1.再びセントールへ


 火の神殿を出た二人は、とりあえずイグネウスに戻ろうと再び暑い砂漠を進んでいた。

「ねえ、クラトス。イグネウスに戻ったら、今度はセントールへ向かった方が良くはないかしら。どちらにしても地の神にも会わなくてはならないのでしょう。スルースからよりイグネウスからの方がセントールには近いし、ルフィア様への報告は後回しになってしまって悪いのだけれど、ここから時計回りに進んで行った方が効率的な気がするわ。」
「お前の口から効率的という言葉を聞くとは思わなかったな。」
「ちょっとそれどういう意味よ。」
「フ…冗談だ。だがお前の言う通りかもしれんな。ルフィア殿の事なら心配はないかもしれん。あの方は何もかもお見通しのような気がするのだ。」
「え?」
「いや、そんな気がするだけだ。ルフィア殿だけではない。他の聖地の長老達も聖地を守っているだけあって、普通の人間とは違った何か神がかり的な不思議な力を感じる。それと…」

 クラトスはそこではっとしたように空を見上げた。アンナもつられてそちらへと視線を移す。
 するとこちらに向かって飛んでくるものが二体見えた。

「!…あれってもしかしてスルースの近くに現れた魔物じゃない?」
「もしかではなく、まさしくそのものだ。」

 クラトスは剣を抜いた。アンナも剣を抜いて横に並ぶ。


「エビル様の言った通りだ。やはりここにいたな。この間は邪魔が入ったが今度こそ一緒に来てもらおうか。」
「うるさいわね。そんなせっかちに迎えに来なくてもいずれ次元の門には行くんだから大人しく待ってりゃいいじゃないの!」
「黙れ小娘。エビル様は今望んでおられるのだ。血族との感動の対面をな。」
「血族?血族って何よ。私はエビルなんかとは関係ないわよ。」

 アンナの反論に魔物がにやりと笑って口を開きかけた時、

「わお〜〜〜〜〜ん!!」

という遠吠えが聞こえた。魔物の背後へと目をやると、こちらへと走ってくるノイシュの姿を確認した。

「ノイシュが何故ここに…?」
 クラトスが呟いた。
 再び魔物へと視線を戻すと、先程に開きかけた口の状態のままで目を見開いて固まっている。もう一匹もしかりである。
 それを見たアンナは、
「この間とは違う奴だと思っていたけど、もしかしてあんた達ってこの間ノイシュたちに星の彼方に飛ばされた奴だとか?」
「見りゃあ分かるだろうが!」
 言い返してきた魔物の声が心なしか震えている。
「あんた達ってみんな同じ顔してるから分らなかったわ。」
「てめえ!!馬鹿にするのもいい加減に…」

「クラトォ〜〜〜ス!!」

 手を振りながら走ってくるロイドの声に、魔物は再びギクリとして口をつぐんだ。
 そうこうしている内にロイド達が到着してしまう。

「あ!!お前はこの間の焼き鳥野郎!またちょっかい出していやがったのか!?」
「わお〜ん!!」
「「ヒィ〜〜〜〜〜!!」」
 魔物達は飛んで逃げようとしたが、ロイドに足をむんずとつかまれ引きずりおろされた。そのままジャイアントスウィングの如くブンブンと振り回される。もう一匹の方もノイシュにバカバカと踏み付けられていた。

「お前達、もうその辺にしておけ。そいつらからエビルの情報を聞き出す方が先だろう。」

 ハッスルする一人と一匹にユアンが割って入った。
 二匹の魔物はロイドとノイシュの足元で腰を抜かし動けないでいる。

「無駄じゃよ。こやつらは何も言わんじゃろう。」
「やってみなければ分らんだろうが。」
 ダイナスの言葉にユアンが反論する。
「いや、こやつらが何よりも恐れているのはエビルなんじゃ。口を割ったとたん、どこにいようが必ずエビルに殺される。それが分っている以上、エビルに消されるよりは我々に殺される方を選ぶじゃろうよ。こやつらに少しでもエビルに対する忠誠心があるのならな。」
「こんな焼き鳥野郎に忠誠心なんてあるのか?」
 ロイドが首を傾げた。
「我らの前に初めて姿を現した時、エビルを崇拝しているような事を言っておったじゃろう?」
「そんな事言ってたか?忘れちまった。」
「そういえば言っていたわね。エビルの事も様付けで呼んでるし。」
「エビルの裏切り者に対する処罰は非常に残酷だと噂に聞いておる。我らの手で殺してやる方が親切じゃと思うがな。」
 ダイナスはそう言うと二匹の魔物に近付いて行く。そして上げた右手に魔力を込め始めた。
「「ヒイ〜〜〜〜。お助け下さい、エビル様〜!」」
 魔物達は震えながら叫んだ。
「残念じゃったな。エビルは助けになど来んよ。エビルにとってお前達の命など無くなった所で痛くも痒くもなかろうて。また新たに別の魔物を作り出せば済む事じゃろうからな。」
 ダイナスはそう言うと、右手に込めた魔力を二匹に向かって放った。

 「「ぎゃあああああああああ!!!」」

 二匹は凄まじい悲鳴を上げると塵となって消えてしまった。アンナは思わず目を伏せた。

「そうは言っても何か聞きだせたかもしれないじゃないか。何もせずに殺してしまう事はなかったのでは!?」
 ユアンがダイナスに食ってかかった。
「敵に情けは禁物じゃ。そうは思わんかな、クラトス殿?」
「…そうかもしれませんね…」
 ダイナスはもういつもの穏やかな表情に戻っていた。
 クラトスはそんなダイナスを見詰めながら、彼のもう一つの一面を垣間見た事に驚きを隠せずにいたのであった。



 それから一行はとりあえずイグネウスへと場所を移し、今彼らはブラントの屋敷にいた。

「父さん達がなかなか戻ってこないから心配になってさ。そうしたらルフィアさんが火の神殿へ向かったのかもしれないって言ったから、後を追って来たんだ。ブラントさんに二人が来たって聞いてまさにドンピシャリって感じだったな。」
 ロイドの言葉を聞いてアンナがクラトスに視線を送って来た。クラトスは微かに頷き返す。

「それで、これからどうするつもりなんだ?」
 ユアンがクラトスに聞いてきた。

「ここからならセントールに近いから、先にそっちへ向かうつもりだった。ルフィア殿への報告が遅れる事が気がかりだったがロイドの話ではそれも心配ないようだから、予定通り私達はセントールへ向かおうと思う。」
「俺も行く!!」
「ロイド?…いや、しかし…」
「神殿には入れないのは分ってる。でも俺、父さんの手助けがしたいんだ。こっちの世界に来たのだってあんたを助け出すのが目的だった。父さんが腹くくってこっちの世界の為に命賭けようとしているのに、それを黙って見ているだけなんて俺は絶対に嫌だからな。」
「これ以上止めても無駄のようだぞ、クラトス。」
 ユアンがくすくす笑いながら言った。
「それと私も共に行くからな。お前ばかりにカッコいい所をとられては勇者として立場がない。」
「わしもそなたについて行くと決めておる。」

 三人の真剣な眼差しを受け、クラトスは肩をすくめた。
「どうなっても知らんからな。」

 そっけない言い方。だがその中にクラトスの感謝や喜びの気持ちが隠されている事を三人にはよく分かっていた。

「よ〜し!次に目指すはセントールだ!!」

 ロイドはニッコリと笑って、元気よくそう宣言するのだった。


−再びセントールへ 終−