8.風の神殿へ


 クラトスとユアンがブラストの屋敷到着すると、玄関にロイドが立っていた。二人の姿を見ると駆け寄ってくる。
「何していたんだよ。アンナさんとダイナスさんはだいぶ前に戻って来たんだぜ。それなのに二人ともなかなか来ないもんだから心配してたんだ。今探しに行こうかと思ってたんだぞ。」
 ロイドは心配そうにクラトスを見た。
「まさか村に避難してきてる奴らにまた絡まれたんじゃないだろうな。」
 クラトスはロイドを安心させるかのように笑顔を浮かべ、
「それは済まなかったな。少々のんびりと歩いて来すぎたようだ。別に絡まれていた訳ではないから心配するな。」
 ロイドの頭をポンポンと叩くと屋敷の中へと入って行った。ロイドも続いて入ろうとしたのだがその腕をユアンがむんずと掴んで引っ張った。
 危く転びそうになったロイドは驚いてユアンを睨みつける。
「何すんだよ、危ないだろ!!」
「ロイド、オリジンはどうしてる?」
「え?オリジン?…あいつなら今も元の世界に戻る方法を探してるはずだぜ。あいつがどうかしたのか?」
「奴に話がある。連絡は取れるのだろうな。」
「エターナルソードがあるから呼ぶぐらいならいつでも出来ると思うけど…一体何なんだよ。」
 ユアンは屋敷の中の様子を窺うと、ロイドを玄関から少し離れた場所へ引っ張っていった。そしてロイドの両肩をガシッと掴むと珍しく真剣な表情で言った。
「ロイド!お前はもう立派な大人の男だ。そうだろう?」
「あ、当たり前だろう。俺が女に見えるかよ。」
 いきなり何を言い出すんだこいつは…という目でロイドはユアンを見た。
「私の目を見ろ。ふざけているように見えるか?見えんだろうが。」

 真剣…なんだろうな…とは思うけど、今一それが伝わってこないのはこの男の性(さが)とでも言うのだろうか。

 ユアンはロイドが曖昧な笑いを浮かべ黙ったままなのを見てそれを肯定と受け取ったのか、更に顔を近づけてくると言った。
「いいか、お前を男と見込んで話すのだ。これは機密事項だ。誰にも言うのではないぞ。」
 “きみつ”ってなんだ、と思ったロイドであったが、ユアンの迫力におされ訳も分からずコクコクと頷くのであった。



 それから少しして皆が集まっている部屋へと現れたユアンとロイドを見て、アブソーブが眠たそうに言った。
「一体何をしてたんじゃ二人とも。待ちくたびれてもう少しで寝てしまう所だったぞ。」
「少々野暮用があってな。我々とて暇ではないのだ。…ていうか、何故お前がここにいる!?」
「まあ、それは後でお話しするとして、これで全員揃った訳ですな?」
長老のブラストが苦笑しながら二人の会話に割って入った。
「では、話を始めましょうか。これから光子様とクラトス様は風の神に会いに神殿へと向かう事になる訳ですが、皆さんもご承知のようにこの辺りの魔物は強いものが多く出没します。サラとも話したのですが、二人が無事に聖剣を完成させる為にも今回は誰かが同行した方がいいのではと思いましてな。」
「誰かが、なんて言ってないで皆で行けばいいじゃんか。それが一番確実だろ。」
 ロイドの言葉にサラが言った。
「ええ。確かにその通りです。ただ、これはアブソーブ様がここに来ている事と関係してくるのですが、今回この地に聖地の長老が集まる事になったのです。」
「長老が?それはどういう事だ?こんな時期にこんな危険な所に集まったりしたらエビルに襲われかねんぞ。」
 ユアンが目を丸くした。
「危険は承知です。しかし、今この時期だからこそ各聖地の力を合わせなければならないのです。風の神の力を得たとしても聖剣の完成にはあと一つ力が足りません。」
「光の力…ですね。」
 アンナの言葉にサラは頷き、
「その光の聖地を見つけ出し光の神を蘇らす為には、残りの四神の力が必要なのです。そして四神を呼び出す事ができるのは聖地の長老だけ。そこで長老達が集まり光の聖地を探す為の会議を開く事にしたのです。光子様達だけに全てを押し付ける訳には行きませんからね。本当は王都グランディアにて開かれるのが筋なのですが、今の王は己の保身の事しか頭にありません。このセネリアは次元の門に一番近い聖地であると同時に、他の聖地に比べ聖なる力が最も強く働いている地でもあります。ですからここを開催の地に選んだわけです。」
「つまりその警護のために誰かに残ってもらいたいということか…」
 クラトスが呟いた。
「ならば私達はやはり二人だけで行った方がよくはないか?この地の未来の為にも長老達を失う訳にはいかないだろう。」
「そうよ。私たちなら大丈夫ですから。だって今までだって二人だけで乗り越えてきたんですもの。」
「いいえ。先程もブラストの話にもあったようにこの辺りの魔物は今までとは違います。その上神殿への道は入り組んでいて分りにくい。長老達が大切なのは確かですが、お二人を失う訳にも行かないのです。お二人を失うという事はこの地の唯一の希望を失う事なのですから。今回の神殿への旅には私が同行します。」
「貴方が!?しかし…」
「いや、サラが一番適任なんです。」
 渋るクラトスへブラストが言い切った。
「神殿への道にも詳しいし、魔力も回復、攻撃共に格段に強い。サポート役には一番でしょう。問題は他に誰が付いて行くかという事です。サラの意見では魔術が駆使できるダイナス殿と、あとはロイド殿とストレイ殿に残ってもらうのがいいと。そしてお二人にはユアン殿が同行して…。」
「いえ。私達はストレイ殿を連れて行きたいと思います。」
 クラトスがブラストの言葉を遮った。
「ストレイ殿を?いや、しかし…」
 今度はブラストが渋った。
「アンナもサラ様も術士です。ユアンもどちらかと言うと術の方に優れている。私一人で敵を押さえておくのは無理があります。ですから前衛で戦える者がもう一人欲しい。」
「ならばロイド殿ではどうだろう。」
「いや、ロイドはこちらに残った方がいいでしょう。」
 クラトスはあくまでストレイ同行説に固辞した。そしてストレイの方を向くと、
「ストレイ殿、一緒に来てくれないか。」
「え?あ、ああ、俺は別に構わないですけど…でも、俺でいいんですか?」
「貴殿に来て欲しいのだ。」
「は、はあ…分りました。」
「ということです。ブラスト殿、この振り分けでお願いします。」
「分りました。クラトス殿がそうしたいのならそれで行きましょう。光子様もそれでよろしいですか?」
「え?ええ。構いません。」
「ではすぐに準備を整え出発しましょう。」
 サラが立ち上がり、その後にクラトス、ストレイが続いた。アンナも後を追おうしたが、隣にいたダイナスの呟く声が聞こえ思わず足を止めた。
「何故ストレイなのかの?」
「え!?」
「いや、こう言ってはなんだが、ストレイは戦士としてはまだまだじゃ。クラトス殿の足を引っ張るだけだと思うのじゃが。」
 そう言ってからダイナスは立ち尽くしているアンナに笑って見せた。
「すまん、変な事を言ってしまったようじゃの。心配せんでも大丈夫じゃよ。クラトス殿にも考えがあるのじゃろう。彼が聖剣の完成を望んでいないはずがないからな。それより気を付けて行ってくるのじゃぞ。」
 アンナは頷き、外で待っている三人の元へ走って行った。
 走りながら、アンナはさっきのダイナスの言葉を思い返していた。

“彼が聖剣の完成を望んでいないはずがないからな”

そして自然蘇ってくるユアンとクラトスの会話。

“例え彼らを裏切る事になってもか“
“そうだ“


(彼が聖剣の完成を阻止しようとしている?…そんな事ない。そんな事あるはずがない。)

 アンナは浮かんできた不信感を無理矢理頭から振り払うのだった。


−風の神殿へ 終−