純粋な心


 昔、トリエルと言う、ハーフエルフの友人がいた。私は彼の事を唯一無二の親友だと思っていた。しかし彼は、そんな私の気持ちを裏切り、私に刃を向けてきたのだった。そして私は我が身を守る為に、彼をこの手で殺した。

 君の裏切りが悲しかった。怒りさえ覚えた。だが…。

 こんな事を言っても、君は信じないかもしれないが、でも、それでも私は君が大好きだったよ。君の純粋さ。未来を見詰める輝く瞳。私が捨て去った全てのものを君は持っており、そんな君と共に過ごしている時間こそが、あの頃の私にとっては、何よりも代え難い幸せな一時だったのだ。

 もう二度と、君のような人に会える事はあるまい…そう思っていた。
 それなのに……





 昼食の時間になり、クラトスとクリスが宿屋の食堂へと下りてくると、もうすでに満席状態であった。仕方なく外で食べようと、出口へ向かいかけた彼等であったが、
「あっ!クラトスさん、こっち、こっち!!」
 ざわざわとした中、一際甲高い声が聞こえ振り返ると、隅のテーブル席から立ち上がったミトス少年が、自分達に向かって勢いよく手を振っている。
「二人の席もちゃんと取っておいたよ。一緒に食べようよ。」
「…一緒に…食べる?」

 昨日自分は、あの少年に捨て台詞を吐いて去って来た。
 それなのに懐かれる理由が分からない。

 すると、戸惑った表情を浮かべているクラトスに、クリスが小声で言った。
「彼等と近付きになるチャンスじゃないですか。やはり同道した方が、確実に彼等を研究所へと連れて行く事が出来ますからね。プロット様もそう仰っていました。」
「…報告したのか?」
「はい。それが私の役目ですから。」
「……」
「クラトス様のお気持ちは分かります。今回は今までのようにただ捕まえて兵士に引き渡せばいいのとは違って、ご自身がハーフエルフと共に行動しなくてはならないですから尚更でしょう。しかし、今回だけは失敗は許されないのです。プロット様は、彼等ほど実験に適している人材は恐らく今後現れる事はないだろうと言っておりました。私はその実験がどんなものかは知りませんが、あのプロット様がそう言うだから、きっと彼等は貴重な研究対象なのでしょう。逃す訳にはいきません。」
 それからクリスは、ミトス達に向かって笑顔で会釈をすると、
「さあ、参りましょう、クラトス様。」
と、ミトス達の方へ歩いて行ってしまう。
 クラトスはそんなクリスの背中を眺めながらそっと呟いたのだった。
「気持は分かるだと?…フン、お前に一体何が分かると言うのだ。」

 こうしてクラトス達も加わる事となり、六人での賑やかな昼食が始められた。
「この宿屋の食堂は評判が良いらしくて、外部からも食べに訪れる人がいるみたいなの。だから、ちょっと遅くなると、こんな風に満席になってしまうのよ。」
「そうなんですか。それは知りませんでした。お陰で助かりました。」
 マーテルの話に、殊更愛想よく受け答えするクリス。
 クラトスはと言えば、むっつりと黙り込んだまま、皿の上の料理を突っついている。
「だって、あなた方はもう他人ではないのですもの。一緒に旅をして下さるのでしょう?」
 その言葉に、クラトスは思わずグランを見やった。グランは素知らぬ様子で食事を続けている。
 そんなクラトスの様子に気付いたマーテルは首を傾げた。
「あら、違ったのかしら?グランさんからは、お誘いしたら快く承知されたと伺っていたのですけど…」
 今度はクリスが驚く番だった。隣で黙っているクラトスを見ると、
「そんな誘い話があっただなんて初耳です。クラトス様、どうして話して下さらなかったのです?」
「誘いを受けた事は確かだが、私は承知などしていない。」
「何故ですか?どうせ行き先は同じなのです。旅は賑やかな方がいいでしょう?」
 クリスはテーブルの下でクラトスを突っつきながら同意を促すが、クラトスはそれを無視して、フォークを肉に突き刺している。どうやらクラトスは、あくまでも同道を拒むつもりでいるようだ。そこでクリスは、差し出がましいと思いながらも、彼の代わりにこの話を受ける事にしたのだった。
「願ってもないお話です。ぜひご一緒させて下さい。」
「大歓迎だよ!旅の仲間が増えて、嬉しいな。これから楽しくなるね!」
 ミトスは飛び上らんばかりであった。
「一人、不満そうな奴もいるがな…」
 ユアンが嫌味ったらしくクラトスの方を見ながらそう言ったが、マーテルは笑顔を浮かべると、
「きっとクラトスさんは照れ屋さんなのよ。本当は嬉しいのだけれども、それを素直に表現出来ないだけじゃないかしら。」
 クラトスは、マーテルの『照れ屋さん』との言葉に一瞬目を丸くするが、敢えて何も言う事はしなかった。その代わりにクリスが再び頭を下げると、
「これからよろしくお願い致します。」
「こちらこそ、よろしく!」
 ニッコリと笑って答えるミトス。
「そう言えば、クラトスさん達はシルヴァラントの人だったよね。もしかしてマナの木について何か知らないかな?」
「マナ…の木?なんですか、それは。私は知りませんね…クラトス様はご存知ですか?」
 クリスには全く覚えがない様子だった。
 クラトスはクリスの無知ぶりに溜息をついてみせると、説明を始めた。
「マナの木とは、この世界にマナの恵みを与えてくれていると言われている神木だ。だが、その姿はベールに包まれている。今各地で勃発している戦争も、このどこにあるのかも分からない幻の木をめぐってのものなのだ。お前も仮にも兵士ならば、そのぐらいの情報は頭に入れておけ。」
「成程、幻の木ですか。さすがクラトス様ですね。」
 クリスにはクラトスの嫌味も効いていないようで、しきりに感心している。
 すると、そんな二人のやり取りを聞いていたミトスが、堪らずに声を上げたのだった。
「幻なんかじゃない!マナの木は本当にあるんだよ!!」
 クラトスはミトスに視線を移すと冷たい声で言った。
「何故そう言い切れる?お前は見た事があるのか?」
「え?…そ、それは…。」
「そうだろう。世界中の人間が血眼になって探しているにも拘わらず、未だ手がかりすら掴めていないものを、お前などに見付けられるわけがない。それを、さも見て来たように言うのは止めるのだな。」
「確かに僕は実際に見た事はないよ。でも、あるんだ。マナの木は絶対にある。」
 それでもあくまで言い張るミトスを見て、クラトスは目を伏せると更に言葉を続けた。
「仮にお前が言うようにマナの木が実在していたとして、晴れてその前に立てたとしよう。それでお前は一体何をする気なのだ?」
「何って…それは…クラトスさんだって魔術が使えるのだから分かっているでしょう?今、マナはどんどんと減って来ているんだ。もしかしたらマナの木が弱っているのかもしれない。だから…」
「だからお前が治療してあげるのか?そんな事がお前に出来るとでも?」
「それは…」
 クラトスの尤もな意見に、言葉を詰まらせ俯いてしまうミトス。そのあまりのしょげぶりに、グランが助け船を出してきた。
「おいおい、そんなに苛めなさんな。この子らは、世界の為にマナの減少を何とかして食い止めたいという一心なんだ。それに確かにマナの木の存在はベールに包まれているが、お前さんだって全く信じていないわけではないんだろう?」
「ええ。もちろん私もマナの木の存在を否定するつもりはありませんよ。ただ私は、彼らの、自分達になら何でも出来るという思い上りが我慢できなかっただけです。」
「ぼ、僕は思い上がってなんていないよ。」
「自分ならばマナの木を救えると思い込んでいる…それこそが思い上りではないのか?」
 クラトスは、大袈裟に溜息をつくと立ち上がった。
「これ以上話したとて堂々巡りするばかりだな。どうやら私とお前達とは根本的に考え方が違うようだ。私はこれで失礼する。」
 そしてそのまま席を離れようとしたクラトスであったが、その途端激しい眩暈に襲われ、咄嗟にテーブルに手をつくと、ふらつく体を支えたのだった。
「クラトス様!?」
 クラトスは、驚いて差し伸べて来たクリスの手を押し戻すと、
「大丈夫だ。ちょっと立ち眩みがしただけだから。」
「でも、顔色が悪いわ。部屋まで送りましょうか?」
 マーテルも心配気に覗きこんでくる。
「部屋に戻るぐらいは一人で出来るからその必要はない。恐らく疲れただけだ。一晩休めば治るだろう。」
 クラトスはそう言いながらテーブルから手を放すと心配そうに自分を見ているミトス達を見回した。
「お前達に一言だけ言っておく。万一マナの木が存在するとしても、そこに我々が立ち入るべきではない。世の中には決して人が踏み入れてはならない領域というものがあるのだ。」
 そう言い残し、そのまま食堂から退出して行くクラトスを見て、ミトスは思わず立ち上がるとこう叫んでいた。
「だからって、このまま何もしないでいていいって言うの?そんなのおかしいよ。」
 だがクラトスは、そんなミトスの叫びにも歩みを止める事無く、食堂から出て行ってしまったのだった。

 クラトスの姿が見えなくなると、ユアンは呟いた。
「全く耳を貸そうともしないとは…ありゃあ、とんでもない石頭だな。あんたもあんな上司を持って大変だな。」
 クリスは小さくなってしまっている。
 すると、マーテルがポツリと言った。
「もしかしたら彼、何か知っているのではないかしら。なんだか彼の話を聞いていると、しきりに私達をマナの木から離したがっているような印象を受けたのだけれど。」
「そりゃあ、思い過ごしだろう。」
「そうかしら?まあ、その答えはいずれ分かる事かもしれないわね。…それよりも、さっきの立ち眩みが心配だわ。どこか体の具合でも悪いのかしら。ねえ、クリスさん?」
 いきなり話を振られたクリスは、ミトス達全員の視線を受け、どぎまぎとしてしまう。
「そ、そんな事はないと思いますよ。だって、ここに来るまでお元気そのものでしたから。どこか悪いようには見えなかったですね。」
 クリスの答えに、ユアンは肩をすくめるとマーテルを見た。
「ほら見ろ、マーテル。いつも一緒にいたクリス殿がこう言っているのだ。本人も言っていたように、単なる疲れなんだよ。」
「それならいいのだけれど…」
「あまり人の事ばかり心配していると今に白髪頭になってしまうぞ。さあ、あんな偏屈野郎は放っておいて食事を再開しよう。まったく…奴の所為で折角の料理が冷めてしまったではないか。」
 こうして一同は再び料理を食べ始めたのだったが、マーテルだけは未だ心配そうな表情を浮かべたまま、時折ちらちらとクラトスが去って行った戸口の方を見ていたのだった。




 一方クラトスは、自室に向かって廊下を進んでいた。その脳裏にミトスの言葉が蘇って来る。

 “だからって、このまま何もしないでいていいって言うの?そんなのおかしいよ。”

 そんな事は分かっている。私だって、幼き頃“あの人”にマナの木の前へと連れて行かれたあの日から、自分は何をするべきなのかをずっと考えてきたのだ。しかし、私の力ではどうしようもなかった。自分の無力さを嘆く事しか出来なかったのだ。

 今でも分からない。
 何故“あの人”が私にマナの木を見せたのか。
 何故私だったのか?
 一体“あの人”は私に何を求めているのか。
 いくら考えても分からないのだ。私はこんなにも無力だというのに…。

 そんな事を考えながら、クラトスは眩暈と必死に戦いながら廊下を進み続けていた。壁を伝うようにしてふらふらとしながら歩く様は、まるで酔っ払いのようで、他人には絶対に見られたくない姿だった。しかし、ちょうど昼食時間だった事が幸いして、誰にも見られずになんとか部屋まで辿り着く事が出来たのだった。

 まさか、あのような所で例の発作が出ようとは思わなかった。薬の効いている時間が確実に短くなってきている。
 とにかく今はこの状態をなんとかしなくては。
 早く薬を……。

 クラトスはほとんど這うようにして奥の寝室へ向かった。そして薬が入っている荷物へと手を伸ばしたのだが、どうやらそこまでが限界のようだった。
 一瞬視界が歪んだと思うや否や、ついにクラトスはそのまま意識を失ってしまったのである。



 気が付くとクラトスは静まり返った闇の中にいた。全身を黒い蛇のようなものに締めつけられている。

 またこの夢か…。

 それは最近何度となく見る夢。
 この夢は嫌いだ。時々、これは夢なのか現実なのか分からなくなる。

 痛くて苦しくて、悲鳴を上げて助けを呼ぶが誰も来てはくれない。真っ暗な闇の中、クラトスは一人ぼっちだった。
 それでもクラトスは助けを呼び続ける。それは、まるで子供のような口調だった。

 苦しいよ。
 助けて、アマンダ。
 助けて、ブレイズ。
 誰か…誰か…。

 だがいくら叫んでも、やはり誰も来てはくれず、あまりの寂しさから思わすクラトスの目から涙が零れ落ちた。
 だんだんと意識が遠のいて行く。

 ああ、このまま死んでしまうのだろうか…。

 そんなクラトスが最後に呼んだ二人の名前…。
 その声は本当に小さな呟きにも似た声であったが、しんと静まり返った空間に確かに響き渡ったのだった。

 助けて…父さま。
 助けて…母さま。



 「おい、クラトス…クラトス!」

 突然聞こえて来た声に、クラトスの意識は現実へと引き戻され、薄らと目を開いた。
 誰かが運んでくれたのだろうか。いつの間にかクラトスの体はベッドに横たえられている。
 すると、まだぼんやりとした状態のクラトスの耳に再び声が聞こえて来た。

「やっとお目覚めかい」

 この声には聞き覚えがある。いつでも優しく自分を包み込んでくれるこの声の主は……。

「え?…ブレイズ?」
 ハッとして目を見開くクラトス。
 自分を覗きこんでいるその顔は、まさしくブレイズであった。
「まったく。部屋に来てみたらぶっ倒れているものだから、ホント驚いちまったぜ。随分とうなされていたが、何か怖い夢でも見ていたのか?」
 そう言いながら、そっとクラトスの頬を伝っている涙をすくい取るブレイズ。
 クラトスは顔を赤らめた。
「ゆ、夢なんて見ていない。それより、なんであなたがここに?」
「そろそろ無くなる頃だろうからって、ベンが薬を送って来たんだ。それを届けに来たってわけ。もう少しの辛抱だ。あいつ、ようやくドワーフを見付けたみたいで今向かっているそうだから。」
「…そうか。」
「もっと喜ぶと思っていたんだが、なんだかどうでもいいって顔だな。」
「…そんな事はない。」
「そうか?まあ、いいけどさ。それとクリスは俺と入れ替わりに帰ったぜ。色々と報告する事があるみたいでさ。」
 クラトスは目を伏せた。
「…例のハーフエルフ達にも会ったぜ。お前の事をとても心配しているようだった。」
「私が倒れた事を話したのか?」
「お前ったら、丸一日眠っていたんだぜ。その間に様子を見に来ちまってさ。話すしかなかったんだ。仕方がないだろう?なんでも、これから一緒に旅をする事になったそうじゃないか。」
「それはクリスが勝手に決めた事だ。」
「ふ〜ん…て言う事は、お前は嫌なんだ?お前が仕事に対して文句を言うとは珍しいな。」
「別に文句を言ったわけではない。ただ…」
「ただ?」
「……」
 ブレイズは、黙りこんでしまったクラトスが次の言葉を言うのを静かに待った。それはいつもの事だった。クラトスは自分の気持ちを他人に話す事をしない。だが、ブレイズに対してだけは例外で、こうしてじっと待っていればやがて話し出してくれるのが常だった。
 案の定、しばらくの沈黙の後、クラトスはようやく重い口を開いたのだった。
「…研究所に連れて行けば確実に彼等は死ぬ事になるだろう。それが分かっていながら、私は彼等を騙し連れて行こうとしている。あのように純粋に夢を追い求めている彼等を見ていると、そんな自分がだんだんとひどく醜い生き物のように思えてきて苦しくなるのだ。」
 ブレイズは、クラトスが昔の友人であるトリエルとミトス達を重ねているのだと直感した。

 クラトスはトリエルに対しても同じような思いを抱いていたのだろうか?
 自分の醜さを思い知らされ、苦しんでいたのだろうか?

 クラトスは話続けていた。
「だからといって、彼等を信じる事も出来ない。怖いのだ。信じて裏切られた時、そのショックは倍になって跳ね返って来る。ブレイズ。私は一体どうしたら…」

 やはりクラトスはトリエルの事を考えているようだった。あの事件はクラトスの心に未だ深い傷を残しているのかもしれない。
 きっとクラトスは、今回の件から逃げ出す事に対して俺に同意を求めているのだろう。逃げ出したくなる気持ちも分らないでもない。だが、それじゃあ駄目なんだ。辛いからって逃げちまったらそれからもずっと逃げ続けなければならなくなる。

 そこでブレイズは、一瞬躊躇したしたものの、敢えてクラトスを突き放す事にしたのだった。
「残念だがそれは俺が決めてやれる事じゃない。」
 その答えに、クラトスは目を見開くと俯いてしまう。
 ブレイズは苦笑を浮かべると、その額を小突いた。
「そんな顔をするんじゃねえよ。冷たいように思えるかもしれないが、別に俺は意地悪をしているわけじゃないんだぜ。これはお前自身の問題なんだ。例え俺が言った通りにやったところで、それはお前が納得して行った事じゃない。それじゃあ後々悔いが残っちまうに決まってる。そうだろう?どんなに悩もうとも自分で答えを出さなければ意味がないんだよ。」
「……」
「ただし、俺はお前が出した結論には無条件で従うぜ。彼等を連れて行きたくなければそうすればいい。クリスの野郎は俺に、お前があのハーフエルフ達と必ず一緒に旅をするよう説得してくれだなんて言い置いて行ったが、あいつの命令を聞かなきゃならない義理なんて俺にはないからな。お前だってそうだ。何も無理してまでファルスの命令を聞くこたあない。自分がやりたいようにやればいいんだ。だからクラトス。焦らなくたっていい。もう一度じっくりと考えてみろよ。お前が望んでいる事は何なのか。本当はどうしたいのかをな。」

 (私の望み?)

 クラトスが答えを出すのを黙って待つブレイズ。そうしてどれぐらいの時が過ぎただろうか…クラトスはようやくゆっくりと顔を上げると、ブレイズを真っ直ぐに見詰めて来たのだった。
「答えは出たのか?」
 頷くクラトス。
「私の望みはただ一つ。それはアマンダを人の姿に戻したいという事。その為だけに私は今まで生きて来た。だから私は彼等を研究所へと連れて行く。アマンダの為に。」

 そうだとも。それこそがずっと昔から私が抱いて来た夢。
 その為の犠牲は仕方がない…そう、仕方がない事なのだ。

 まるで自分自身に言い聞かすようにそう宣言したクラトスを見て、ブレイズは僅かに目を伏せると、
「そうか。それがお前の出した結論ならば、俺はそれに従うだけだ。」

 本当はブレイズはそんな答えを期待していたわけではなかった。なによりクラトスの表情にはまだ迷いが見える。

 (ま、あとは成り行きに任せるしかないか…。)

 そしてブレイズは、じっと虚空を見詰めているクラトスの顔を眺めながら、そっと呟いたのだった。
「俺はお前を信じているぜ。」


 その翌日、クラトスはミトス達と共にシルヴァラントへ向けて旅立ったのであった。
 彼等を死へと導く案内人として…。


−純粋な心 終−