起きている事など興味はない。第一、エビルがこの世界を虐げるようになったのには人々の中にある差別意識が起因している。いわば自業自得だろう。私には関係のない話だ。」

 クラトスの言葉にアンナとストレイが怒りを露にするが、ダイナスが制した。
 クラトスは目を伏せ話し続ける。

「…と、言い切る事ができればいいのだがな…。しかし、この世界の現状と、私がここに来てしまった事は何か繋がりがあるとしか思えない。ここまで関わってしまった以上、同行しない訳にはいかぬだろう。」
「それでは力を貸して下さるのか?」
「ええ。少なくとも四神の地を回る間は共に行きましょう。」
「有難う御座います!」
 ブラントはクラトスの手を取り再び深く頭を下げた。ダイナスやストレイも嬉しそうに笑みを浮かべる。

そんな中、一人アンナだけは不満げにその様子を眺めていた。


−依頼 終−