3.地の神


 クラトスとアンナはアブソーブから地図を受け取ると早速旅立っていった。残りの者はセントールにて二人の帰りを待つ事になったのであった。

「で?ユアン。武器屋では何か収穫があったのかよ。」
「おお、ロイド。よくぞ聞いてくれた。役に立つアイテムてんこもりだぞ。」
 ユアンはそう言うと、どこからか頭陀袋を取り出して中身をテーブルへとぶちまけた。
「これって…単なるガラクタじゃないっすか?」
「だよなあ。武器屋じゃなく骨董屋にでも行ってきたのか?」
 首を傾げるストレイ(オイ、いきなり登場かよ!?)。
 ロイドもそれに同調する。
 ユアンはそんな二人の様子にいきり立った。
「何を言う。よく見てみろ!これは、かの有名なマンガの古典である『ひみつのゴッコちゃん※1』が使っていた魔法のコンパクトだし、こっちは『魔法使いスリー※2』のスリーちゃんの服だ。」
「…で?それが何かの役に立つの?」
「二つとも魔力を上げる効果を持つ。特にこの服はマーテルも好んで装備していたものだ。」
 ユアンの目が遠くを見つめる。
「装備してたの?そんなのを?それ、アンナさんに着せる気?」
「マーテルは動きやすくていいと喜んでいた。もちろんアンナに装備してもらうつもりだ。これをクラトスが着たって可愛くないだろう?」
 クラトスがそれを着て魔術を唱えている姿を思わず想像してしまったロイドの額に脂汗が滲んできた。その横ではアブソーブが“さすが勇者様、お目が高い”としきりに感心している。

「それからこれはロイドに、こっちはストレイが使うと良い。」
「「これ、何?」」
 奇妙な物を受け取った二人が合唱する。
「ロイドに渡したこれは、あの有名なドクター何松※3が開発したウオーキングシューズだ。ピョンピョン跳ねれてジャンプ力倍増。これでお前の裂空斬も冴え渡る事請け合い。ちなみに靴の中に小さな突起が付いていてな、それが足のツボを刺激して健康にも良い。これぞ一挙両得というものだ。ツボを刺激するだけに、これがこの商品のツボってところかな。アッハッハッハッハッ!」

 (くだらね〜。完全にオヤジになってるよ、こいつ。)
 ロイドはげんなりとした。

「ストレイに渡したのはな、剣豪宮本武蔵が使っていた剣…」
「あ、俺そっちの方がいいな!」
「コラ、ロイド。まだ話は終わってない。人の発言中に割り込むのは一番失礼な事なのだぞ!…で、これが宮本武蔵が使っていたという怪しげな噂がある剣のレプリカだ。これでお前の蚤のような攻撃力も上がる事間違いなし!」
「やっぱ俺それいらねえ。まだシューズの方がマシかも…」
「なんで俺だけそんなのなんだよ!怪しげな噂がある上にレプリカだなんて馬鹿にしてるのか。それに蚤のような攻撃力ってなんだよ。俺様はな、クラトスさんに剣の指南を受けるようになってからメキメキ上達してんだぞ。あんたの方がよっぽど失礼じゃないか!」
 ストレイは頭から湯気を出しながら、プンプンと出て行ってしまった。

「何を怒ってるのだろうな、あの若者は?」
「いや、怒るだろう普通…あんたってホント悪気はないのな。よくもまあ、親切そうな顔してああも人をこきおろす言葉がポンポンと出てくるもんだと関心するよ。そんなあんたと四千年もの間付き合ってきたなんて、俺、父さんの事改めてソンケーするな。」
「フ…。なにしろクラトスとはマブダチだからな。そうそう、ダイナス殿にもちゃんと買ってきたのだ。」
「い、いや…わしは遠慮しておくよ。」
「まあ、そう言わずに。折角買ってきたんですから。」
 強張った笑顔で辞退を申し出たダイナスに、ユアンはニッコリとしていそいそと何かを取り出した。
「…これは?」
「ご老公グッズ。仕込杖と印籠付きでっせ。」
「人を年寄り扱いするな!!!」
 ダイナスは怒り心頭で出て行ってしまう。

「また怒らせてしまったな。」
「あのさ〜、微妙な年齢の年寄りには年寄り扱いしない方がいいみたいだぜ。『お前は年寄りだ』って言われてるみたいで気分が悪くなるって前に親父が言ってた。」
「しかし、本当に年寄りではないか。赤いチャンチャンコの方がよかったのかな。」
「だ〜か〜ら〜そういうのが…ま、いいか。俺、ノイシュの様子でも見てくるわ。この靴一応貰っとくな。」
 こうしてロイドまでもが疲れた様子で外へ行ってしまった。後にはキョトンとした顔のユアンとアブソーブだけが残される。
「一所懸命に選んだのだが気に入って貰えなかったようだな。」
「まあ、そういう時もありますよ。どうです?お茶でも一杯。」
「いただこうか。」
「ではすぐに淹れて参ります。」

 台所に立ってお茶の準備をしているアブソーブの後ろ姿を眺めながら、ユアンが呟いた。
「さて、と。邪魔者はいなくなったし、そろそろクラトスに頼まれた事を始めるとするか。」
 そしてユアンはにんまりと笑うのであった。



 その頃クラトス達は迷いの森を歩いていた。
 この森は入った全ての者を迷わせ、一度迷ったら死ぬまで彷徨い続ける死の森と呼ばれている薄暗く重苦しい空気を纏った森。
 しかし、アンナが呼び出した下級精霊の案内により二人は迷うことなく進めていた。
 時折現れるモンスターも死霊系が殆どで、クラトスが防いでいる間にアンナが後衛で光の術を使うという戦法で難なく片付ける事が出来ている。
 あと少しで森を抜けられるという所まで来た時、アンナがクラトスに訊ねて来た。
「武器屋に行くって言って別れた後、貴方、ユアンさんと何か話しこんでいたわよね。何を話していたの?」
 クラトスはアンナを驚いたように見た。
 人の気配には気を付けていたのだが、まさか見られていたとは…
「…見ていたのか。他の連中も?」
「いいえ。みんなは屋敷にいたはずよ。皆で屋敷へ行ってお茶をご馳走になっていたんだけど、私も買いたい物があるのを思い出して私だけもう一度村に出たのよ。そうしたらなんだか深刻そうに話している二人を見かけて。」
「お前だけと言うのは確かなのだな?」
「ええ。私、これでも気配には敏感だから近くに誰かいれば分かるはずよ。それに出てくる時、ロイド君を囲んで皆でお祭り騒ぎだったんだけど戻った時にも同じ状態だったから。ダイナスさんなんてアブソーブさんに捕まえられて無理矢理デュエット歌わされていたわ。」

 (何をしているのだ…あの連中は。)

 クラトスは他の者の軽さを苦々しく思いながらも、ユアンと話し込んでいる所を見られたのがアンナだけであった事にホッとした。
 その様子を見たアンナが首を傾げる。
「どうしたの?皆に知られたくない事だったの?何の話をしていたの?」
「今はまだ皆には知られたくはない。ユアンと話していた事は大した事ではない。私達が留守の間にユアンにアブソーブ殿からエビルの事で聞いておいて欲しい事があった、それだけだ。」
「そんなの皆に隠す事ないじゃない。なんでコソコソするのよ。」
「その時が来たら皆にも話すつもりだ。まだ私の推論だけで確証がない。確かでない事で皆を惑わす訳にはいかんからな。」
 アンナはまだ納得していない様子だったが、それ以上訊いてくる事はしなかった。
 二人はそのまま先を進み、森を無事に抜ける事が出来た。
 森を抜けた所から細い道が伸びており、それを辿って行くとやがて小さな洞窟が見えた。洞窟にはしめ縄が張られており、入口にはお榊とお神酒が供えられていた。

「ここで間違いないようだな。」

 クラトスの言葉にアンナは頷いた。そして二人は暗い洞窟へと足を踏み入れた。真っ暗な中、蝋燭の灯りだけをたよりに奥へと進んで行く。
「いったい、どこまで続いてるのよ。」
「気を抜くな。この暗闇だ、何があるかわからんのだからな。」
 文句たらたらで先を行くアンナにクラトスが注意を促したその時、
「きゃああああああ!」
 いきなり現れた急勾配に足を滑らせたアンナがそのまま深い闇へと落ちて行った。クラトスもすぐにアンナを追って滑り下りる。
「大丈夫か、アンナ!?」
「いたたたた。一体何なのよここは!」
「だから注意しろと言っただろうが。」
 アンナはクラトスの手を借りてなんとか立ち上がった。腰のあたりをさすりながら周りを見回す。
 するとどこからか声が響き渡った。

「よく来たな。光の神にえりゃばれし者たちよ。」

 甲高い舌足らずな声。

「何?どこのガキんちょよ。こんな悪戯して許さないわよ!!」
「しちゅれいな。ガキじゃないじょ。我こそが地の神なんだじょ!!」

 眩しい光と共に自称地の神が二人の前へと姿を現した。
 そしてその姿を見た二人はポカンと口を開けたまま絶句してしまったのだった。


−地の神 終−