3.悲しき再会


 アンナは、無事にクラトスの世界へと降り立つ事が出来た。
「なにかしら、この感じ…息苦しさから解放されたような、すごくホッとする感じがする。」
「私達の世界に比べるとマナが安定しているからですよ。よく見てごらんなさい。あなたならマナを見る事が出来る筈ですよ。」
 ソアラの言葉に、アンナは周りを見渡してみる。其処彼処でチラチラと輝き舞い落ちている光。向こうの世界ではあまり見る事ができなかった光の舞がアンナの目を釘付けにした。
「この光の粒…これがマナ?」
「本来はこんなもんじゃないんだぜ。この大地いっぱいにマナが舞っているのが本当なんだ。この世界でも大樹が目覚めたのがつい最近の事だから、まだこれ位しか復活してねえけど、それでも俺らの世界よりはましだろ?」
 ブレイズが、目を輝かせマナに見入っているアンナに説明する。
「とてもきれい。私達、こんなに美しいものの存在に気付かないでずっと生活していたのね。私達の世界にもあったはずなのに。」
 キョロキョロと周りを見回していたアンナは、向こうの方に何か塔が崩れたような残骸を見つけ目を丸くした。
「…あれは何?」
「ああ、あれは救いの塔ってやつだ。そうか、あのワープポイントはここに通じていたって訳か。」
「すくいのとう?」
「クラトスから聞いただろ?」
「あの二つの世界をつないでいたっていう?確かあそこからデリス・カーラーンへ行けるのよね。」
「あそこに見えるのがデリス・カーラーン。でも、もうずいぶんと離れちまったな。」
 アンナはゆっくりと塔へと近付いて行った。
(あれがクルシスの象徴ともいえる救いの塔。塔は崩れ去ってしまったけど、この存在は未だクラトスの心に大きな傷となって残っている・・・)

 “私もエビルと同じなんだ。多くの人々を欺き、苦しめて来た。”

 アンナはあの時のクラトスの苦悩に満ちた表情を思い出しながら、塔に向って歩き続けた。そして、塔を見上げるまでに近づいた時、アンナの足が止まった。
 崩れた塔の前に誰かが立って同じように上を見上げている。鳶色の髪に紫紺の服。そしてその背には蒼く輝く羽があった。
(クラトス!?…間違いない、彼だ!!)
 アンナの顔が輝き、その懐かしい人に向かって走り出した。
 だが、あと少しという所まで駆け寄った時、アンナは何か殺気のようなものを感じ咄嗟に後ろへと跳んだ。同時に今まで彼女が立っていた所に何かがつきささり、直後雷が落ちてきたのだった。それを見たアンナの目が見開かれる。

 (何よ、これ!?)

「ちっ!外しちまったかい。」
「駄目だな、しいな。修行なまけてたんじゃねえ?」
「うるさいね。あんただって外してるじゃないか!」
 アンナとクラトスの間に割って入って来た一組の男女。目の前のアンナに構わず、そこで喧嘩を始める。
「でも、天使様、ここにいたっしょ?どうよ、俺様の鋭い推理!」
「何言ってるんだい!クラトスはいなくなった時、いつもここにきてるだろうが。そんなの推理でも何でもないよ!」
「お?言ってくれるじゃん、このドジな暗殺者が!」
「うるさいよ、エロ神子!!」
 際限なく続きそうな喧嘩に、アンナは恐る恐る口を挟んだ。
「…あのぉ〜〜」
 アンナの声に同時に振り返る二人。バンダナをした赤い髪の男が今までとは違う鋭い目でアンナを睨みつける。
「何だよ、あんた。まだそこにいた訳?天使様を襲おうったってそうはさせねえよ、消えな!」
「あたしたちが来たからにはクラトスには指一本触れさせないよ。」
「え…いえ…違うんです…私は…」
 二人の物凄い形相にしどろもどろになるアンナ。そこへ、ブレイズとソアラもやってきて、二人と三人はその場で睨み合う形となった。
「ヘッ!おばさんに変な男に女の子とは、ずいぶんとちんけな刺客だな。」
と、ゼロスが吐き捨てれば、
「てめえらこそ優男に乳デカ女たぁ、珍妙なコンビじゃねえか。もしかして漫才コンビか?」
ブレイズがすかさず応酬する。
 アンナはオロオロとし、ソアラといえば、こんな低レベルな争いには関わりたくはないといった様子だ。
 すると、険悪なムードが漂う両者の間に、突然にクラトスが割り込んできた。
「ちょっ、天使様?」
「クラトス?」
 驚くゼロスとブレイズを余所に、アンナの前に立つと、じっと見下ろしてきた。
 別れた時と同じ、ガラス玉のような無表情な瞳。
「……どうして?」
 そんなクラトスを見上げていたアンナの口から呟きにも似た小さな声が漏れる。その声は心なしか震えていた。
「どうして?…治ってないじゃない。元に戻ってないじゃない。どうして?どうしてよ!!」
 うわ〜〜っと泣き出し、クラトスにしがみつくアンナ。
「貴方の笑顔が見たかったのに!貴方の声が聞きたかったのに!どうしてなのよ、クラトス!!」
 子供のように泣きじゃくるアンナに当惑して顔を見合わせるゼロスとしいな。
 と、ちょうどその時、ゼロス達の姿を見つけ、ロイドとユアンがやってきたのだった。三人の扱いに窮していたゼロスとしいなは、この現れた救いの神にホッとした表情を向ける。
 だが、ロイドはその場の状況に全く気付く様子もなく、てけてけとやってくると、
「何やってるんだよ。クラトス見つけたらすぐにアルテスタさんのトコに連れて来いっていっただろうが!」
と、文句を言う。そんなロイドに、アンナ達を指差してみせるゼロスとしいな。
 そこで初めてロイドは三人の存在に気付いたようで、目を丸くしてこうのたまうのだった。
「あれ?アンナさんに祖母ちゃんにブレイズ?なんでここにいるんだ?」



 「そうかい、あんたがアンナさんだったのかい。悪かったね。てっきりクラトスを襲いに来た奴だと思っちまってね。」
 頭を掻き掻き三人に詫びるしいな。ゼロスは面白くなさそうにソッポを向いている。
 ここはアルテスタの家。ロイドが事情を説明し、お互いに自己紹介を済ませた所だった。クラトスは今アルテスタの診察を受けている。
「あの…クラトスを狙ってる人がいるんですか?」
「あの人はクルシスの天使だったんだぜ。俺達神子同様、逆恨みする連中にいつだって狙われてるんだよ。あんたら別の世界の人には分かんねえだろうけど。」
「気にしないでおくれよ。ちょっと臍曲げてるだけだからさ。」
 きつい口調でいうゼロスをとりなすしいな。
「へそ?どうして?」
「クラトスに横恋慕してるんだよ。ライバル出現が面白くないって訳。まあ、クラトスは迷惑がってたみたいだけどね。」
「うるさいぞ、ホルスタイン!」
「何だって〜〜!!」
「おい、よせよ、二人とも!」
 再び喧嘩を始めそうな二人に、ロイドが慌てて割って入る。
「ごめんよ、アンナさん。クラトス、まだあんな調子でがっかりしたろう?帰ってきてから何度もアルテスタさんに見てもらってるんだけど、どうしても原因が分からないんだ。エクスフィアにも要の紋にも異常は見られないのに、前みたいに仮死状態になったかと思ったら、今日のようにどこかにふらっと行っちまって、その繰り返しなんだ。」
「そう…」
「あ、でも、大丈夫だよ。だってアンナさんが来てくれたんだから。祖母ちゃんやブレイズだっている。きっとすぐに元に戻るよ。」
 暗くなったアンナを必死に慰めるロイド。
「…そうよね。きっと元気になってくれるわよね。……ごめん、私ちょっと外の空気吸ってくるね。」
 笑顔を浮かべそう言うと、アンナは静かに外へと出て行った。
「やっぱ、ショックだったんだろうな…。」
 そんなアンナを心配げに見送り、ロイドは呟いた。
「もう、治っていてもいい頃だもんな。」
「でも、あたしは、あの時…あたし達がアンナを襲おうとした時さ。クラトスはアンナさんを守ろうとしたんだと思うんだよ。だからあたし達の間に割って入ってきたんだ。あんな反応を示すなんて、初めての事じゃないかい?」
「しいな…」
「あたしは、アンナが来た事で何か変わりそうな気がするんだ。そう信じようじゃないか。あたしたちが諦めちまったら、駄目だろ?いつだって諦めない、それがロイドのいい所なんだからさ。」
「…そうだよな。今までだってもう駄目かって思った事、何度もあったもんな。俺達はクラトスに助けられた。だから今度は俺達がクラトスを助ける番なんだ。」
 ロイドの言葉に、ゼロスとしいなは頷いたのだった。



 外に出てきたアンナは木にその体を持たせかけペンダントを見詰めていた。目には涙が浮かんでいる。
 その脳裏にベティの言葉が浮かんできた。

 “二つの光は一緒になりたがってるよ”

 クラトス…もしかして、貴方も私を求めていたの?
 何も言う事が出来ない中で、必死に私に助けを求めていたの?

 太陽の光を受け、輝きを放つペンダントを見詰めていたアンナは、やがて決意したように顔を上げると涙を拭いた。
「今日限り涙はお預け。貴方を救うまで私は泣かない。今私が貴方の声に応えなくてどうするの。私はクラトスを守ると誓ったんだもの。メソメソしている暇なんてないわ。」

 必ず助けるから。そして二人で一つの光になりましょう。その輝きはベティが言うようにきっと綺麗に違いない。
 その光を見るまでは私は絶対に諦めない!

 新たな決意を胸に空を見上げるアンナの顔は、太陽に照らされ輝いていた。


−悲しき再会 終−