14.迫りくる魔の手


 その頃、セネリアでは集まった長老達による会議が開かれていた。それぞれ持ち寄った文献を見比べながら、光の神殿の所在を突き止めようとしている。難しい論説を掲げながら、ああでもない、こうでもないとしきりに議論している長老達を眺めながら、ロイドは欠伸を噛み殺した。
「ロイド殿は退屈ですかな?」
 ブラストの言葉にロイドはハッとして居住まいを正した。全員の視線を浴び咳払いをする。
「いや、退屈とかそういうんじゃなくて…何て言うか、こんな議論するのって意味あるのかなあって。」
ロイドがそう言うと、ダイナスが溜息をついた。
「結局ロイド殿は別の世界の人間。我々がどれほど切羽詰った状況に置かれているか分からんようじゃの。」
「そんな事を言うものではありませんわ。彼らは私達の為に一所懸命やって下さってるではありませんか。」
ルフィアがロイドを庇う。
「別にいいよ。正直、あんた達の難しい話を聞いてても、この世界の事をほとんど知らない俺には理解できないし、俺がここに居ても仕方ないかもな。邪魔なようだから俺は外に出てるわ。」
 席を立って出て行きかけたロイドをルフィアが止めた。
「お待ち下さい、ロイドさん。今までの話を聞いてあなたは何か感じたのですね?意見を聞かせて貰えませんか?」
「意見なんて立派なもんじゃないけどさ。」
ロイドはポリポリと頭をかきながら、
「俺はただ、光の神殿なんて本当にあるのかなって思っただけだよ。」
 その場が一斉にざわめき出す。ロイドは肩を竦めた。
「ほらね。だから言いたくなかったんだ。」
「いえ。続けて下さい。」
「俺もアンナさんから聞いただけだからよく分からないんだけどさ。光の神様って、力をこの地に分け与えて自分も人間の一人として生きて行く事にしたんだろ。」
「ええ。その話は私共も光子様より聞いております。」
「だとしたらその時点で光の神様っていうのはいなくなったって事だよな。神殿って、言ってみれば神様の家みたいなもんだろう。自分が住むつもりのない家を建てるなんて事、俺だったらしないなって思ったんだ。そもそも神殿ってやつを誰が建てたのか俺は知らないから何とも言えないけどな。それぞれの神様を信仰する人達が建てたっていうんだったら、光の神様を信仰していた人達の事もあんたらの見ている文献とやらに何か載ってるはずだろ。それが手掛かりにならないのかな。」
「……文献には、神殿は闇の神との戦いで傷ついた神が眠りにつく場所として神自らが建てた、とありますね…」
「待ってくれ!」
二人の話を聞いていたブラストが口を挟んできた。
「光の神殿がないとなると、どこで神を復活させたらいいというのだ?復活の儀式が出来ん事になってしまう。」
「どうして?」
ロイドが不思議そうに尋ねると、ブラストは言葉を詰まらせた。
「ど、どうしてって…昔から聖なる儀式は神殿の前で行われる事になっておる。」
「そんな事にこだわってる場合かよ。てかさ、あんたら本当に切羽詰っているなら、ないかもしれない物を必死に探しまくるより、それに代わる場所を探した方がよっぽど早道だと思うけど。」

「ワッハッハッハッハッ!!」

いきなり笑い声が響き渡り、一同は一斉に声の方へと振り返った。見ると、アブソーブが腹を抱えて笑っている。
「こりゃあいいわい。なかったらつくればいい、か!全くその通り。坊主、いい事言うのう。」
「おい、笑いごとではないぞ、アブソーブ。そんな簡単な事ではない。仮にも光の神を復活させる儀式なのだ。そこら辺で行えるものではないのだぞ。そんな場所が一体どこにあると言うのだ。」
ダイナスが渋い顔をしてアブソーブをたしなめる。
「この文献にこんな話が載っておる。」
アブソーブはそう言って、それを読み上げた。

『彼の地、緑に溢れ花咲き乱れる場所。全ての力集まりし、大地の命ともいえる楽園なり。我、その地の永遠を願い、大いなる力を持ってこれを封印す。』

「誰の言葉かは分らんがな。わしは、これが第五の聖地じゃと思っておる。“大いなる力”とは四神の力を指し、そして、光の神の復活には四神の力を必要とするんじゃったよな?」
「つまり、そこが光の聖地だと?ですが、これだけでは場所がさっぱり分りませんわ。」
「わしも全国を旅してまわった事があるが、わしが知る限りこの世界でこの様な場所は見た事がない。そしてどの地でも封印が施されているような感じは受けんかった。じゃが、考えられる地が一か所だけあるんじゃ。」
「まわりくどい奴じゃな。どこだと言うんじゃ。」
ダイナスがいらいらしたように言う。
「ローネリー村じゃよ。」
 全員が驚き目を見開く。
「しかし、あそこはエビルの乱のときに滅ぼされたのではなかったかな?」
「確かに。じゃが、廃墟として残ってはおるよ。中には入った事はないが近くをうろついた事はある。昔、時空間移動の研究をしていた時にな。」
「では、そこで四神の力を使えば…もしかして…」
「わしはそう思っておるよ。」
「可能性があるのならやってみるしかありませんな。」
ブラストはニッコリとしてロイドを見た。
「あなたにはお礼を言わなくてはなりません。私達はどうやら事を難しく考え過ぎていたようだ。それに気付かせてくれて有難う。」
「お礼なんていいよ。俺は頭悪いからさ、あんた達の話が理解できなかっただけなんだ。」
ロイドも微笑んだ。
 と、その時、一人の兵士が駆け込んできた。
「何だ、どうしたのだ。今は大切な会議中だぞ。」
ブラストが声を荒げる。
「申し訳ありません。ですが魔物が…魔物が…」
「落ち着いて下さい。魔物がどうしたというのですか?」
「魔物がこちらに向かってきています。しかも大群で!」
「!!」
 ロイドはすぐさま剣を取り表へ走り出て行く。ダイナスも後を追った。



 表に出たロイドは空を見て驚きの声を上げた。
「げっ!!なんだよ、ありゃ。」
 空一面を魔物の群れが覆い尽くしていた。ゆっくりと、確実にこちらへと向かってきている。
「くっそ!こんな時ユアンがいれば…」
 ユアンは姿を消す前にロイドにこう言った。
「ロイド、後は頼んだぞ。」

 きっとユアンは何かを感じたんだ。そして恐らくそれはクラトスに関する事。だからあいつはこんな状況にも関わらず何処かへと姿を消した。あいつは俺を信じて、後は頼んだ、と言った。

「なら、ここは俺が踏んばるっきゃないって事だよな!」
ロイドは胸にかけてあるペンダントを握りしめ目を閉じた。

クラトスがくれたペンダント。あいつと俺が親子だという証がここにある。
俺はあいつを助ける為にここへ来た。なによりあいつの為に何かをしたかったから。
そして、あいつは今、命を賭けてこの地を守りたいと願って必死に戦っている。
だったら、俺もあんたの願いを叶える為に戦うさ。
ここで逃げたらあんたに合わせる顔がないもんな。

 ロイドは閉じていた目を開くと前方に広がる魔物の群れを睨みつけた。
「やれるもんならやってみろ!!俺はあのクラトス・アウリオンの息子だ。ぜってーに防ぎ切って見せる!!」
そして剣を握り直すと魔物の群れに向かって走り出したのだった。


−迫りくる魔の手 終−