7.光の神


 放出される聖剣の力を制御する為に、アンナとロイドは全神経を集中させていた。少しでも気を抜けば力が暴走し大惨事になりかねない。そんな二人を固唾を飲んで見守る残りの三人。
 そんな中、サラが聖剣に起こった異変に気付いた。何か別の力が聖剣へと注ぎこまれている。徐々に膨れ上がって行く力に対応しきれずに聖剣を持つ二人の顔に苦渋の色が浮かんで来た。このままでは力を抑えきれずに暴走してしまう。
 サラは素早く辺りを見回した。
(エビル!!?)
何もない空間。普通の人間では決して見る事の出来ないそのわずかな時空の歪みがサラの目にははっきりと確認する事が出来た。
 エビルが聖剣に向けて力を注いでいる。四神の力だけでも強大なものなのだ。その上にエビルの力が加わったとしたら、この二人には到底抑えきれないだろう。
(いけない!このままでは大変な事になる。なんとかしなければ…)
サラが術を唱えようと精神を集中したその時、
「いや〜〜〜〜〜!!!」
「!!!」
 振り返ったサラの目に、どんどんと大きくなっていく聖剣の力に耐えきれずに悲鳴を上げているアンナの姿が入ってくる。
「落ち着きなさい、アンナ。私があなたを補助します。大丈夫、あなたなら抑えられます。」
「…サラ様…でも、私はもうこれ以上は…」
 辛そうに顔を歪めるアンナ。その大きな瞳には涙が溢れそうになっていた。隣はと見ると、ロイドも限界の状態であった。
そんな二人に向かってエビルの力が更に注ぎ込まれているのが見えたサラは、虚空に潜むエビルを睨みつけた。
(これ以上力が上昇したら確実に暴走する。)
 サラは、エビルの力を遮断するためのバリアを二人の周りに張り巡らせた。だが、エビルの力はそれさえも突き抜けてしまっていた。
「駄目、もう私には抑えられない!!!」
アンナが堪らずに涙を流しながら叫んだ。暴走し始めたその強大な力は、いままさに彼女の体を飲み込まんとしていた。
「アンナ!」
 荒れ狂う力の渦の中で悲鳴を上げるアンナ。
(このままでは皆を巻き込んでしまう!私がなんとかしなきゃいけないのに…駄目だ、私の力じゃもう…助けて、誰か…誰か…)
 必死に耐えながら何とか聖剣を制御しようとするアンナの脳裏に、ある人物の顔が浮かんで来た。
 いつも自分を力強く導いてくれていた人。こんな、弱くて我儘で、どうしようもない自分をいつも温かく包み込んでくれた人。
 アンナは、しらずしらずのうちに心の中でその人物に助けを求めていた。

 (助けて…お願い、力を貸して…助けて…助けて…)

 そしてその心の声は、やがて大きな叫び声となってアンナの口から放たれたのだった。
「助けて!クラトス!!!」
 するとその時、突然にアンナの胸のあたりが光り出した。
その小さな光はだんだんと輝きを増し、七色の光のベールとなってアンナ達五人を優しく包み込んだ。
「聖剣の力が…落ち着いてきた…?」
ロイドが目を丸くして呟く。
 ロイドの言葉の通り、あれ程荒れ狂っていた力が、今では制御可能なまでに治まりつつあった。
「よし、なんだかわかんねえけど今なら大丈夫だ。いくぜ、アンナさん!」
「ええ!!」
 二人は、再び封印を解くべく聖剣を掲げたのだった。

 そんな二人の様子を見て、サラはホッと息をついた。エビルの力は完全に遮断されている。これなら何とかうまくいくかもしれない。
 サラは、虚空を見上げた。
 今までそこに存在していた、エビルによって作られた時空の歪みは消えている。サラは、その歪みが消える寸前、エビルに切りかかるクラトスの姿を確認していた。彼が自分達を助けてくれたのだ。
 何故、クラトスがあそこにいたのかは分からない。想像するに、恐らくはエビルが何らかの形でクラトスに接触し次元の門へと連れ去ったのだろう。そうだとしたらクラトスが危ない。不安げに空を見上げるサラの瞳に、一つの光がものすごい速さで次元の門へと飛んで行くのが見えた。

(あれは…ブレイズ?……彼が動き始めたという事は…)

 ハッとしたようにアンナ達の方へ振り返ったサラ。
 封印のかけられた岩壁が震動を始めていた。その揺れは徐々に大きくなっていき、やがて眩い光と共に、ガラガラと音を立てながら左右に開いていった。
「やったー、開いた!開いたぞ!!」
「二人ともよく頑張った!」
 ストレイとアブソーブが喜びの声を上げながら、開いた岩壁の前に疲れ切って呆然と佇んでいる二人へと駆け寄って行く。そして、二人を抱きしめポンポンと叩きはじめる。ようやくアンナとロイドの顔にも笑顔が浮かんで来て、四人は肩を組んで飛び跳ねながらぐるぐると回り始めた。
「あの七色の光がなかったら危なかったよな。」
とストレイ。あの光はいつの間にか消えていた。
「あれは一体なんだったんじゃろうな。」
アブソーブに言葉に、アンナは大切に胸にかけていた皮袋を取り出した。そしてそれをぎゅっと握りしめ、目を伏せると震える声で言った。
「…クラトスが…彼が助けてくれたのよ。」
 その目から涙が一筋零れ落ちる。
「クラトスが戻って来たら礼を言わなければいけませんね。」
 サラは、アンナに近寄りその体を優しく抱くと言った。
「さあ、行きましょう。彼の為にも聖剣を完全に目覚めさせなければ。」
 開かれた岩壁を見る五人。そして緊張の面持ちで顔を見合わせるとその中へと足を踏み入れたのだった。



 開かれた岩壁の間を、五人はサラを先頭に進んでいた。
 延々と続く長い一本道を五人はただ黙々と歩き続けた。どれ位歩いただろうか、ようやくその狭い道を抜け出す事ができた五人の目の前に、開けた場所が現れた。そこは明るい光に包まれ緑に溢れている、まさに別世界、楽園であった。
 驚き、目を丸くするサラを除く四人。あんぐりと口をあけ、呆けたようにその楽園を眺めている。
「え!?あれは……嘘だろ。」
 しばらく、辺りを見回していたロイドが小さく声を上げるといきなり走り出した。
「ちょ、ちょっと、ロイド君!?」
 残りの者も慌てて彼の後を追う。
 ロイドは一本の大きな木の前で立ち止まり、それを見上げていた。
「な、なんじゃ…一体どうしたと言うんじゃ。」
「…マナの木だ。これ、マナの大樹だ。」
 そうだろう?というようにサラを見るロイド。サラはゆっくりと首を縦に振ると、大樹の前に立った。
「そうです。ただこれは、あなた方の世界にあったマナの木とは少し違います。これは、あなた方の世界の大樹に似せて、私が全ての力を使い創りだした物…」
「つ、創りだしたって…あんた…」
アブソーブは目を丸くして口ごもる。
「アンナ、その革袋を貸して下さいますか?」
「え?…は、はい!」
 サラは、慌てて差し出されたそれを受け取ると、両手で包みこみ目を閉じた。とたんに眩しい光が発し、サラの体を包み込んで行く。
 そのあまりの眩しさに思わず目を覆う四人。やがてその光が治まると、そこには、今までのサラとは全く別人のような一人の女性が立っていた。サラリと流れるような長い金色の髪。瞳は、不思議な色をしていた。
 その瞳を見たアンナが呟く。
「綺麗な瞳…あの石と同じ七色の光を放ってる…」
 驚愕している四人に、女性は静かな微笑みを浮かべると、透き通るような声でこう言ったのだった。
「ようこそ、光の地へ。私はソアラ。この世界の光の神です。」


−光の神 終−