4.風の聖地へ
「これが地の神…?」
アンナが疑問符を掲げたのも無理はなかった。
目の前にいるその生き物は、モグラの姿をしており頭には大きなドリルのようなものが付いている。そして手にはスコップを持っていた。
どうひいきめに見ても、到底神には思えなかった。
其処へ行くとクラトスの場合ノームを見た事があったせいか、アンナよりは免疫があるようだった。
「全く、ノームの親戚でもあるまいに…」
と呆れたように呟いた。
「おお、おみゃーノームの知り合いにゃのか?」
「!?…ノームを知っているのか?」
「知ってるも何も、親戚だゃからにゃ。」
「親戚って…ノームは別の世界の精霊なのだが。」
「おみゃーだってこっちの世界に来てるだゃろ。」
「…それはそうだが、だとすると私のいた世界とは誰でも行き来できるということなのか?」
「皆は無理だにゃ。時空の扉を開ける力がない限り自分では行く事は出来ないじょ。ノームは突然現れた次元の歪みに引き込まれて消えてしまったんだにゃ。でも元気そうでよかったじょ。」
「ノームはこっちにいた事があるという事か…。その時空の扉を開く力を持つ者はいるのだろうか。」
「ん〜〜〜。おりゃの知ってる限りでは光の神だけだと思うじょ。もういいだりょ。こう見えておりゃは忙しいんだゃから、とっとと力を受け取って帰ってくれにゃ。」
二人は剣を掲げ地の神はそれに力を授けた。
「一つだけ忠告しておくじょ。エビルはもう行動を起こしている。くれぐれも用心する事にゃ。」
神殿を出てきてすぐにアンナはため息をついた。
「なんだか拍子抜けしちゃったわね。こんなに簡単に力をもらえるなんて。」
「だが、これで後は風の聖地へ向かえば四つの力が揃う事になる。」
「あと、光の聖地がどこかという事よね。」
「問題はそれなのだが…ここで考えていても仕方がない。やれることからやっていくしかあるまい。」
こうしてあっけなく地の力を授かる事ができた二人は、皆が待っているセントールへの帰途についたのである。
再び迷いの森へと入りそれを無事に抜けられた時、アンナがクラトスに話しかけてきた。
「ねえクラトス、私ずっと考えていたのだけれど、エビルを説得できないかしら。」
「説得?」
「エビルは本当はそんな悪人じゃなかったのよね。復讐という二文字に縛られてしまったが故にああなってしまった。だったら元に戻る事も出来るんじゃないかしら。」
「……」
「私、エビルの気持ち分かるの。私も彼と同じく虐げられてきた者の一人だから。だから…」
「そんな考えは捨てる事だ。」
「クラトス?」
「お前は復讐にとらわれた人間がどういうものなのか知らないのだ。一人の人間の善意だけで簡単に変えられるものではない。そんな気持ちで奴に近付いたとて逆にその善意を利用され最後には殺されるのが落ちだ。敵に優しさを示したが為に死んでしまった人間を私は数多く見てきた。同情はしてもそれを戦いには持ち込むな。地の神も言っていたであろう、油断するなと。」
「貴方には虐げられてきた者の気持ちなんてわからないわ。だからそんな冷たい事を言えるのよ。」
「冷たくて結構。同情する事が優しさではない。そんな事にとらわれて自分がするべき事を誤るなと言っているのだ。」
「それは、貴方自身の事を言っているの?」
「!!」
「貴方はそうやってミトス君を正す事ができずに道を誤った。だからそんな事言うんでしょう。」
アンナは一気に言い放った後、はっとして口をつぐんだ。
「ご、ごめんなさい……私…」
「…その通りだ。」
クラトスはアンナをまっすぐにみつめて続けた。
「私はミトスに同情し、そして道を誤った。だからこそ言えるのだ。お前に私の考えを押し付けるつもりはない。だが考えて欲しいのだ。エビル個人のためではなく、この世界のためにはどのように行動すればいいのかを。」
クラトスはそこまで言うと、もうこの話は終わりだとばかりにアンナに背を向け歩き出す。
アンナは慌ててその背中を追いながら、自分が言ってしまった事にこれ以上ないくらいに後悔するのだった。
「よおし、あとは風の神さんの力をもらえば完璧だな!」
二人が戻ってくると、ロイドが元気に発言した。
「じゃがそれはちと難しいかもしれんぞ。」
アブソーブがそれに水をさすような事を言った。
「なんだよ。人が折角張り切ってるのにさ。」
「実は今さっき得た情報なのだが、風の聖地セネリアへとつながる全ての道がモンスターによってふさがれているようなんじゃ。」
「なに?どういう事よ?」
「…とうとうエビルが動き出したという事でしょうか。」
クラトスが落ち着いた声で言った。
「うむ、恐らくはな。モンスターを操れるなどエビルしかおらんからな。」
「セネリアは無事なのでしょうか?」
「あそこには長老のブラスト殿がいるからな。奴は頭が切れる。それにサラさんもいるしな。」
「サラ?」
「稀に見る美人と聞いている。あのブラストの娘とは思えんほどべっぴんさんじゃとの噂がある。母親似なんじゃろうな。頭もいいし魔術にも優れておる才女だそうじゃ。」
「ふーん、そんなの初耳ね。」
「おや、光子様はやきもちをやいているのかな?大丈夫じゃよ。あのブラストのジジイの娘じゃ。50歳は越えとるじゃろう。クラトス殿を取られたりはせんよ。」
「な、何でそうなるのよ。私とクラトスはそんな…」
アンナは真っ赤になる。
クラトスは咳払いをして言った。
「とにかく何があろうと私達はセネリアに行かなくてはならない。エビルが邪魔をしてきたという事は聖剣を恐れている証拠だからな。」
「そうそう。何が出てきたって皆で力をあわせりゃなんて事ないよ。」
再び張り切るロイド。
アブソーブは地図を広げて一つの道を指し示した。
「ならばこの道を行くと良い。ここなら地の利があるし敵が出ても戦い易いじゃろうて。少々遠回りになるが途中に小さな村がある。そこで一日宿をとって態勢を立て直すのも手じゃろう。」
「宿をとるのか?キャンプの方がいいんじゃないっすか。」
ストレイが渋面をつくり異をとなえた。
「なんでだよ。どんな敵が待ち受けてるか知れないんだぜ。休めるなら、ゆっくり宿屋で休んでおいた方がいいだろ。」
ロイドが不思議そうに言った。
「違うんだ。だってよ…」
「ストレイ。いいのよ。そうしましょう。」
アンナがストレイを遮り結論を下した。
「…いいのか、アンナ…いや、光子(こうし)様。」
「大丈夫よ。心配しないで。みんなだって一緒だし、ね?」
心配そうに自分を見るストレイに、アンナは明るく笑って見せた。
ロイドは二人の様子に訳が分からずしきりに首をひねっている。
「よし、光子様がそう言うならそうしますか!」
アンナの笑顔を見て安心したのかストレイも笑顔で同意した。
「そうとも。何の心配もいらねえよ。エビルがどんな手を使ってこようが受けて立つぜ。よ〜〜し、めざせセネリアだ!頑張ろうぜ!」
ロイドが元気よくこぶしを掲げたのにつられ皆の顔も明るくなり、皆もこぶしをあげ頑張ろうコールがおきる。
そんな皆の姿を見てアンナも嬉しそうに笑っていた。
そんな中、クラトスだけは何か考え込むようにしながら、明るく振る舞うアンナを見ているのだった。
−風の聖地へ 終−