9.ユアンの焦り


 神殿へ向け旅立っていったクラトス達を見送ると、ブラストは早急に行動を開始した。まず最初に手を付けたのは、セネリアに避難してきた者達をここから他の聖域へ移す作業であった。守りは固めているもののいつ何が起こるか分らない現状を考えると、被害を最小限に抑える為にも彼らには他へ移ってもらう方がいいと考えたのであった。移動先は火の聖域イグネウスとした。そこならここから近いし、大勢の避難民達を受け入れる広さも兼ね備えている。イグネウスの長老のブラントには今回開かれる会議の話を持ちかけた時にその件の了承も得ていた。
 当然の事、最初は難色を示していた避難民達もブラストの熱心な説得にようやく折れ、ブラントが連れてきた兵士たちに守られながらイグネウスへと移動して行った。
「あいつらだけで大丈夫かな。」
心配そうに呟いたロイドにブラントが笑みを浮かべて言った。
「大丈夫ですよ。ああ見えて彼らは優秀な兵士たちです。守護竜と戦えと言われれば少々難がありますが、そこら辺のモンスター相手なら十分通用する戦力ですから。」
「そっか。ならいいんだけどさ。」
「しかしお前が心配するとは意外だな。お前は奴ら避難民達を嫌っているものと思っていたのだが。」
皮肉たっぷりにそう言うユアンへロイドは食ってかかった。
「当たり前だろ。いくら嫌ってたってあいつ等の死を望んでいる訳じゃないんだから。」
「まあ、まあ、まあ。そんな事で喧嘩しないで下さい。今から仲間割れしていたんじゃ先が思いやられます。」
ブラストが苦笑しながら二人の間に割って入った。
「私達はこれから会議の準備を整えに屋敷に戻りますがあなた方はどうなさいますか?二階で休む事も出来ますが。」
「ではわしは休ませてもらうかの。年をとると疲れやすくていかん。肝心な時に役に立たなくては仕方ないからの。」
ダイナスがそう言えば、ユアンは、
「私は村の中を見て回ってくる。中の様子をよく知っていた方がもしもの時にすぐに作戦を立てられるからな。」
「なら俺も行くよ。休むったって色々と考えちゃって休めっこないもんな。」
「そうですか。では会議の準備が整ったら呼びに参ります。」
そう言って軽く会釈をするとブラスト、ブラント、ダイナスの三人は屋敷へと戻って行った。
 三人の姿が見えなくなるとロイドはユアンを見た。
「で?」
「まずはオリジンだ。」
「だよな。でもここじゃ人目についてまずいよな。」
「たしか祭壇があったはずだな。あそこならあまり人の出入りはないだろう。」
「んじゃ。そこへ行きますか。」
 祭壇へとやってきたロイドは早速エターナルソードを掲げてオリジンを呼び出した。
「オリジン!!」
『何だ?』
すぐに姿を現したオリジンにユアンが早口でまくし立てた。
「すぐにでも一度シルヴァラントへ戻りたいのだ。戻る方法は見つかったのか?」
『無茶を言うな。そんなにすぐに見つかったら苦労はせんわ。』
「何をグズグズしてるのだ。こっちには時間がないのだ。」
『私とて遊んでいる訳ではない。ワープポイントが次元の門にあるという事までは突き止めてあるわ。』
「…次元の門?馬鹿なそれではエビルを倒さない限り戻れない事になるではないか!」
『そう言う事になるな。その他にも付近で開いたり閉じたりしているポイントもあるのだが、こっちはいきなり現れたり消えたりするものだから場所を特定するのは不可能に近い。確実なのは次元の門しかないのだ。それにさっきお前は“一度”戻りたいと言ったな。それが今一度こちらに戻ってくるという意味で言ったのなら、それは無理だな。現時点では往復する事は出来ん。』
「現時点ではという事はもう少し待てば可能になるという事か?」
『可能になるかもしれんし無理かもしれん。とにかく私の力を補う物を見つけ出せてない今の段階では全て推論でしか答える事は出来んのだ。』
「くそ!それでは間に合わない。」
 ユアンは歯ぎしりしながら必死に考えを巡らせた。
「そうだ!今ここにはアブソーブが来ていたな。こうなったら奴に賭けるしかないか。」
 そう叫ぶと、物凄い勢いで走り去って行ってしまった。
『何なのだあいつは。何を焦っているんだ。』
「オリジン、実はさ……」
 訳の分らない様子のオリジンに、ロイドは溜息をついて詳しく説明を始めるのだった。



 一方ユアンは猛スピードで屋敷へと戻り、血眼になってアブソーブを探していた。そして、ようやく庭の隅で欠伸をしながらさぼっている彼を見つけ出すとのしのしと近付いて怒鳴リ付けた。
「おい、アブソーブ!!」
「げ!?な、なんじゃ勇者殿。怖い顔をしてどうしたんじゃ。」
「地の神というのは大地の事には詳しいはずだな。」
「そ、そりゃあその道のプロフェッショナルじゃからな。」
「お前は神を呼び出せるはずだな。いますぐ呼び出せ。」
「今?ここに?」
「何度も言わせるな!!」
 ユアンの物凄い剣幕にアブソーブは身を竦めた。
「分った。分りましたからそんなに怖い顔をせんでくだされ。」
 アブソーブは急いで地の神を呼び出した。現れた地の神は実に不機嫌そうであった。
「何だ?ここは風の聖域じゃにゃいか。こんな所に呼び出さないで欲しいじょ。」
「つべこべ言わずに私の質問に答えろ!」
「ヒィ〜!何なのだこいつは。なんだか怖いじょ。何でも教えてやるから早く解放してほしいにゃ。」

 (地の神をこれ程までにビビらすとはやはり勇者様はただ者ではない!)

 アブソーブは、臆する事無く何やら神に尋ねているユアンを、尊敬の眼差しで見詰めるのだった。



 それからしばらくしてようやくオリジンへの説明を終えたロイドが屋敷へと戻ってくると、ちょうど出てきたユアンとぶつかった。
「ああ、ユアン。どうだった?」
「駄目だ。万策尽きた。」
「……」
「くっそお!一体どうすればいいんだ。」
「何とかなるって!」
「ロイド?」
「今までだってそうだった。ミトスとの戦いの時だってギリギリまで追い詰められても何とかそれを乗り越えられたんだ。だから今回だって必ず乗り越えられるはずさ。そうだろう?諦めちまったらそれで終わりなんだ。」
「諦めたら終わり、か…全くお前って奴は本当に不思議な男だな。」
「それ、あんたには言われたくない。」
「だが、クラトスが心配だ。大丈夫だろうか。」
「父さんなら大丈夫。ちゃんと手は打ったからさ。」
「手は打った?」
「そう言う事!」
 不思議そうに首を傾げるユアンにロイドはニッコリと笑って見せるのだった。


−ユアンの焦り 終−