2.現れた地の守護竜
「お前、変わったな。」
セントールへ向かう道で、クラトスの隣を歩いていたユアンがポツリと言った。クラトスは突然かけられた言葉に驚きユアンを見たが、すぐにその意味を察したのか、フッ、と笑いをこぼした。
「ロイド流にいうなら、腹をくくったというところか?随分とすっきりとした顔をしている。」
「そうだな。もう、自分の気持ちを偽る事はやめたのだ。」
「彼女に言ったのか?」
「…ああ。」
「またお前にしては思い切った事をしたものだな。」
「彼女が別の世界の人間だという事は分っている。全てが終った時、恐らく私は彼女のそばにはいないだろう。それでも、ここにいる間は全力で彼女を守りたいと思った。お前が言う通り私らしくないとは思うがな。」
「いや、それでいいのだと思うぞ。」
その時、二人の前方を歩いていたロイドが大きく手を振りながらクラトスを呼ぶ声がした。クラトスは軽く頷くとロイドの方へと歩き出す。
だが、すぐに立ち止まると、ユアンに背を向けたまま本当に呟くような小さな声で言った。
「有難う、ユアン。」
そして、そのままロイドの方へいってしまった。そんな彼を見送りながらユアンは苦笑した。
「全く、礼も素直に言えんのかあいつは。そんな所はちっとも変ってないな。」
ブツブツと文句を言いながら、それでもユアンは心底嬉しそうな表情を浮かべるのであった。
「どうしたロイド。」
「あそこに見えるのがセントールだろ。何かさ、すげえ騒がしいんだけど。」
気が付かないうちにもうセントールに着いてしまっていたようだ。
だが、確かにロイドが言う通り村の中がえらく騒がしかった。ドシン、バタンというような物音や、ギャーギャーと騒いでいる声も聞こえる。
この村に初めて来た時もこんな感じだったな。あの時はユアン降臨の祭りの真っ最中だった。
「ここって、いつも騒がしいのよね。」
アンナがクラトスの思っている事を代弁するかのように呟いた。
「それはそうだが…しかし、この騒ぎは尋常ではないな。もしかしたら竜が現れたのかもしれん。」
「地の神の守護竜の事か?うわ〜、俺、一度見てみたかったんだよね。神の使いってやつ。」
「…お前は暢気だな。とにかく急ごう!」
村の中に駆け込んだ一行が目にしたのは、思った通り暴れ回っている地竜の姿だった。
「うわ〜でっけ〜。もしかして、水の神殿では父さんとアンナさん二人だけでこんなのと戦ったのか!?」
「感心している場合か!お前は下がっていろ。」
クラトスが剣を抜きながら叫んだ。だがロイドは言う事を聞かず、同じく剣を抜くとクラトスの横に並んだ。
「いやだね。ここで逃げたら俺が来た意味ないじゃんか。」
「いいから下がれ!怪我して泣いても知らんぞ。」
「そんな事で泣くかっつーの。でもクラトスが死んじまったらそれこそ泣いちまうから、俺も闘う。」
「何故お前なしで戦うと死ぬ事になるのだ。勝手に殺すな!」
「心配してんだろ!人の好意は素直に受けろよ。」
「お前のは好意とは言わん。そういうのはお節介と言うのだ。」
「なんだよ。俺はあんたに勝った事だってあるんだぞ!」
「あれは勝たせてやったのだ。」
「負け惜しみ言うなよな!」
「負け惜しみなどではない!」
「ちょっと、親子喧嘩は他でやってよね。今はそんな場合じゃないでしょう。」
アンナの叱責に二人は、はたと口をつぐむ。
クラトスはロイドをぎろりと睨みつけた。ロイドも負けじと睨み返す。
「勝手にしろ!!」
「ああ、勝手にさせてもらうさ!」
ロイドは走って行くクラトスを追い抜くと宙へと跳んだ。
「真空裂斬!!」
着地したロイドに向かってくる竜に、クラトスが剣を突き出す。
「風雷神剣!!」
親子は絶妙なコンビネーションで竜にダメージを与えて行く。
そんな親子を見て、アンナが方を竦めながら言った。
「何よ。何だかんだ言って、息ピッタリじゃないの。」
「親子だからな。それに奴がロイドに剣を教えたのだから。」
ユアンが苦笑しながら言った。そして、サンダーブレードを唱える。
「そうなの?成程、弟子って訳か。実は私もそうなんだけどね。」
アンナも負けじとエアスラストを放った。
「後ろの二人!世間話しながら戦ってんじゃねーよ。こっちは必死なんだぞ。」
ロイドが技を繰り出しながら叫んだ。クラトスも続いて叫んでくる。
「ユアン、雷系より風系の魔法で攻めろ。こいつは地竜だ。風に弱いはずだ。」
「私は風系は苦手なのだ。お前知ってるはずだろうが。」
「ならば前に出て武器で戦うか、天使術を使えばよかろう!お前勇者だろうが。その位自分で判断せんか!!」
「それなら天使術を使うとしよう。へたに前衛に出て行って怪我をして痛い目をみるのは嫌だからな。」
「……」
クラトスはもう何も言う気がなくなり、竜に集中する事にした。
ロイドが斬光時雨をお見舞いした後、クラトスが魔人閃空破を決める。そして透かさずチャージしていたエアスラストを発動させた。
ギャアアアアアアアア!
悲鳴を上げる竜にダイナスのエアブレイドがヒットした。そしてユアンのグランドクロスと続き、とどめにアンナのサイクロンが放たれた。
立て続けに術を浴びた竜は凄まじい咆哮を上げもだえ苦しんでいる。
「よし、止めだ!外すなよ、ロイド!!」
「まかせろ!!」
「「衝破十文字!!」」
複合技が決まり、ついに竜は息絶えたのであった。
「おお、勇者様方、お陰で助かりました。いきなり村に現れて暴れ出しましてな。わしらではどうにも歯がたたんで困っておりました。」
「やっぱりここにも現れていたわね。先にこっちに来て正解だったわね。」
「ところでアブソーブ殿、この近くに地の神を祀った神殿というのはあるのでしょうか。」
「神殿はないがな。神がおられるとされている洞窟なら、村の東にある。迷いの森を抜けた所にあるが滅多に人が行く事はない。あの森を抜けるのは至難の業じゃて。一説には地の神の力が働いているとの事なんじゃが。まさか、行く気かね。」
「私達は聖剣を完成させなくてはならないの。エビルと戦うには聖剣が必要なのよ。」
「そうか…では、迷いの森までなら案内しよう。」
「いえ、大体の場所を教えて頂ければ後は我々で何とか見つけます。アブソーブ殿は先程の後始末をしなければならないでしょう?」
「それはそうなんじゃが…では、簡単な地図を書いてしんぜよう。神に選ばれたお主たちになら道が開かれるかもしれんしな。」
「有難うございます。」
地図を書いてもらう間、一行はアブソーブの屋敷で待たせてもらう事になったのだが、クラトスはそれを断った。
「すまんが、度重なる戦闘で剣の調子がよくないのだ。この時間を使って武器屋に行って修理してもらうから、皆だけで屋敷にいってくれ。」
「あ、じゃあ俺も行く!」
「お前はさっきの戦闘で疲れているだろう?休める時に休んでおかないと後がつらくなるぞ。代わりにユアン、一緒に来てくれ。」
「それは私は楽していたから疲れていないだろう、という意味か?」
「そんな事は言っていないだろう。武器屋に行くついでに役に立ちそうな武器を調達しようと思っただけだ。お前は昔からいい武器を見分ける目だけは持っていたからな。」
「だけ、は余計だろうが。まあいい、付いて行ってやろう。」
「早く帰ってきなさいよ。貴方だって疲れているはずだから。」
「分っている。すぐに戻る。」
こうして二人は武器屋に、残りの者は屋敷へと向かったのだった。
「で、どうしたのだ?私にだけに話したい事があるのだろう?」
皆の姿が見えなくなった頃、ユアンが口を開いた。
「さすがだな。付き合いが長いだけある。私の意図を察してくれたようで助かった。」
「それでどうしたのだ?」
「私達が留守の間にお前にやってもらいたい事があったのだ。実はな…」
そして、しばらくの間、二人は何やら話し込むのだった。
−現れた地の守護竜 終−