6.本当の優しさ
一行はサラの案内でセネリアを目指していた。
セネリアは次元の門に一番近い聖地と言われているだけあって他の聖地に比べモンスターの出現率が高く、強さにおいても今までの比ではなかった。
それでもこうして無事に旅を続けられるのは、サラのお陰と言っても決して過言ではなかった。その場の状況に応じて回復、援護、攻撃と使い分け幾度となく仲間の危機を救ってくれていた。魔力も強く、様々な魔法を繰り出す事ができる。
そんな強力な助っ人を得た一行は、戦闘を繰り返しながらも何とかセネリアの近くまで辿り着いたのである。
「この先にドラゴン系のモンスターが一匹います。今結界を解くと村に被害が及ぶかもしれませんから、まずはそれを何とかしなければなりません。その前に体力を回復させておいた方がいいでしょう。」
サラの言葉に休憩をとる事にした一行は、それぞれに体力の回復に努めていた。ロイドは近くの岩に腰をおろし休んでいた。ここへくるまでの激しい戦闘の繰り返しは、いかに元気印のロイドであっても疲労を覚えていたのである。岩に腰掛けながら、ロイドの視線はさりげなくクラトスの姿を追っていた。
クラトスの様子がおかしい。もちろん彼は普段通りの無表情で他の者から見れば別段変わった様子を感じる事はないだろう。だが、ロイドの目には彼が非常にイライラしているように映っていた。しかも彼は事もあろうにそのイライラをサラへとぶつけているようだった。サラが話しかけてきてもぶっきら棒に答えるだけでほとんど会話をなしていないし、何故か彼はサラをことさら避けているように見えた。
今やロイドにとってサラは憧れの人となっていた。きれいだし、頭もいいし、優しいし。あんな三拍子揃っている人なんてそうはいないだろう。なのに何故クラトスが彼女を嫌うのか、ロイドには全く理解できなかったのである。
一行が進んで行くと、サラが言った通りそこにはドラゴンが鎮座していた。だが、たっぷりと休息をとったパーティーにとってそれは敵ではなかった。全員攻撃でタコ殴りにして呆気なく倒してしまった。ここに来るまでの戦闘が予想以上に皆のレベルを上げていたのである。
こうして一行は何とかセネリアへと到着する事が出来たのであった。
村に着いてから一行は自然と別行動となっていた。サラは長老へ報告に行き、アンナは村の祭壇へ祈りを捧げに行ってしまった。ダイナスとストレイは備品の買い出しに行っているし、クラトスとユアンは二人とも何処かへ行ってしまった。一人残ったロイドはぶらりと村を回って見る事にした。
村の中には近くの村から避難してきた人達もいるようで、彼方此方にテントを張っている姿が見られた。その誰もが自分の事を指差しながらヒソヒソと何かを話している。
「チッ、ここでもかよ。」
ロイドは舌打ちした。彼らにとってロイドが光子様御一行の一人である事が気にくわないらしい。仏頂面をしながら歩いているとユアンがやってくるのが見えた。
「どうしたロイド。ずいぶんとご機嫌斜めだな。」
「気分が悪くもなるさ。あんな奴らの中にいればさ。」
ロイドは未だ彼に刺すような視線を送り続けている避難民達を顎で指し示しながら愚痴った。
「あれじゃあアンナさんが可哀そうだ。クラトスの奴だって知らん振りしててさ。あいつがあんなに冷たい奴だとは思わなかった。」
これではまるで八つ当たりだ。だが、分かってはいてもロイドは自分を抑える事が出来なかった。
ユアンはそんなロイドを見て苦笑する。
「古代大戦時、旅をしていた私達も同じような目にあった。いや、もっと酷かったかもな。」
ロイドは驚いてユアンを見た。
「当時のハーフエルフに対する差別はこんなものではなかった。私達にとって周りは全て敵。信じられるのは仲間だけだった。その頃の私達はもう、私達の中にしか居場所を見出せなかったのだ。だがな、私たちなどまだマシな方だったのだ。クラトスに対する仕打ちはある意味私達三人以上のものだった。」
「!!!」
「人間でありながらハーフエルフに味方する、人類の裏切り者として扱われていた。どこへ行っても私達より奴の方が非難の集中砲火を浴びていたな。言わば奴は私達の盾になってくれていたんだ。」
ユアンはロイドをまっすぐに見詰めた。
「そんなあいつが虐げられているアンナの気持ちがわからぬはずがないだろう。」
「だったら、なんで…」
「人々の考えなんてものはな、短期間でそう簡単に変えられるものではない。それはお前だって身にしみて感じてきたことだろう?だったら私達は何をしたらいい?やがてここを去るであろう私達がしなくてはならない事は彼らを糾弾する事ではないのではないか?」
「……」
その時、村の一角で騒ぎが持ち上がった。何事かと振り返ったロイドの横を、「光子を殺せ!」と口々に叫びながら人々が走り抜けていく。
ロイドとユアンは顔を見合せて、すぐにアンナを助ける為に人ごみの方へと走り出す。
するとそんなロイドの耳に聞きなれた声が飛び込んできた。
「いい加減にしないか、お前達!!」
ロイドはなんとか人ごみの間から中を覗き込んだ。そしてその状況に目を見開く。
人々に取り囲まれているアンナの前にクラトスが立ちはだかっていた。アンナはそんなクラトスの背で顔を伏せ震えている。
「光子なら俺達の為に死ぬのが当然だろう!」
「お前が早く死なないから俺達は村を棄て避難してこなくてはならなくなったんだ!」
「死ね!早く死んじまえ!!」
「黙れ!!!!」
口々に罵倒を浴びせる人々にクラトスの怒号が響き渡った。その凄まじさにロイドさえもピクリと体を震わせた程であった。
当然のごとく辺りは一瞬にして静まり返る。
「大の男どもがよってたかって、恥ずかしいとは思わないのか。彼女はたった一人で必死に戦っているのだ。それに比べお前達は何だ!彼女一人に全てを押し付け自分では何もしようとしない。そればかりか当の彼女に向って自分達の為に死ねだと?ふざけるな!!」
「その為の光子だ。それは仲間であるあんたにも言える事だ。」
暴動のリーダー格の男が言った言葉に、クラトスは鼻で笑った。
「フン、何故私がお前らの為に死なねばならんのだ。お前たちなど守る価値もない。」
「何だと!!」
「よさんか、馬鹿者どもが!!」
なおもクラトスに詰め寄ろうとする人々を今度は長老ブラストが怒鳴りつけた。
「お前達、あろう事か光子様に向かって死ねなどともっての他じゃ。そんな事をいう者どもは即刻村から出て行ってもらおう。」
「困ってる私達を追い出そうと言うのか。とても聖地を統括する者の言葉とは思えん。」
「この聖地において光子様を侮辱する言葉を吐くなど万死に値する行為じゃ。そんな輩は、この方の言葉を借りて言うなら守る価値もない。悔い改めるのなら許しもしよう。じゃが、なお非難を続けると言うのならこの聖地から出て行ってもらいたい。」
長老の叱責に人々はうな垂れながら散って行った。それでもリーダー格の男は最後まで不満そうにしていたがやがて小さく舌打ちすると自分のテントに戻って行った。
クラトスは長老に一礼しアンナを抱え起こした。ロイドと目が合う。
「お前を止めておきながら自分自身が暴走するとは、みっともない姿を見せてしまったな。」
苦笑してそう言うと、アンナを村の隅へと連れて行った。
アンナは人気のない所までくるとクラトスにしがみついて泣きだした。
「御免なさい。もう泣かないって誓ったのに。でも、今だけは許して。これが最後だから。」
声を殺して泣き続けるアンナをクラトスは優しく抱きしめ、彼女が泣き終わるまで静かに見守っていた。
馬鹿だな、俺。一番辛いのはアンナさんなんだ。
なら、俺達はそんな逆風の中必死に頑張ってる彼女の為に本当の意味で安らげる場所を作ってあげればいいじゃないか。
クラトスは自分がその居場所になろうとしていたんだ。表だって庇うのではなく陰で支えて行く道を選んだ。
何でクラトスが冷たいなんて思っちまったんだろ。本当に馬鹿だ。
だったら俺は二人の居場所になってやるよ。二人だけではどうしようもなくなった時、俺があんた達を守ってやる。
だから二人とも安心して進んで行けばいい。
疑ってごめんな、クラトス。
クラトスとロイドが見守る中、アンナはいつまでも涙を流し続けていた。
−本当の優しさ 終−