ファルス研究所の闇


 ファルス研究所の中は大きく三つに分けられている。
 一つは日常部門。
 ここは国民の日常生活に密着した研究を行う部門で入口近くに配置されている。この部門では月に一回、主に子供達や学生を対象にサイエンスフェスティバルというものを開催しており、彼等に化学の面白さを伝える事で未来の化学者を育成する手助けをしているのであった。
 これはファルスが長年抱いていた夢であった。今ではあらぬ方向へ進んでしまっているファルスであったが、本来の彼は、化学とは人々の夢や幸せを実現する為に存在するものだとの考えを持っていた。人々の暮らしを豊かにするには化学が必要不可欠であり、それには将来この国の化学部門を牽引していけるような優秀な人材を育てる事が最重要項目であると考えていたのである。いわばこの日常部門はファルスの理想を実現したものであり、ファルス研究所の本来あるべき姿であるのかもしれない。
 しかしながらその理想を叶える為にファルスは多くのものを犠牲にして来なくてはならなかった。きれい事ばかりではやっては行けない事を思い知らされ、汚い事にも手を出し続けて来た。そんな闇の部分の象徴とも言えるものが、この日常部門の奥に存在する。
 もちろんその事をフェスティバルに訪れた人々が知る事はない。彼等が入る事が出来るのは日常部門があるエリアのみに限られていた。エリア最奥には監視塔が築かれており、紹介状なしにはその奥へ立ち入る事は出来ないようになっていたのである。
 その監視塔をくぐると、そこにはいくつもの研究棟がまるで団地のように立ち並んでいる光景が目に入って来る。これがファルス研究所の闇部分、軍事部門と呼ばれるエリアであった。
 ここでは日常部門とは打って変わって、殺人目的の兵器の開発が行われている。その研究内容は奥に行く程機密性を増し、それに伴い建物の内部も複雑な構造となって行く。これは偏に外部からの侵入者への漏えいを防ぐ為のものであり、攻撃機能を備えたセキュリティシステムも完備されていた。現にそのセキュリティシステムによって命を落とした敵国のスパイが何人もいるという、まさにここは最新鋭ロボットの内部と言っても過言ではない、命を持った建物なのである。

 そんな研究棟の中を、今ミトス達はプロットの案内で進んでいた。
「セキュリティが万全なのは結構な事だが、我々はこの研究所の者ではないのだぞ。まさか攻撃されるなんて事はないだろうな?」
 プロットの説明に不安そうに辺りを見回しながらユアンが言った。
「ハッハッハッ、大丈夫ですよ。研究所の者が同行していれば攻撃などして来ません。」
「そうなのか?」
「ええ。もちろんそれでも外部の者を入れるにはそれなりに厳しい審査を受けなければなりませんが、あなた方はファルス様のお客様ですからね。それもフリーパスで済んだわけです。」
「ふ〜ん…」
 プロットの“お客様”という言葉に複雑な表情を浮かべるユアンであったが、一応納得したようであった。
「ところでどうです、我が研究所はお気に召しましたかな?これだけの規模の研究所は世界にもそうはないでしょう。」
 誇らしげにそう言うプロットを見て、ミトスは眉を顰めた。
「素晴らしいとは思うよ。最初に見せてくれた日常部門だっけ?…あそこに限ってはね。」
「おやおや、ミトスさんにはこの軍事部門がお気に召さないと?」
「平和の為だなんて言っているけれど、所詮人殺しの道具を作っている殺人工場じゃないか。」
「これは手厳しい。」
 ミトスの言葉に愉快そうに笑うプロット。
「それに兵器の動力源に使われているのはマナだ。あなたもハーフエルフならこの世界のマナの状態が分かっている筈だよ。こんな事で大量にマナを消費していたら今に世界が滅びてしまう。」
「ええ、もちろん分かっておりますとも。ですがマナに代わるエネルギーがない現状、使わざるを得ない。そうではありませんか?」
「でもっ!」
「世の中は力が全てなのです。力を持たぬ国に未来はない。さもなくば敵国に攻められあっという間に滅ぼされてしまいますからな。それに我が国は現在総力を挙げてマナの木の所在を探索中です。それが見つかれば世界の国々を我が国の元に跪かせる事が出来る。」
「!!…マナの木はこの星に生きる全ての命の源なんだ。そんな一国の利益の為に利用するべきじゃないよ!」
「一国の利益の為ではありませんよ。私共はこの世界を一つにしようとしているのです。そうなればもうマナを巡る争いが起きる事もなくなり、世界が平和になる。マナの枯渇問題も解決出来るでしょう。我々は世界の平和の為に動いているのです。それがひいてはこの星の為になる。確かあなた方も同じような理想を描いて旅をしていると聞いていたのですが違いましたかな?力なき正義などあり得ませんよ。少なくとも私はそう思っています。」
「……」
 黙りこむミトス。
 確かに力がなくては間違いを正す事など出来ないのかもしれない。プロットの言う事は正論であり、自分達の理想と同じもののように思えた。だがそう思う一方で、何かが違うと声を上げている自分もいた。彼の掲げる正義には決定的な何かが欠けている。しかし、今のミトスにはそれが何なのかが分からず、反論出来ずにいたのであった。
 辺りに重苦しい空気が漂い始める。
 それを破るかのようにユアンが口を開いた。
「ところでファルス殿はどこへ行ったのだ?ここを案内すると言い出したのは彼ではなかったか。」
「ファルス様にはちょっとした別の用事がありましてね。それを済ませてから、例の目玉商品のある所で合流すると申しておりました。」
「ふ〜ん…やはり所長ともなると忙しいのだな。」
「ええ。申し訳ありません。」

 そんな話をしながら歩いていた四人は、いつの間にか研究棟の出口まで辿り着いていた。
「軍事エリアはここまでとなります。」
 そう言いながらプロットが扉を押し開くと、目の前には綺麗な中庭が広がっていた。
「この景色…見覚えがあるな…」
「ええ、そうでしょうとも。」
 プロットはユアンの呟きにニッコリと笑うと奥を指差した。その先には大きな屋敷があり、更にその奥には巨大な建物が見える。
「手前の屋敷がファルス様の邸宅です。その奥に見えるのが先程まであなた方がいた建物というわけでして。あれはこの研究所所属の軍隊であるファルス隊の本部となっております。いわばこの研究所の守りの要ですな。」
「そうか。ここはあの部屋の窓から見えていた景色というわけだな。」
「ええ、そうです。軍事エリアはこの中庭まで。あのファルス邸からが我が研究所の第三のエリアとなるわけでして、あのエリア内に入る事が出来るのはファルス隊の隊員と研究員の中でも一部の者だけで、あとは立ち入りを許されておりません。従ってあの門を出入りするには色々と面倒でしてね。フリーパスのあなた方でもいくつもの検問所を通らねばならない。ですから今回は特別に地下を通ってエリア間を移動したというわけです。」
「あそこにその目玉商品とやらがあると言うのか?ならばそんなしち面倒な事をせずに初めから目玉商品がある場所へ案内してくれればよかっただろうに。」
「それはあなた方にこの研究所の事をよく知ってもらいたいと思ったからですよ。あなた方は私共の研究を誤解されているようでしたから。」
「今だってそれは変わらないわ。それどころかあの軍事エリアを見て余計に不信感を募らせたぐらいよ。」
 プロットはマーテルの嫌味を鼻で笑ってさらりと受け流すと、ちらりと腕時計を見た。
「それともう一つ、それがあるのは封印の間と呼ばれている最奥に位置する部屋でしてな。普段は誰も立ち入る事はなく、その存在を知る者も研究所の中でもトップクラスの者だけという代物なのです。ですから色々と準備の時間が必要だったわけなのですが、そろそろその準備も整った頃でしょう。時間もいいようですし封印の間へ向かうとしましょうか。実は私もあの部屋に入るのは久し振りでしてね。楽しみにしているのです。」
 プロットはそう言って不気味な笑みを浮かべると、ミトス達を連れ封印の間へと向かったのだった。


 それからミトス達はファルス邸を抜け、自分達が軟禁されていたファルス隊本部ビルに戻って来た。
 正直ミトス達は、隊本部とは言え一研究所が有する軍隊の事。兵士の数も一個小隊ぐらいだろうと高を括っていたのだが、とんでもなかった。要所要所に立てられている警備兵やこれまですれ違った兵士の人数から想像するに全体ではかなりの数に上ると思われ、まるで城の中にいるかのようであった。
 そんなミトス達の驚きを感じ取ったのだろう。プロットが笑みを浮かべながら説明した。
「最初は私設の傭兵隊のようなもので、これ程の人数はいなかったのですよ。ですが我が研究所も今では国家機密を扱うまでに成長しましたからね。陛下が国軍から兵士を割いて下さったのです。」
「それにしたってこれだけの人数を束ねるのは素人では難しいだろう。私も一時軍に所属した事もあったが、軍隊なんてものは大人しいのばかりじゃないからな。一癖も二癖もある輩もいるはずだ。特にこんな一研究所に回される兵なんて言うのは尚更…」
 そこまで言ってしまってから、ユアンはプロットの視線に気付いて慌てて言葉を飲み込んだ。
「い、いや、失礼…」
「いえ、いいのですよ。そう思うのも当然ですからね。確かに当初は酷いものでしたよ。喧嘩を始めるわ、命令は無視するわでね。」
「…では、指揮官も回してもらったのか?」
「そんな事をして貰わずとも、うちにはクラトス様がいましたからね。さすがと言おうか、あれだけバラバラだった隊もあっという間に束ねてしまいましたよ。」
「クラトスさんが…」
 ポツリと呟くミトス。
 そう言えば前にグランが、クラトスはあの若さで中隊長にまでなった逸材だと言っていたのを思い出した。確かにそんな彼ならば軍を束ねるなど容易い事だろう。だがそうなると、この研究所が行っている死の商人の如き研究に彼も関わっていた事になる。それはミトスが知っているクラトスからは到底想像出来ない事であった。
 しかし、まだ自分はクラトスと言う人間の全てを知っている訳ではない。もし彼が実は自分が想像しているような人間ではなかったとしたら…。

 そこまで考えて、ミトスは慌てて頭を振った。

 何を考えているんだ、僕は!
 あの人を信じるって決めたばかりじゃないか。
 そうさ、そんな筈はない。クラトスさんはそんな悪い事をするような人じゃない!

 だがその一方で、ミトスは、クラトスが時折見せる翳りのようなものを思い出し、だんだんと不安になって行くのを覚えていた。


 プロットの案内で更に奥に進んで行くと、あれだけいた兵士達の姿も稀になり、それに対して通路は徐々に薄暗くなり複雑さを増していった。
「この先はもっと暗くなっていきますから、くれぐれも逸れないようにして下さいね。」
「まるで研究棟に舞い戻ったみたいね…。」
 先程見学して来た研究棟を思い出し、マーテルが呟いた。あそこも研究データを守る為との事で通路が複雑になっており、かなり薄暗かったのだが、ここはその上を行っている。
「そりゃそうでしょう。ここも研究施設ですからね。」
 そんなマーテルの疑問に事もなげに答えるプロット。
「え…でもさっきは隊本部だと…」
「今まで通って来たのは確かに隊本部ですよ。しかしここからは第三の研究部門施設になるのです。尤も研究所の殆どの者がこんな場所がある事を知りませんがね。」
「…どういう事?」
「フッ…今に分かりますよ。何故国家の元首たる陛下がこの研究所にこれ程までに肩入れするのかもね。」
 プロットの言葉に思わず顔を見合わせるミトス達。どうやらこの研究所にはまだまだ秘密がありそうであった。

 そして複雑な通路をいくつも曲がりながら更に奥へと進んでいたミトス達はやがて大きな扉の前へと辿り着いたのだった。どうやらここがその封印の間のようで、扉の前にはファルスがミトス達の到着を待ち構えていた。
「やあ、来ましたね。お待ちしておりました。で、我が研究所はいかがでしたかな?」
「どうやらお気に召さなかったようですよ、ファルス様。特に軍事部門がね。」
「おやおや…」
 面白そうにミトス達を眺めるファルス。
「当たり前じゃないか。人体実験も平気でやっているようなところ、気に入るわけがない。」
「しかし、開発した兵器の効果や周りへの影響を見る為にも実験は必要不可欠ですからね。致し方ない事なのですよ。それに実験に使われているのは刑の確定した罪人ばかりですから。」
「例え罪人だって、命を弄ぶなど許される事ではないわ!」
 非難の声を上げたマーテルに目をやると、ファルスは肩を竦めた。
「何を怒っているのか理解に苦しみますな。人体実験と騒いでいますが、よく考えてみて下さい。皆さんの命を救う新薬も人体で実験してから市場に出て行くのですよ。それと何が違うと言うのです?」
「そんなの屁理屈だ!命を救う薬と殺人の道具である兵器は違うよ!」
「どこが違うと言うのです?薬でも兵器でも、人体で実験している事に代わりはないでしょう。それなのに薬は許され、兵器は許されないと?私からすればあなた方の方が屁理屈を言っている気がしますがね。まあいいでしょう。考え方は人それぞれですからな。しかし、そんな空論を唱えているあなた方では、中の物はちょっと刺激が強すぎるかもしれませんね。やはり見るのは止めにしておきますか?」
「…いいえ。見せてもらうわ。」
 揶揄するように言うファルスに挑戦的な目を向けるマーテル。
「その扉の奥にあるものがこの研究所の真の姿…そうでしょう?だったらそれを見届けなければこの研究所の全てを知った事にならないもの。」
「フフ…これはまた頼もしい。まあ、後悔しない事を祈っていますよ。」
 ファルスは笑いながら重い扉を押し開くと、三人のハーフエルフ達を中へと招き入れたのだった。

 部屋の中はミトス達が想像していたものとは違って、真ん中に三体のカプセルが置かれているだけというガランとしたものだった。
 ファルスに促され、ゆっくりとカプセルに近付くと中を覗き込むミトス達…と、それと同時に一様に目を見開くと叫んだのだった。
「なっ!?…こ、これは!!」
 カプセルと言うからには人が入っている事は容易に想像出来ていたのだが、それはあまりにも無残な姿だったのである。
 まず驚いたのは全身が異様なまでに焼け焦げている事。それだけではない。体の至る所にメスによって付けられた傷があり、胸にはなにやら黒ずんだ石が埋め込まれている。しかしその石も一体においては見当たらず、えぐり取ったような穴だけが残っていた。
「酷い…」
 両手で口を覆い思わず目を逸らすマーテル。
 ミトスは呆然と見詰めたまま、
「この人達、ハーフエルフだよね。死んでいるの?」
「いえ、生きています。生きてはいますが、意識はおろか全身の感覚もなく、無論話す事も出来ない。いわば植物状態ってところでしょうか。事故に遭い瀕死状態だったところを私の技術で命だけは繋ぎとめたのです。心ならずもこんな状態になってはしまいましたが、そのまま放っておいたら恐らくは死んでいたのでしょうから、むしろ感謝して欲しいぐらいですよ。仰る通りこの三人は我が家にいたハーフエルフの奉公人たちです。確か名前はララにベルにランスと言いましたか…」
「だからってこんなにする事はないじゃないか!!」
 ユアンがファルスを睨み付け怒鳴り声を上げた。
「意識がなければ何をしてもいいと言うのか?それとも彼等がハーフエルフだからか?これじゃあまるでモルモットだ。こんな風に体を切り刻まれるぐらいなら死んだ方がましだっただろうよ。」
「そうよ。酷過ぎるわ!…プロットさん。あなただってハーフエルフでしょう?それなのにこの三人の姿を見て怒りを覚えなかったの?」
「何故怒る必要があるのです?彼等は植物状態になってなお化学に貢献できたのです。喜ばしい事ではありませんか。
 あなた方は自分の持つ能力が実際には本来の僅か数パーセントしか発揮できていない事をご存知ですか?残る90パーセントもの力は表に出る事なく眠ってしまっているのです。人は、自分が持つ力がいかに強大で、その全てを出してしまっては肉体が持たないだろうと本能で知っている。だから自ずとセーブしているのですな。ですから100パーセントの力を引き出す事など不可能だと言われて来た。
 ですが、それを実現出来るのがその三人の胸に埋め込まれている石なのです。それはエクスフィアと言って、装備した者の持つ力を最大限まで引き出してくれる魔法の石。しかも同時に肉体も強化され、100パーセントの力を出しても耐えられるようにもしてくれる…現代の化学力全てを注ぎこんで作り上げたまさに夢の結晶とも言えるものなのです。言ったでしょう?力のない国は滅びを待つだけだと。まだ試作段階ではありますが、それが完成すれば我が国はとてつもない力を得る事が出来る。そしてそのエクスフィアはそのカプセルの中にいるハーフエルフ達がいたからこそ生まれたのですよ。素晴らしい事ではありませんか!」

「それがあなたの言う正義なの!?そんなの変だ。」

 熱に浮かされたように熱弁を振るうプロットに、堪らずミトスが叫んだ。
「僕達ハーフエルフは人間の暮らしを豊かにする為の道具じゃない。僕達にだって心がある。人間と同じように夢や希望を持っている。幸せになりたいって願っているんだ。それなのに……人間なんて汚い!自分達の事しか考えていないじゃないか!!」
「ミトスの言う通りだ。ハーフエルフになら何をしても許されるなんて事はない。これは立派な殺人だ。」
「そうよ。これじゃあこの三人があまりにも可哀そう過ぎるわ。」
 ファルスは黙ってミトス達の言葉を聞いていたが、やがてつかつかと歩いて行くと、奥の個室に続くドアを開いた。
「聞いたか、クラトス?これが彼らの本性だ。」
 その言葉に、驚いてそちらへと目をやるミトス達。そこから姿を現したのはクラトスとブレイズだった。

 まさかクラトスさんにこの会話を聞かせる為に僕達をここに?……いや、それでも構わない。クラトスさんなら僕達の気持ちを分かってくれるはずだ。だってクラトスさんはハーフエルフだからって僕達を差別したりしなかったもの。

 しかしそんなミトスの思いとは裏腹に、クラトスの自分達を見る目は冷めきっていた。それは初めて会った時の彼の目と全く同じであった。ミトスの中で訳の分からない不安が頭をもたげてくる。
 そんな黙り込んでしまったミトスに代わって今度はユアンが口を開いた。
「今、本性と言ったな?それはどういう意味だ?」
「本性とは本心の事。つまりあなた方も所詮はただのハーフエルフだったと言う事です。」
「それでは説明になっていないではないか。確かに私達はハーフエルフだ。だからってそれが何だと言うのだ。」
「あなた方が分かる必要はないのですよ。クラトスが分かればそれでいい。どうだ、クラトス。その様子ではよく分かったようだな?」
「……はい、父上。」
「クラトスさん?」
 信じられないといった様子でクラトスを見詰めるミトス。
「さて、ショーも終わりだ。目的は果たせましたからな。」
「目的?…それはどういう事だ!?」
「知れた事。あなた方をここへ連れて来たのは、偏にクラトスにあなた方の真の姿を見せるが為。これでこいつの目も覚めた事だろう。」
「だから、それじゃあ意味が分からん…」
 ファルスはユアンの抗議をあっさりと無視すると、その言葉尻に被せるように、
「あ、そうそう。忘れるところでした。こちらからも何か情報を与えてあげませんとね。あなた方の本音を聞いただけではフェアではないですものな。」
「待て、ファルス!」
 ファルスの意図を感じ取り、慌ててブレイズが止めに入ったが、ファルスは構わず先を続けた。
「その三人を瀕死の状態にまでした張本人は、ここにいるクラトスなのですよ。」
「嘘だ!出鱈目を言うな!!」
「いいえ、嘘ではありません。それどころかクラトスは今まで実験に使う為に何人ものハーフエルフを狩って来たのです。」
「クラトスさんがハーフエルフ狩りを?……嘘だ!!…ねえ、嘘だよね?嘘だと言ってよ、クラトスさん!」
 縋るようにクラトスを見るミトス。だが彼から返って来た答えはミトスが望むものとは違っていた。彼は真っ直ぐにミトスを見詰めはっきりとした声でこう答えたのだった。
「いや、本当だ。私はこの手で何人ものハーフエルフを殺してきた。」
 目を見開くミトス。

「フ…もういいだろう。お互いに真の姿が分かってよかったではないか。ではここらでもうお開きとするか。プロットとブレイズはその二人を地下牢に。クラトスはお嬢さんを例の部屋へ連れて行け。」
「待てよっ!何故姉様を別にするんだ!!」
「何故?…それは君のお姉さんこそが今回の目玉商品だからですよ。さあ、早く連れて行け!」
「何だよそれ。一体どういう事なんだよ……嫌だ!離せよ!…姉様を返せ!!」
「ほら、いい子だから静かにしないか。」
 暴れるミトスを抱え込むように外へと連れ出すプロット。
 ブレイズもユアンの腕を掴むと後に続く。部屋を出る直前、チラリとクラトスを見やったのだが、クラトスは無表情に虚空を見詰めたままで、ブレイズは溜息を突くとそのまま退出して行ったのだった。
「クラトス。」
 そんな彼等に続いてマーテルを連れて部屋を出ようとしたクラトスを、ファルスが呼び止めた。
「…まだ迷っているようだな。本性を知ってもなお、そいつらに肩入れするか?」
「……」
「では決定的な事実を伝えるとしよう。彼女を部屋へ連れて行ったらアマンダの部屋へ来い。分かったな?」
「…はい。」
「よし。では待っているぞ。」
 クラトスは一礼して部屋を出て行った。
 その姿を見送り、ファルスは大きく息を吐き出した。

 これがクラトスにとってどれ程残酷な事か分かっている。
 自分達がしている事が如何に非人道的な行為かも…。
 だが、もう時間がないのだ。
 あの惨劇の日以来、私は心に誓った。例えこの手を血に染める事になろうとも、必ずやアマンダに失った肉体を取り戻して見せると…。

 その願いが叶ったその時こそ、私は…。


−ファルス研究所の闇 終−