11.強力な助っ人


 林の中に入って来たクラトスは、辺りをさっと見回して静かな声で言った。
「いるのだろう?姿を現せ。」
 すると、右手前方の木陰が光に包まれ、オリジンが姿を現した。
『やはり気付いたか。あれだけ離れていたにも関わらず感づくとはさすがだな。』
「そんな事はどうでもいい。何故貴方がここにいる?」
『主からそなたが無理をせぬよう見張るように言われたのでな。』
「主?…ロイドか。」
『この世界で我が主といえば一人だけだからな。ロイドは全て知っているぞ。とても心配している。』
「そうだろうな。でなければ貴方を寄越したりはしないだろう。大方ユアンがベラベラと話したのだろう。見張りの必要などないからすぐに戻ってロイドに心配しないように伝えてくれ。」
 踵を返して戻ろうとするクラトスの背中にオリジンは更に言葉を続けた。
『そなたは本当にそれでいいのか?』
 クラトスは足を止めた。
『ユアンもロイドもまだ諦めてはいないぞ。救う方法を必死に探している。』
「……余計な事だ。これは私の問題だ。二人には関係がない。帰って二人にそう伝えろ。」
 クラトスはこれで話は終わりだとばかりにそのまま振り返りもせずに皆の所へと戻って行く。
 すると林を出た所でこちらへとやって来たサラとぶつかりそうになった。
「サラ様?どうしたのです。」
「それはこちらのセリフですわ。一人で歩きまわったら危険ではありませんか。」
「すみませんでした。すぐに戻ります。」
 頭を下げ戻りかけたクラトスは、サラの「あら?」という声に背後を振り返りギョッとする。
 クラトスのすぐ後ろにオリジンがぷよぷよと浮いていたのだ。
「何故付いてくるんだ。戻れと言っただろうが!」
『我の主はロイドでそなたではないからな。よってロイドの方を優先させるのが筋というものだろう。それに四千年間封印され続けた恨み、忘れた訳ではないぞ。つまる所嫌がらせだ。』
「……」
『まあ、これは冗談だがな。』
 クラトスは溜息を付いた。
「とにかく迷惑だ。頼むから消えてくれ。それに貴方はこんな事をしている暇はないはずだろう。元の世界に戻る方法を早く探し…」
「どなたですの?不思議な方ですね。」
 サラが後ろから口を挟んできた。
「大したものじゃありません。すぐに消えますから。」
『私は精霊王オリジンである!』
 クラトスがぼそぼそと言っている後ろからオリジンの凛とした声が響き渡った。
「精霊王?」
『クラトス達の世界の精霊を統べる者だ。精霊とはこの世界で言う神のようなものだな。』
「その精霊王さんがどうしてここに?」
「単なる手違いです。何を血迷ったのかいきなり現れて…」
『主ロイドの命によりそなたらの助っ人として駆けつけてやったのだ。私がいれば千人力。重宝するぞ。』
「黙れ!いいからお前は消えろ!!!」
「まあ、いいではありませんか。無事に聖剣の力を手に入れる為にも仲間は一人でも多い方がいいでしょう。ぜひお力をお貸しください、精霊王様。」
『うむ。期待していてくれ。』
「では後の二人にも紹介しますわ。どうぞこちらへ。」
 すたすたと戻って行くサラの後ろ姿を、クラトスは呆然として見ていた。
『あの女、不思議なマナをしているな。そしてお前のマナに似ている。もしかしてあの女は…』
「それ以上言うな。頼むからもう私の心をかき乱さないでくれ。」
 小さな声でそう言うと、クラトスは目を伏せ歩き出した。そんなクラトスにオリジンは再び尋ねた。
『もう一度聞くぞ。お前は本当にそれでいいのか?』
 クラトスは立ち止りオリジンをまっすぐに見つめた。
「良いも悪いもない。私がこの地に来てしまった為に全てが大きく動き出してしまった。この私が起爆剤となったのだ。だから私には全てを治める責任がある。この件は他の誰でもない、この私自身がけりをつけなければならない事なのだ。貴方やロイド達を巻き込んでしまった事は申し訳なく思っている。私を助けようと尽力してくれている事も有り難いと思っている。だがもういいのだ。貴方達がこれ以上関わる必要はない。私が全てを終わらせる。その覚悟も出来ているのだから。」
『分かった。ではこれを持っているといい。』
 オリジンが差し出したそれは…
「エターナルソード?馬鹿な。これはロイドの物ではないか。」
『当分の間、我の主はお前だ。これはロイドの希望でもある。それにそれは必ずやお前の身を守ってくれるだろう。』
「これ以上関わるなと言ったはずだ。私はこんな事をして欲しいとは思っていない。」
『一つだけ言っておく。お前がどう思おうが勝手だが、お前の所為でいざこざに巻き込まれたなどと思っている者は我らの中にはいない。我々が元の世界に戻る時は皆一緒だ。もちろんお前もな。その為に我々はここへ来たのだ。おお、そうそう。そんなに何本も剣を持って歩くのも大変だろう。』
 オリジンはそう言うと手を掲げた。するとエターナルソードは光へと姿を変えクラトスの持つ聖剣へと吸い込まれていった。
『ロイドもユアンも相当しつこいぞ。嫌がっても纏わりつくだろうから覚悟しておくのだな。』



「あ。手がいっぱい生えている人だ。」
 クラトスがオリジンを連れサラ達の元へ戻ると、アンナが叫んだ。
『名前ぐらい覚えて欲しいものだな。ノイシュの事はすぐに覚えたくせに何故我の名を覚えんのだ。我はオリジン。とくと覚えておけ。』
「だってあれから全然姿を見せないんだもの。どこに雲隠れしてたのよ。」
『失礼な小娘だな。雲隠れなどしておらん。我とて色々と忙しいのだ。』
「ユアンさんと同じような事言ってる…で?なんでここにいる訳?」
「精霊王様は助っ人として来て下さったのですよ。私達と共に神殿へと行って下さるそうです。」
「うわ〜本当ですか?精霊王って言うぐらいだから強いんでしょう。これで百人力ね。」
『千人力と言って貰いたいな。』
「は〜い。」
 アンナはペロリと舌を出した。そしてふとクラトスへと視線を移す。クラトスはじっと黙りこんだまま何やら考え込んでいる様子だ。
「どうしたのクラトス?」
「いや、何でもない。そう言えばストレイに素振りをさせっぱなしだったな。うっかりしていた。」
 曖昧な笑顔を浮かべそう言うとストレイの方へと行ってしまうクラトス。アンナは首を傾げた。
「変なの。嬉しくないのかしら。」
「ロイドさんの事が気がかりなのではないかしら。ロイドさんがクラトスさんを心配して精霊王様を寄越してくれたみたいなんですよ。そのお陰でこちらは助かりますけど、その分ロイドさん達の方が手薄になってしまう訳でしょう?」
「そうなんですか…なら、早くこっちの仕事を片付けて戻らないとね。」
「ええ。そうですね。」


 こうしてクラトス達一行に強力な助っ人、オリジンが加わる事となったのであった。


−強力な助っ人 終−