15.結ばれし時
翌日、クラトス達はアンナの墓参りをしていた。ジーニアスやコレットも来ており実に賑やかに掃除をしている。
二階で眠っていたアンナはその賑やかな声に目を覚ました。ゆっくりと一階へと降りて行くと静かに外へと出て行く。一階で作業に熱中していたダイクはそれに全く気付く事はなかった。
外に出たアンナはこっそりとお墓の様子を覗き見た。
「二人ともしっかりと掃除してくれよー。なんたって母さんは父さんとアンナさんを助けてくれたんだからな!」
「何だよロイド、偉そうに命令してさ。」
「でも、やっぱりロイドのお母様ってすごいよね。私、感動しちゃった。」
「そりゃあ、俺の母さんだからな。」
ロイドは胸を張って自慢げに言う。
「母さんは頭もいいし、美人だし、優しいし、料理だってとっても上手いんだ!母さんの作るカレーライスは最高なんだぜ!」
「…お前は昔の事は覚えていないのではなかったのか?」
「全く覚えていないって訳じゃないよ。カレーが美味かったのはちゃんと覚えてたの!」
呆れ顔のクラトスに、口を尖らせるロイド。コレットがそんな二人を見て笑いながら、
「そう言えばアンナさんはどうしているんですか?」
「まだ眠っているようだ。昨日は色々あったから彼女も疲れているのだろう。」
「でも、本当にアンナさん、助かってよかったですね。」
「母さんが助けてくれたんだ。何しろ母さんの妹だからな。母さんは優しいから愛する妹の危機に駆けつけてくれたんだよ。さすが母さんだよなあ。母さんは優しいし、頭もいいし、その上美人だし…」
しきりに同じ言葉を繰り返すロイドにジーニアスは肩をすくめた。
「それはもう聞いたよ、ロイド…」
「いいじゃないジーニアス。ロイドは嬉しくて堪らないんだよ。あんなにも会いたいって思っていたお母さまにようやく会えたんだもの。」
「さすがコレット!分かってるじゃん。」
「…まあ、気持は分からないでもないけどね…」
「そうだろ?本当の事言って何が悪いんだよ。父さんだって母さんの事褒められて悪い気はしないだろ?」
「ん?…まあ…それはそうだが…」
いきなり話を振られ戸惑いながら口ごもるクラトス。心なしか顔が赤くなっている。
「はい、はい、ごちそう様。まさかクラトスさんがそんな顔するとはね…全く二人とも見てられないよ。」
ジーニアスはそんな親子の姿を見ながら呆れたように呟いたのだった。
その様子をこっそり覗いていたアンナの手が震え出す。それ以上見ている事が出来ずに、アンナは逃げる様にその場から走り去ったのだった。
アンナが立ち去ってしばらくして、ダイクが皆の所へやって来た。何故かしきりに首を傾げている。
「何だよ親父、どうかしたのか?」
「いやな、今、アンナさんトコに朝食を持っていったんだが姿が見えねんだよ。てっきりこっちに来てるかと思ったんだがいないしな。お前達、何か聞いているか?」
顔を見合すクラトスとロイド。
クラトスはハッとして走り出て行く。
「ちょっ、父さん!?」
「アンナを探してくる!」
「探すってどこを…父さん!?」
ロイドは慌てて止めようとしたが、もうそこにクラトスの姿はなかった。
クラトスにもアンナがどこにいるかなど分かってはいなかった。探しに行く場所とて一か所しか浮かんでこなかったのである。だが、彼は確信していた。あそこに行けば必ず彼女に会えるのだと…。
気が付くと、アンナは救いの塔の前に来ていた。
フラフラと瓦礫に腰を下ろすと膝を抱え、顔をうずめる。
「…やっぱり駄目…あの親子の間に他人が割り込む隙間なんてないんだわ。」
“母さんは頭もいいし、美人だし、優しいし、料理だってとっても上手いんだ!母さんの作るカレーライスは最高なんだぜ!”
「私は?……頭は悪いし、我儘だし、料理だって苦手だし…顔は姉さんに似ているから何とかなるとしても、それ以外は全滅じゃない…」
アンナは大きく溜息をついた。
(クラトス…姉さんの事話している時、すごく嬉しそうだったな…そりゃそうよね。姉さんみたいな素敵な女性そうはいないもの…)
「やっぱり姉さんには敵わないなあ…」
アンナが呟いたその時、
「そんな風に他人と自分を比べる事に何の意味があるのだ?」
突然に聞こえてきた声に、アンナはギクリと身を強張らせ慌てて振り返った。
「クラトス!?」
クラトスはゆっくりとアンナに歩み寄ると彼女の額を人差し指で軽くはじいた。そして彼女の前に膝を付くとその顔を覗き込んだ。
「全く、お前と言う奴は…姿を消したかと思ったら、こんな所で何を栓無い事を愚痴っているんだ。」
「…どうして、ここが…?」
「私は、ここから宇宙へと旅立とうとしてグランディアに飛ばされお前に出会った。だからここに来れば必ずまたお前に会えると信じていたのだ。お前がいなくなった時、私には探す場所はここしか思い浮かばなかった。」
“天使様はさ、あそこに行けばあんたにまた会えると思ったんじゃないかな。”
ゼロスの言葉を思い出し、ハッとするアンナ。思わずクラトスの顔を見詰める。クラトスは優しく笑っていた。
「思った通りだった。ここに来たらこうしてお前に会う事が出来た…お前はどうするつもりだったのだ?また私の前から黙って消えるつもりだったのか?」
「…ロイド君が姉さんの事を自慢しているのを聞いていたの…貴方もとても柔らかな表情で照れくさそうに微笑んでた。あんな貴方を見たのは初めてだった。やっぱり姉さんは凄いって思ったわ。だって私には貴方にあんな顔をさせる事なんて出来ないもの。
私はどう逆立ちしたって姉さんには敵わない…姉さんは、頭が良くて、優しくて、何だって出来る。でも私は姉さんと違って頭も悪いし、性格も我儘だし、料理だって下手だし、何にも出来ないのよ。」
「確かにそうだな。」
迷いもなくそう言い切るクラトスにアンナは傷ついた表情を浮かべた。そんなアンナを見て苦笑するクラトス。
「だが、それがどうだというのだ?お前はお前だ。あのアンナとは別個の人間なのだ。違って当たり前だろう?私は妻とお前を同じ人間だと思った事は一度もない。お前に妻と同じようになれと願った事もな。」
「…でも、こんな私がいたって迷惑になるだけだわ。クラトスの傍にいる資格なんてないのよ。」
「ロイドは初めて目にした母親を美化しているだけだ。彼女だって欠点はたくさんあった。完璧な人間なんてどこにもいないんだよ。だから人は助け合う。お互いの欠点をカバーしながら生きているんじゃないのか?私は確かに妻のアンナにそっくりなお前に興味を持った。だが、いくら顔が似ていてもそれだけでは愛するまでにはならなかっただろう。私は、お前の中にある強さと優しさに惹かれたのだ。お前自身を愛したのだよ。」
クラトスは、目を見開いているアンナを抱きしめた。
「…どこにも行かないでくれ。私にはお前が必要なんだ。」
「私でいいの?何も出来ない私で本当にいいの?」
クラトスは、震える声でそう言うアンナを離すと、その顔を見詰めた。
「お前はさっき資格という言葉を使ったな。だがな、アンナ。人が人を愛するのに資格なんて必要なのだろうか?資格なんて必要ないんだ。お互いが必要だから傍にいる。それでいいのではないか?自分が未熟だと思ったら努力すればいい。二人で力を合わせて理想に近付いて行けばいいじゃないか。」
アンナは、クラトスの顔を見てハッとした。
クラトスが微笑んでいたのである。それは、あの姉の話をしていた時浮かべていた穏やかな優しい笑みだった。
(私ったら馬鹿みたい。彼はいつだってこんな笑みを浮かべて私を見ていてくれたじゃない。この笑みがもう一度見たかったからこの世界に来たんじゃなかったの?それなのに私は…私は…)
アンナの目から涙が溢れてくる。
「それにお前は私の守護竜ではなかったのか?守護竜は常に傍にいるべきだ。そうは思わないか?」
アンナは涙を流しながら笑顔を浮かべた。
「…そうだね…そうだったね…」
そしてクラトスの胸へと飛び込んで行く。
「…有難う、クラトス。もう離れたりなんてしない。ずっと一緒にいるわ。大好きよ、クラトス。心の底から愛してる!」
「私も愛してる。もう、絶対に離したりしない。」
二人はしっかりと抱き合い、そして誓いの口付けをしたのだった。
−結ばれし時 終−