9.水竜との戦い
アンナは腰のベルトに差していたナイフを抜いた。それを向かってくる水竜に向って投げた。ナイフは的を外すことなく竜の右目に突き刺さった。
「ぐぎゃあああああああ〜〜〜〜〜!!」
アンナとてナイフ程度で致命傷を与えられるとは思っていない。竜が怯んだ隙に少しでも離れた位置に移ろうと考えたのだ。
しかし、「今だ!」と思い、走り出そうとしたがどうにも足が動かない。
な、何?腰が抜けちゃったとか!!?
馬鹿馬鹿!なんて情けないのよ、私!!
アンナはそれでも必死に足を動かそうとするが、ガクガクと震えてうまく進む事が出来ない。そうこうしているうちに、とうとう足がもつれて転んでしまった。
「きゃっ!」
両手をついて四つ這いになったアンナに影が落ち、周りがふと暗くなる。
恐る恐る振り向くと、そこには残った左目で彼女を睨みつける水竜の姿が…
「いやああああああああ!!!!」
アンナはもうすでに半泣き状態になっていた。
ガキイ〜ンッ!!
「クラトス!!」
水竜の角が、まさにアンナに突き刺ささんとしたその瞬間、クラトスの剣がそれを防いだ。
クラトスは2、3回突き攻撃をした後、魔人閃空破を放った。そしてのけ反った竜の懐に飛び込むと空破衝で後方へ吹き飛ばした。そして気絶している竜から目を離さぬまま、アンナを助け起こす。
「済まなかった…だが、よく持ち堪えてくれたな。」
アンナはクラトスを見た。
そう言う彼も満身創痍であった。服は所々裂けてそこから血が滲んでいる。しかも治りかけていた傷が、突き上げられた時に再び開いてしまったようで出血が酷い。こうして立っている事すら辛いはずである。
「作戦は今まで通りだ。お前は援護に徹しろ。心配するな、もうあんなヘマはしない。」
「無茶よ!!このままじゃ貴方が死んでしまうわ!」
「言ったはずだ。それでもやらなくてはならない。お前の最終の目的はエビルを倒す事だろう?ここはその中間地点に過ぎない。ここを通過しなければエビルまで辿り着く事はできないのだぞ。」
「でも…」
「お前は言うなればこの世界の最後の希望なのだ。こんな所で死なす訳にはいかない。その為なら私の命などどうなっても…」
「クラトス!!」
アンナはクラトスの言葉を遮ると、駆け寄って彼にヒールをかけた。
「貴方は私に命を預けると言った。ならば預けられた者として言います。死に急ぐ事は許さない。水の神は私達二人を呼んだのよ。だから私達は二人揃って神の前に立たなければ意味がない。お願いだからもう二度と自分の命はどうなってもいいなんて事を言わないで。」
ヒールをかけながら必死な目で自分を見上げてくるアンナを見てクラトスは目を伏せた。
「二人揃って、か…そうだな…お前の言う通りかもしれん。」
竜が起き上ったのに気付いたクラトスはそう言いながら、アンナをそっと背後へと押しやった。
「クラトス。」
心配そうに声をかけてきたアンナに、クラトスは背中越しに言った。
「…有難う。おかげで大分体が楽になった。残る力の全てを賭けて私が竜を抑えよう。お前はその間に持てるだけの晶術を叩き込め。安心しろ。無理はしない。」
クラトスは少しだけ笑うと水竜へと向かって行った。
「サンダーブレード!」
「グラビティ!!」
「エクスブロード!!」
クラトスが剣をふるい続ける後方でアンナは術を唱え続けていた。だが、これといったダメージを与える事が出来ない。
クラトスがすでに限界を超えた状態で戦っている事は分っていた。このままでは彼が倒れるのは時間の問題だろう。
何とかしなくてはならない。術を放ちながらアンナは必死に考えを巡らせていた。
私にもっと強い力があったなら、彼に苦しい思いをさせなくて済むのに!
アンナの脳裏に自分を育ててくれた養父母の顔が浮かんだ。あの心優しい人達も私の目の前で殺された。幼かった私を庇って。
「!!」
その時、クラトスが地面に叩きつけられた。竜は倒れているクラトスをその大きな足で踏み付ける。
「ぐわあっ!」
「サンダーブレード!」
アンナは咄嗟に唱え、竜とクラトスの距離を離した。クラトスはその間になんとか立ち上がる事が出来たが、ふらついている。竜はそんな彼にブレスを吹きかけた。クラトスは防御したもののダメージを受け再びその場に倒れてしまう。
起き上がろうとするクラトスを角で滅多打ちにしている水竜を見て、ついにアンナはキレた。
許さない。これ以上やらせてたまるか!
クラトスは死なせない。お前なんかに殺させるものか!!
『大地に生きる全ての力よ。我が下に集い給え…』
突然湧き上がってきた小さな光がアンナの体を包み込む。その神々しいまでの輝きに水竜がアンナの異変に気づき振り向いた。
竜は雄叫びをあげるとクラトスをその場に放置してアンナへと向かってきた。アンナは光の中、水竜を睨みつける。
来るなら来い!!
私はお前なんかに絶対に負けない!
たとえ吹き飛ばされようともこれだけはお前に叩きこんでやる!!
ダメージを受ける事を覚悟したものの、水竜はアンナの目の前で立ち止まった。
「クラトス!?」
クラトスが背後から剣を突きたて動きを止めたのだった。竜は怒りの咆哮を上げ、尾を振ってクラトスを吹き飛ばそうとするが、彼は羽をはばたかせると空中へと逃れる。
今だ!!
『聖なる力よ。邪悪なるものに裁きの光を!!』
アンナが両手をあげると共に何発もの凄まじい雷光が水竜へと降り注いだ。
「ぐぎゃああああああああ!!」
激しい光の雨が止むと、そこには息絶えた水竜が横たわっていた。
アンナはペタンとその場にへたり込んだ。クラトスが駆け寄ってきて顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
「貴方こそ大丈夫なの?」
「フッ…どちらもひどい姿だな…。」
「ホント。でも、私達勝ったのよね。」
「ああ。よく頑張ったな。」
「お互いにね。」
そして二人は声を揃えて笑ったのだった。
それから二人はなんとか立ち上がるとゆっくりとさらに奥へと向かい歩き出した。あとは水の神に会うだけだと思っていた。
しかし、突如そんな二人を光が包み込んだのである。
「!!?」
何が起こったのか考える間もなく、二人の姿は光と共にどこかへと消えてしまったのであった。
−水竜との戦い 終−