2.封印
アンナとロイドが長老の屋敷へと戻ってくると、それを待ち構えていたかのようにブラストが走り寄ってきた。
「おお、光子様。ただいまダイナス殿捜索の為の兵士を集めている所です。あそこの谷底には裏道を通って下りて行く事ができますが、何しろ下を流れている川の流れが速いですから広範囲にわたっての捜索になりそうですな。そうそう、あとクラトスの代わりにもう一つの聖剣を持ち貴方と共に戦う戦士も探さねばなりませんでしたな。こちらの方も早急に兵士達のなかから腕の立つ者を選出するとしましょう。」
アンナはそれを聞いて一瞬黙ったが、すぐにはっきりとした口調で言い切った。
「いいえ。ダイナス捜索は取りやめにします。それにクラトスの代わりも必要ありません。」
「何故です。裏切り者が出た以上、これからの戦いにダイナス殿の存在は不可欠だと思いますがな。彼は優れた術師であると同時に非常に経験も豊富で頭の切れる方だ。軍師として貴方を助けてくれるはずです。そうだ、ダイナス殿にもう一つの聖剣を託すのもいいかもしれませんね。」
するとそこへ二階からストレイが下りてきて叫んだ。
「そのダイナスこそが裏切り者だったんだよ!」
そしてあの戦闘の最中にあった事をつぶさに説明した。だが、その話を聞いてもなお、ブラストはそれを否定する。
「ストレイ・・・こう言ってはなんだが、お前は戦闘に関してまだまだ未熟だ。あの混乱の中、緊張のあまり幻でも見たのではないか?考えてもみろ。ダイナス殿が裏切り者だというのなら、何故魔物は彼を襲ったのだ?」
「そ、それは・・・それにはきっと何か裏が・・・」
「お前がクラトス達別世界の者を信じたいと思う気持は分かる。お前はクラトスから剣の指導を受けたりして彼を尊敬しているようだったからな。だが、いくら彼を庇いたいからといっても、嘘をつくのはいかんぞ。」
「嘘じゃない!クラトスさんは何も悪くはないんだ!どうして信じてくれないんだ。」
ストレイは懸命に理解を求めたが、ブラストは全く取り合おうとはしなかった。すると、
「私はストレイの言葉を信じます。」
きっぱりとした声。アンナだった。
「ストレイは共に戦ってきた信用できる仲間です。その彼がそう言っているのですから、私は信じます。」
ブラストはやれやれという感じに大袈裟に溜息をついた。
「光子様。仲間の言う事を信用したいというお心は立派だと思います。だが、そんな情に流されて真実を見失ってはいけません。あなたはまだ若い。人を見る目にかけてはまだまだのようだ。」
「貴方の言う通りです。私は未熟者です。クラトスの真意を理解できず彼を疑ってしまい信じ切る事ができなかった。その為に私は本当に大切なものの手を離してしまったんです。」
「光子様!私が言っているのはそういう意味ではなく・・・」
「私は光子です。その私が決めた事にあなたは異を唱えるのですか?あなた方聖域の長老は本来私に従うべき身のはずです。」
凛とした声。迷いのない力強い光を放つ瞳でまっすぐにブラストを見ている。
「捜索は取りやめとします。そしてクラトスの代わりもいりません。神に認められた戦士は彼だけです。他の誰にもその代わりなどできようはずがない。私自身他の人と共に戦う気にはなれません。これからは聖剣の完成を優先事項とし行動していく事とします。これは光子である私の命令として受け取って下さい。」
「どうなっても知りませんぞ!」
ブラストは吐き捨てるようにそう言うと向こうへ行ってしまった。
「光子さ・・・アンナ、長老にあんな口きいて大丈夫なのか。」
ストレイが心配そうに声をかけてきた。
「私はクラトス以外の人が聖剣を持つ事を許さない。だって、これは彼のものだもの。クラトスは必ず戻ってくる。私はそれまでの間預かっているだけ。他の誰にも渡す気はないわ。そして私は彼が戻るまでに聖剣を完成させようって考えている。そうすれば彼が戻って来た時にその完成した聖剣を渡す事ができるでしょう。それがクラトスを信じる事ができなかった私の彼への償いだと思うの。」
そこでアンナはクスリと笑うと、悪戯っ子のような顔をしてストレイを覗き込んだ。
「ところでストレイ。今あなた、私の事アンナって呼んだわよね?」
「えっ!?い、いや・・・あれは・・・」
慌てるストレイ。だが、アンナは微笑んで、
「違うの。責めてるわけじゃないのよ。その逆。ストレイったら、私が光子になってからは、全然名前で呼んでくれなくなったから本当は寂しく思っていたの。だから嬉しかった。有難う。」
二人は顔を見合わせると声を上げて笑った。
と、その時、ズドーンというものすごい音と共に屋敷全体が大きく揺れた。同時に兵士が駆け込んでくる。
「大変です、神殿が!!」
「神殿がどうしたと言うのだ!」
「と、とにかくこちらへ。」
兵士は全員を屋上へと連れて行った。
「なんだ、あれは!!」
驚愕の声を上げる一同。見ると風の神殿のある場所に光の柱が立っていた。周りを見回すとその柱は風の神殿だけでなく、水、火、地の四つの神殿全てに立っている。そしてその光の柱は徐々に光を失っていき最後に一瞬輝いたかと思ったら、黒いドーム状へと形を変え、それぞれの神殿をすっぽりと覆ってしまったのだった。
「闇の力・・・」
そのドームを見詰めていたサラが呟いた。それを耳にしたブラストは目を大きく見開きサラを見る。
「・・・何?今・・・何と言った?」
「あの黒いドームから強大な闇の力を感じます。そんな力を使う事が出来るのはエビルしか考えられません。」
「・・・つまり・・・」
「四神は再びエビルによって封印されてしまったという事です。」
「馬鹿な!!!」
ブラストは叫んだ。
「まだ聖剣は光の力を授かっていないのだぞ!光の聖地であろう地は見つける事ができたものの、そこへ入るには四神の力がいるんだ。その四神が封印されたとするならもう聖剣は完成しない事になるではないか!」
ブラストはガクリと膝を付いた。
「もう・・・お終いだ・・・」
「いいえ、まだです。まだ終わってなんかいない!」
叫んだアンナをブラストは睨みつけた。
「終わってないだと!?四神が封印された今もう我々には何も出来ないではないか。最後の頼みの綱である聖剣はもう完成できない。もう、エビルを倒して平和な世をとりもどすなんて事は不可能になってしまった。道は閉ざされてしまったのだ。後は、光子様、貴方がエビルの生贄となるしかないという事になりますな。」
「・・・分かっています。でもそれは最後の手段です。私はまだ聖剣を諦めてはいません。諦める訳には行かないんです。私は、例え一人になったとしても光の聖域へと向かうつもりです。」
「無駄な事ですよ。聖域に行ったとしても一体どうするつもりなのです?何も出来はしないでしょう。最後の手段も何も、もう他に手立てなどないのです。貴方には気の毒ですが、こうなった以上光子としての使命を果たして頂くしか方法はないのですよ。」
ブラストの言葉に、アンナは何も言い返す事ができず目を伏せ黙り込んだ。アンナ自身、どうすればいいかなど分からなかったのだ。
「決まりましたな。貴方がこれから向かうべき場所はローネリー村ではない。次元の門です。貴方はエビルと同じく全ての力を使いこなす事が出来る光子ですから期待をしていたのですが、やはりエビルを倒す事は無理だったようですね。残念です。次元の門までは護衛の兵士をお付けしましょう。無事光子としての使命を果たされる事を祈っております。」
そう言ってブラストは、この事態を知らせにきた兵士に、アンナを連れて行くように指示を下した。だが、兵士はアンナとブラストの顔を交互に見ながら躊躇している。すると、今まで二人の会話を黙って聞いていたサラが堪りかねたように叫んだ。
「いい加減にして下さい!!」
普段のサラからは想像できないその声に、ブラストは目を丸くした。
「私はお父様に、怪我をして倒れていた所を助けてもらった上に養女にまでして頂いたという恩があります。ですから今まで貴方のする事に逆らう事は致しませんでした。ですがもうそれも限界です。
一体どうしたというのです?魔物の襲撃があってからというもの貴方はすっかり変わってしまった。以前の貴方ならそんなに簡単に諦めたりはしなかったはずです。光子様に対しても先程のような事は絶対に言ったりはしなかったでしょう。魔物に襲われた事でエビルに逆らう事が恐ろしくなってしまったのですか?
私は今のお父様を尊敬する事はできません。もっとはっきりと言ってしまえば聖域の長としては失格だと思います。もう一度聖域の長とはどうあるべきかよく考えてみて下さい。そして、以前のように何者をも恐れない強い意志と信念をもったお父様に立ち戻られる事を切に願っております。私は光子様と共にローネリーへ向かいます。」
「待て、サラ。勝手な事は許さんぞ!」
サラは悲しげな目でブラストを見ると、静かに首を横に振った。
「私は光子様を導いて欲しいとクラトスに頼まれました。私は彼との約束を破る訳には参りません。」
「何故だ。何故お前があの男のためにそこまでしなくてはならんのだ!?」
サラはその問いには答えようとせずにブラストに深々と頭を下げた。
「恐らく私はここへ戻る事はもうないでしょう。今まで本当にお世話になりました。有難うございました。・・・さあ、行きましょう、アンナさん。」
ブラストは、そのまま振り返りもせずにアンナを連れ立ち去って行くサラを止める事も出来ずに呆然と立ち尽くしていた。
−封印 終−